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無能な神の寵児  作者: 鈴丸ネコ助
異世界転生篇
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第9話 第二の誕生

旅をしている中で創造神を祀りながら教えに反することを行っている信者が少なからず存在し、だんだんと呆れ始めていた。そんな中、一人の人間と出会う。


「ある愚かな人間との出会いで創造神は知ってしまった。人間が感じている愛しさや高揚する気持ち、愛が一体どんなものなのかを」


その人間は孤児だった。幼く物乞いをしてなんとかその儚い命を繋いでいる存在。そんな人間はそれこそ星の数ほど見てきたはずだった。だが、その小さな生命に、小さくとも眩いほどに輝いている魂に創造神は魅せられた。


「寝食を共にし、その愚かな人間が成人したころ、契りを交わした。生きとし生けるものすべてに平等に愛を与えるべき創造神がただ一人の人間を愛し、世界そのものを放置してでも、共に生きたいと願うようになった」


しかし、それを許す神々たちではなかった。

期限を過ぎても一向に戻ってくる気配のない主に業を煮やし様子を見てみると、たった一つのちっぽけな存在を愛し、幸せそうに過ごしていた。本来、世界の運営をすべきだというのに。


「神々たちは叛乱を起こし、創造神そのものを消そうと企んだ。だけれど、生みの親である存在に勝てるわけもなく、彼らにとっては本気でも、創造神にとっては世界の運営をしながらでも片手間で相手ができる程度のことだった」


だが、管理するものがいなくなったことで創造神は自らの手で世界を動かさなければならないようになる。


「管理する存在がいなくなれば世界そのものは崩壊し始める。しかたなく、創造神は世界の運営をするために神々の住まう庭、神界へと戻る決意をする。そして、自分の愛した存在に老いることのない肉体と一世紀の寿命を授け、必ずまた戻ると約束して、去っていった」


まるで過去を懐かしむかのように目を閉じていたフィリアはふと、目を開け、目の前のシノアに問い掛けた。


「創世記と、この世界の神々、人間ができた事柄については以上だけど、質問はある?」

「えっと…さっきの話すごく身近なことみたいに話してた気がするんですけど…もしかしてフィリアさんって―」


神々の一人、という言葉を口にしようとしたがフィリアの人差し指がそれを阻止した。


「それ以上はダメ、でもそうだね、いつか時が来たらわかるんじゃないかな」


微笑みながらそう言いフィリアに思わず見惚れるシノア。

ごまかすようにほかの疑問をぶつける。


「わ、わかりました。ところで、亜人族が出てこなかったんですけど、亜人族ってどうして生まれたんですか?」


先ほどのフィリアの話には人間族、そして魔人族の始まりしか出てこなかった。亜人族の種族としての誕生が出てこなかったのだ。

フィリアは少し迷う素振りを見せると―


「うーん、そこがちょっと複雑でね。エルフやドワーフは、元は下級神や中級神と人との間の子…半神半人(デミゴット)と呼ばれる種族の血が薄まったものだといわれているの。特にエルフはたまに先祖返りを起こしてハイエルフが生まれることがあるんだけど…まぁそれはいいかな。人型の魔物で有名なゴブリンは火の下級神、サラマンダーと人の混血が薄まり過ぎた結果生まれたものだとされていたりするよ。ほかにも猫人族や蜥蜴族なんかもいるけど…このあたりは魔物との混血だとか、魔神によって生み出されただとか、詳しいことは今でもわかってないんだよね」


創世記のことも交えながら教えてくれた。


「なるほど…それにしてもフィリアさんって物知りですよね」


納得しながらフィリアの博識さに感心するシノア。


「こう見えて旅を始めて長いからね。いろんな国のいろんな書物を読んだことがあるんだ。おかげで世界中の言語に対応できるようになったよ」


どやぁ、という福音が聞こえてきそうなほどいい決め顔をするフィリア。

そこで、思い出したようにふと、フィリアに聞くシノア。


「あ、そういえば、どうして僕フィリアさんと普通に会話できてるんだろう…召喚されてすぐはこの世界の言葉、全然分からなかったはずなのに…」


自分たちを召喚したメリギトスやステータスチェック用の魔道具を差し出してきた兵士長、自分を運んだ兵士は“語らいの指輪”を装備していたため、話すことができた。シノアの知ることではなかったが、城にいた兵士やメイドのほとんどはこの指輪を装備していたため、シノアたち召喚者と言葉を交わすことができた。だが、フィリアはそんな指輪をつけている素振りはない。

いったいなぜ、とシノアが疑問に思っていると―


「たぶん、これのおかげかな」


フィリアがそばに置いていた錫杖を手にする。


「これはね、“創成の杖”っていって、持っているだけで体に補助効果が付くし、言語翻訳機能もある、結構便利なんだよ?」


なんでもないように言っているがこの杖はとんでもない。

まず、補助効果、というがこれは最高位の補助魔法とほぼ、同等の効果を発生させる。この時点でかなりぶっ飛んだ性能だが、ほかにも自動回復機能、自己修復、魔法補助、筋力補正、隠密効果、…etcなどなどチートという言葉すら生ぬるい性能である。

これ一本で戦争そのものの概念すら変わりかねない、とんでもない代物だった。

そんなことを知らないシノアは―


「へー便利なんですね…」


程度にしか思わなかった。


「さ!もういいかな。そろそろ君の第二の誕生を始めようじゃないか」

「そ、そんな大げさな…」

「まぁまぁ、そこは雰囲気だよ。それでもう色は決めた?」

「うーん…」


シノアは中学二年生だ。この年で髪の色を変えるなど想像もしていなかったため、いきなり何色がいいなどと言われても戸惑うだけだった。

そして何色にするか迷っているとふと、フィリアとの出会いを思い出した。

月の光を反射して美しく輝く白金色(プラチナブロンド)の髪。さすがに同じ色にしてほしい、などとは言えないが、ならばと一種の覚悟(?)を決めてフィリアに告げる。


「そ、それじゃ銀色でお願いします」

「銀?それはまた、どうして?」

「そ、それは…」


とても、月の光に反射した髪の色に因んで…などとは言えない。

どう答えるべきか迷っているとフィリアが―


「まぁ、いいか。理由は人それぞれだもんね。それじゃあ始めるよ。そこに立ってね」


詮索することもない、と始めようとするフィリア。

シノアにとっては、これ以上詮索されていたらボロが出ていたかもしれないのでありがたかった。


「は、はい!えっと、こうでいいですか?」


その場に気を付けの姿勢で立つシノア。

そんなシノアを若干苦笑い気味で眺めるフィリア。


「そんなに身構えなくていいよ。すぐに終わるから。それじゃ、いくよ。“色素変換カラーチェンジ”、“衣装変更(ドレスチェンジ)”」


シノアの身体をステータスチェックの時とは違った光が包み込む。

三十秒ほど経って光が消えるとそこにいたのは、黒髪のボロボロのブレザーを着たみすぼらしい少年ではなく、白を基調とし、所々に金色の美しい模様と紋章が織られた外套に身を包んだ、毅然とした態度の銀髪の少年だった。


「うんうん、似合っているよ。この衣装も取っておいてよかったよ」


腕を組み、うなずきながらシノアの変身ぶりに満足げだ。


「え?…な、なんですか?!この立派な衣装は…!」

「ふふふ…君に似合うと思って持ってた服を早着替えの魔法で着せてみたの」

「は、恥ずかしすぎる…」

「いやいや、似合ってるからいいと思うよ!さて、準備もできたし、出発しようか」

「切り替え早?!うぅ…こんな恥ずかしい恰好で出歩くことになるとは…」


そそくさと歩き出すフィリアの背中を急いで追いかけるシノア。

彼は今日、新たな名前と姿、そして、生まれて初めて母と呼べるような存在を得た。それが永遠に続くとは思っていなかったが少なくとも今、この瞬間だけはこの幸せな感情に身を任せていたいと思う、シノアであった。


フィリアとシノア、これから二人の旅が始まる。

それは波乱万丈などという言葉すら生温いと思えるものだったが、今の二人は知る由もないのであった…

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