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無能な神の寵児  作者: 鈴丸ネコ助
紅桜抜刀篇
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第64話 血に魅せられた無能

ここはサンタルチアに複数存在する島の中の一つ。

人里離れた夜道を紅眼の青年が彷徨っていた。

そんな彼に声をかける愚か者が数人…


「おい!命が惜しけりゃ金を─」

「クズがっ…」


シミターのような剣を青年に向けながら脅しをかけた悪党たちだったが、青年の辛辣な一言と共に肉片と化した。

残された一人は突然の仲間の死に反応できず、ただ地面に広がる血を見つめている。

数瞬の後、思考が追いつくと腰を抜かし命乞いをし始めた。


「ひっ…ま、待ってくれ!悪かった、殺すつもりはなかったんだ!見逃して─」


後ろに下がりながら涙ながらに懇願する男だったが、あいにく紅眼の青年の機嫌は最悪なのだ。


「死ね…」


青年の一言で命乞いをしていた男は切り刻まれ赤い霧となって散っていった。


紅眼の青年はただひたすらに歩く。

自分を殺してくれるであろう彼女の下へと。


◇◇◇


「さて、帰るか」

「それでは私はデア・ソリス様に器の無事をお知らせに行ってまいります。失礼いたします」


全てを終えたプライドはアザゼルを見送ると、残った村人(ゴミ)を片付けるためその右手にあるものを宿し、彼らの方を向いた。


「おい、人間共。てめぇらは本当にこの娘のことを殺すつもりだったのか?」

「…は?」


プライドの思いもよらぬ質問に思わず気の抜けた声を出してしまう村人たち。

そしてその油断は肉体的な隙だけでなく、精神的な隙まで生み出してしまう。


「ふむ…なるほどな。とことん腐ったやつらってことか」

「なっ?!いつの間に!」


村人たちが瞬きをした次の瞬間には、プライドは彼らの後ろに回り込んでおりその内面をのぞき込んでいた。

表面上でどんなに御託を並べようがその内心は隠せない。画鋲を踏んで、その痛みを表情に出さないようにすることは可能だが、脳から痛いという信号を出させなくすることは不可能だ。

それは無意識のうちに出るものであり反射なのだ。

鍛えて抑えられるものではなく超自然的なもの─生理現象である時点で人間にコントロールすることなど不可能だ。


そのうえ彼らの目の前にいる存在は太古の昔より人間たちを欺いてきた種族、悪魔である。

悪魔の前で隠し事などドラゴンを錆びた包丁一本で狩ろうとするようなもの─つまり不可能である。

人の魂、内面を視ることに長けた悪魔達の中でも七つの大罪(エヴァグリオス)という彼らの頂点に君臨する存在に人間ごときが心理戦で敵うはずがないのだ。


「さて…それじゃ、死ね」


プライドは村人の内面を覗き込むのをやめると、突然目に見えない速度で手刀を放ち目の前の男の心臓を貫いた。

声もあげることが出来ずそのまま絶命する男。

それを見た村人たちは悲鳴をあげ、狂気に駆られて逃げ惑う。


「ははは!逃げろ逃げろ!少しでも俺を楽しませて一秒でも長く生きろ!」


人間狩りの始まりだ。



プライドの狩りが終わり、誰もいなくなったことで静かになった場所でようやくシノアは目覚めた。


「うっ…こ、ここは…」


急速な回復により発生した疲労感と倦怠感、それに加え頭痛もひどい。

動かすのも億劫な身体に鞭を打ちなんとか立ち上がったシノアは、目を少しだけ開きそして見開いた。


「な…んだ…これ…」


シノアの目の前に広がっていたのはひたすらに広がる血の海、そしてバラバラに引き裂かれた村人たちの死体が転がっていた。


あまりにも凄惨なそれは幾度となく人を殺してきたシノアでも、思わず目をそむけたくなるような光景だった。

吐き気を必死に抑えながらアルクとミーシャを探すシノア。

しばらくすると、真っ赤な大地の中に円を描くように花が置かれた場所を見つけ、そこに二人はあった(・・・)


血を流しながらも口元に笑みを浮かべ妹を抱くアルクと、兄に包まれながら優しさに満ちた表情で事切れたミーシャ。

黒獣と化していたミーシャが元の姿に戻っていることなど今のシノアの頭の中にはない。


ただひたすらに、また誰かに守られ大切な命を亡くしてしまったという虚無感、守られてばかりで守ることもできない自分への怒り、まだ幼かったミーシャを救うことができなかった罪悪感。

様々なものが入り交じり、彼の中では暴風が吹き荒れていた。


「あぁ…あぁ…また…」


高ぶり過ぎた感情はもはや涙すら必要とせず、ただシノアを支配する。


「うわあああぁぁぁ!!」


大切なものの血で染まった両手で自分の顔を覆い、悲痛な叫びをあげるシノア。

彼の心にはもはや感情というものが概念でしかなくなり、理性が音を立てて崩壊をし始めていた。


血に酔った紅眼の死神がここに誕生した。

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