第4話 ステータスチェック
光が収まったことを確認し、目を開けるとそこは簡素な部屋だった。床に魔法陣が描かれただけのシンプルな場所だ。
「それでは皆様こちらへ。まずは訓練場へとまいりましょう」
部屋の扉をあけながらメリギトスが言う。
メリギトスの案内に従い一行は中庭のようなところへ来た。かなり開けた場所で所々にかかしや的が設置されている。時間帯は昼間で訓練していた兵たちが物珍しそうな様子でこちらを見ている。
しばらく中庭で待っているとほかの兵士たちとは違う若干豪華な鎧を着た兵士が寄ってきた。
「メリギトス団長。ステータスチェックをなさるのですか?」
「そうだ、兵士長準備はよいのだな?」
「はっ、もちろんです。して、そちらの方々が召喚された…」
値踏みをするような視線を一行に向ける兵士長。
「うむ。くれぐれも失礼のないようにな。それで準備は整っているのか?」
「はっ、もちろんでございます。――おい!」
兵士の呼び声に何人かの兵士が寄ってきた。だが、周りの兵士とは違い鎧を着ておらず、神官たちのような外套を身に纏っていた。神官たちとは異なり黒を基調としたものだったが。
「では、皆様、ステータスチェックを行いますので肩の力を抜いて、どうか気を楽にしてくださいませ」
メリギトスがこれまた朗らかな表情で告げる。
その様子に何人かの兵士たちはなぜか驚愕していた。
「は、はぁ…あのステータスチェックってそもそも何なんですか?」
田中がメリギトスに問う。
「ステータスチェックとは文字通り皆様のステータスを確かめるものでございます。スキルや適性のある属性、レベルなどを確認することができる魔導具の一種でございます」
そういってメリギトスは隣の兵士が持っていた、羊皮紙のようなものと羽根のついたペンを手に取った。そしておもむろに―
「ステータスチェック」
―とつぶやいた。
すると羊皮紙とペンがひとりでに動き出しメリギトスの前を回り始めた。
3回ほど回ったところで止まり、メリギトスの目の前に戻ってきて、羊皮紙にペンが何かを書き始めた。ひとりでに。
その光景に思わず感嘆の声を上げる召喚者たち。
「と、まぁこんなものですな」
そういって書き終えられたらしい羊皮紙を一行に見せてきた。そこには―
名前:メリギトス・アルべリヒ・ユルゲン
レベル:78
スキル:剣術Level9・体術Level8・回避術Level8・気配察知Level7・詠唱破棄Level3・詠唱省略Level5・筆記Level6・料理Level5・釣りLevel7
魔法:神聖魔法
属性適性:聖
メリギトス本人のステータスが記されていた。
まるでゲームのような表示に再び感嘆の声をあげる一行。
また、メリギトスのステータスが記された用紙を見た兵士長も―
「さすがはメリギトス様ですな…レベルもさることながらスキルのレベルの高さには驚かされます」
この世界にはレベルが存在する。だが、レベルは簡単に上がることはない。身体的、精神的鍛練や書物による学習、スキルの使用などを延々と繰り返すことによりようやく上げることができる。この世界の一般人の平均レベルが15程度ということを考えるとメリギトスは化け物といえる。
さらにレベルに加えてこの世界にはスキルというものが存在する。スキルは極稀に後天的に手に入ることがあるとされるが、ほとんどは先天的にもって生まれることが多い。それでも通常は1つか2つ程度しか持たない場合がほとんどで3つ以上もって生まれた場合、天童と呼ばれるほどだ。
そしてスキルにはレベルというものが存在する。剣術スキルを持たないものと剣術スキルlevel1を持つものとでは戦闘すら成り立たない。
というのも、スキルというのは才能の結晶のようなもの。持っているだけで様々なことが可能となる。たとえば剣術スキルは剣によるダメージが多少上がったり、剣の耐久力が上がったりする。何よりも最大の利点は奥義が使用可能になることだろう。この奥義は剣術の魔法のようなものだ。普通に剣を振るのとはけた違いの威力を発揮する。そこには魔法のようなエフェクトも付くのだ。どこまでもゲームのような世界である。
「まぁまぁ、儂はよいのだ。召喚者の皆様のステータスをチェックするとしよう」
そういってそれぞれにステータスチェック用の魔道具を手渡す。
緊張しつつも待ち切れない様子の一同。そしてそれぞれのステータスチェックが終わる。一同のリーダー的存在、榊原 天馬のステータスを見た兵士たちが吃驚した。そこにはとんでもないステータスが表示されていたからだ。
名前:榊原 天馬
レベル:50
スキル:剣術Level9・回避術Level5・蹴脚術Level10・詠唱破棄Level5・詠唱省略Level5・万能十得
魔法:原初魔法・混沌魔法
属性適性:炎・氷・雷・樹・地・光・闇
という、召喚されて間もないのにレベルは50、スキル欄のスキルはもはやチート、属性適性に関してはどんなバグキャラだといいたくなる仕様だった。
「こ、これは…いやはやさすがですな。スキルに固有名を持つものが来るなど書物でしかみたことがありませんでしたぞ」
「全くです。伝説の勇者様のようですな」
この世界には固有名を持つスキルも存在する。
だが、それは通常ありえないものでほとんど伝説のようなものだ。その分、強力なものが多く、榊原が持っていた“万能十得”という能力も常に自分のステータスが1.5倍、魔法は魔法陣が必要なくなり、詠唱も破棄、もしくは省略が可能というとんでもないものだった。
周囲の煽てにまんざらでもない様子の榊原。常に周囲の人間をまとめ、リーダー的存在である彼も中学二年生。周りから浴びせられる羨望や嫉妬の感情は高揚せざるを得ないだろう。
ほかのメンバーもかなり強力というかチートな能力だったようでいちいち歓声が上がる。だが、一瞬歓声がやむ。メンバーの一人佐藤 健一のステータスはあまりにも貧弱だったからだ。レベルは12、魔法は何も使えない、適性のある属性もないという低スペックぶりだ。
だが、スキルを見た瞬間メリギトスが息をのんだ。
そこには“未来予知”と書かれていたからだ。
未来予知それはかつて神の怒りを鎮めた巫が持っていたとされる伝説上のスキル。神官たちからすれば神に最も近しい存在の巫と同じスキルを持っているのだ。佐藤もスキルに関してはチートといえた。
そして、また歓声が止んだ。僑國 神愛のステータスを見てその内容があまりにもひどかったからだ。
名前:僑國 神愛
レベル:1
スキル:
魔法:
属性適性:
悲しいほどに空虚なステータス画面に本人も絶句するしかなかった。周りの兵士もあまりのステータスの低さにかける言葉が見つからない。そんな沈黙を破ったのは召喚された者たちの中でも特に神愛を嫌っていた黒瀬 海翔だった。
「ギャハハハ!マジで無能すぎるだろ。やべーマジで笑うしかねぇわ」
「おいおい、言い過ぎだぞ海翔。無能なりに頑張って名前は表示できてんじゃんか」
黒瀬と榊原の蔑みに追随するように言葉を重ねる一行。
「ここまで無能だといっそ清々しいわね」
「いや、もはや生まれてきた意味っしょ」
「スキルまでないとは無能の極みだな」
「神愛…まぁなんつーか、魔法は適性なくても使える…と思うぞ、たぶん」
「そ、そうだよ…あんまり落ち込まないで…」
田中 政と今井 有紀が慰めるが二人ともかなりチートスペックなステータスを持っていたため、嫌味にさえ思えた。
と、そんな地球ではお馴染みだった会話を繰り広げていると突然―
「貴様、何者だ!召喚者たちに紛れ込むとは…まさか敵国の密偵か!」
と腰に差していた長剣を神愛に突き付けながら兵士長が言い放った。
「ち、ちがっ、僕は本当に―」
「だまれ!召喚者ならば、そんな低いステータスなどあり得るわけがないだろうが!」
どうやらあまりの低スペックさに密偵だと疑われたようだ。
兵士長がいまにも飛び掛かろうとしていると
「よせ。彼は本当に召喚者だ。この私が見たのだからな」
メリギトスが剣を下げさせた。
「し、しかし…召喚者がスキルすら持たずレベル1など…聞いたことがありません!」
しぶしぶといった様子で剣を納めた兵士長だったが鋭い眼光は神愛に向けたままだ。
「うむ、たしかにな。だが、我らが召喚したというのは紛れもない事実だ。礼儀をわきまえよ」
「くっ…し、失礼した」
いまだ鋭い眼光を向けたままだが謝罪する兵士長。
一連の流れを見てさらに神愛を馬鹿にするクラスメイト。
神愛としては―
(何なんだよ!いきなり召喚されたと思ったらスパイ扱いされて剣向けられて無能呼ばわり…いや、正しいけどいくらなんでもひどすぎるだろう?!)
といった心境だった。
「まぁ、皆様のステータスもわかったことですし、戦闘訓練を始めますぞ。兵士長、では任せたぞ」
「はっ、承知」
「僑國殿、申し訳ないが付いて来てもらえますかな?」
「えっ、あ、はい」
メリギトスが神愛を別の場所へと案内する。後ろで佐藤が「あんま迷惑かけんなよ無能~」と揶揄しているのが聞こえた。
神愛は大方、役に立たないから送り返すんだろうな、などと考えていた。メリギトスの口元が吊り上がっていることにも気づかずに…