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無能な神の寵児  作者: 鈴丸ネコ助
異世界放浪篇
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第14話 内界に潜むモノ

「フィリアさん!あ、あぁ…そんな…」


倒れこんだフィリアを仰向けに抱きかかえ、容態を見るシノア。

周りの魔物たちは不思議と近付いてくる様子がない。シノアはフィリアの怪我が心配で気づかなかったがフィリアが怪我を受け、倒れる寸前に発動させた結界により魔物たちは近付くことができないのだ。


「ぼ、僕なんかを庇って、そんな…ごめんなさい…」


必死で回復魔法をかけながら何度も謝るシノア。できる限り魔法に集中しようとするが大切に思っていたフィリアが初めて傷付き、シノアの心は千々に乱れていた。


「くっ…傷が深い!血が…血が止まらない…どうしたら…」


傷は肩から腰にかけて深く切れており出血がひどい。このまま止血しなければ確実に出血性ショックにより死に至るだろう。そのことを知ってか知らでか、どんどん狼狽えていくシノア。そしてフィリアの鞄に効き目の高い回復薬があったことを思い出し、探ろうとする。


「か、回復薬!フィリアさん高いって言ってたけど、緊急時だから…!」


フィリアの腰に添えられたポーチに手を伸ばし口をあけるが、普段大量の道具や書物、武器を出し入れしていたはずなのに中身は空だった。


「な、なんで!そんな、バカな!!」


シノアの知るところではなかったがフィリアの鞄は魔導具である。作成者、もしくは所有者以外が中身を確かめてもただの空のポーチとしか認識されない防犯性の優れたものだったのだ。


頼みの綱だった回復薬も使用不能だとわかるとシノアは絶望に暮れた。

もうフィリアと旅を続けることができない。もうあの優しさに触れることはできない。

そう思うと涙が込み上げてきた。


(たすけたい?ねぇ、たすけたいだろう?)


「うっ…グスッ…え…だ、だれ?」」


男とも女ともとれる声の出どころを探し、辺りを見回すが、人影のようなものは見えない。


(ねぇ、たすけたい?)


再びした声に涙声で噛み付くように答える。


「助けたいに決まってるだろ!助けてもらってばかりで…ろくに役にも立ててないのに…何も恩返しできてないのに…!」


今までずっと内に秘めてきた真情を吐露する。


(いいよ、たすけられるよ。ちからあげるよ。ほしい?ほしい?)


怪しすぎる提案だが、今のシノアの頭にはフィリアを助ける事しかない。


「ほしいよ…喉から手が出るほど欲しいさ!フィリアさんを守れるぐらい強い力が!」


(いいよ、いいよ、かなえてあげるよ!そのかわり―)


その先がシノアに聞こえることはなかった。フィリアが傷付き死ぬかもしれないという状況だったため、思考は完全に停止していた。

だが、突然自分の手から発せられた光にシノアの思考は再び動き始める。


シノアの手から発せられたのは魔法発動時に生じる独特な光だ。この光は属性によって異なり、火なら赤、水なら青とイメージがそのまま色になっていることが多い。


そして、今シノアの手から発せられているのは黒い――いや、色という概念そのものを飲み込まんとするようなもの、いわば闇、とったものだった。一見すると混沌属性に分類される闇属性に見える。だが、若干紫色をはらんだそれはこの世界では神聖属性、シノアが普段使用する聖と対になる属性、冥だ。


これは魔人族に適性があることが多く、人間族や亜人族に適性があることはほとんどない。魔法の内容としては聖属性同様、回復系や守護系、少数だが攻撃系もある。だが、聖属性と大きく異なる点は神聖属性、冥には魔物を操る力があることだろう。そのことから邪神教徒の力だと揶揄されることがあり、この属性に適性を持つ者は虐げられることもあるという。


シノアの手に宿った光はシノアの“フィリアを助けたい”という意思に従い、フィリアを霧で包み込み、それが晴れるころには背中全体に及んでいた傷は跡形もなく消え去っていた。外に放出された血液も元通りになっているようでフィリアの顔色は血色がよくなっていた。


(さぁ、たいせつなひとはなおったよ!つぎはあいつらやっちゃいなよ)


扇動するような声に不信感すら抱かず右手を前に出すシノア。そして頭に浮かんできたイメージをそのまま口にする。


「“宵闇の使い、死への秒読、蠢く深淵、全てを滅ぼす、至精なる闇よ、我が命に応じ、常命の灯火を、吹き消せ、破壊神の誘惑デアソリス・テンプテイション


その魔法は二人いる最高神の片割れ、破壊神の名を冠する、闇系統の魔法の中でも最高の威力を有する禁術といわれる魔法だった。

無論、こんなに詠唱が短いはずがない。本来は555句という気が遠くなるような長い詠唱の後、自らの血を魔法陣に捧げることにより発動が可能となるものだ。それを魔法陣すら描かずに発動させることができたのは謎の声の加護があってのことだろう…


その魔法により生み出された闇球、小型のブラックホールに魔物たちは為す術もなく吸い込まれていく。

この魔法の恐ろしいところは吸い込む対象を術者によってコントロールできることと、生み出された闇球に触れたものは肉体どころか魂諸共朽ち果てるという点だ。

範囲の指定も自由自在で、例えば自分を中心にした半径10キロを指定しても自分以外のすべてを消し、周辺を更地に変えることができる。


そうこうしているうちにシノアたちを取り囲んでいた魔物やジャバウォックは魔法により跡形もなく消し飛ばされていた。


「終わった…?」


シノアの胸を安堵の情が浸す。しかし、謎の声は終わらせなかった。


(のぞみはかなえたよ。さぁそのからだもらっちゃうよ!)


シノアの手先が黒く変色しだし、それはだんだんと広がっていく。


「な!こ、これは!い、ぐ!なん、だ、こ、れ…」


(ばかだなぁ、ちからだけかしておわりなわけないだろうに)


嘲笑うかのような声がシノアの脳内に響く。


「くっ!そ、そんな!」


(そんなかおしてもむーだ。けいやくってのはくちでしても、かみでしても、こうりょくってのははっきするんだぜ?アーハッハッハッハッ!)


何が可笑しいのか笑いながらシノアを侵食する謎の声。


(くっ…もう…だめ…なのか…)


フィリアの傷を癒し、魔物たちも退治することができたのにもう二度とフィリアと会えないかもしれないと思うとシノアの目に再び涙が込み上げてくる。


(せめて…もう一度…あの笑顔を…ぼくにむけてほしかった)


身体の自由を奪われながら、自分の生を諦め意識を手放そうとするシノア。

しかし、彼の意識が暗転することはなかった。


(キーーン!)


金属をハンマーで力強く叩いたような音があたりに響く。


(な、なんだ…?)


その音で失いかけていた意識を取り戻すシノア。よく見ると首から下げていたネックレスが眩い輝きを放っており、気のせいか闇の浸食が止まっているように見えた。


ネックレスはさらに輝きを増すとシノアの身体全体を光で包み込み、手先から広がっていた闇を完全に消し去ってしまった。

立て続けに起きた理解不能な事象を前にシノアは混乱し、再び意識を失いそうになるがフィリアを安全な場所まで運ばなければと、ほぼ無意識状態でフィリアを抱え村に戻ろうとする。


だが、補助があったとはいえ闇系の禁術を発動させた上に身体を乗っ取られかけた負担は半端ではなく、フィリアに覆いかぶさるように倒れこみ、シノアの意識は闇に包まれた。


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