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無能な神の寵児  作者: 鈴丸ネコ助
番外篇
12/87

クラスメイトside 前編 歪んだ愛

クラスメイトsideの物語です!

胸糞になったりはしないのでご安心を!

シノアが毒を盛られ、迷いの森に向けて馬に揺られているころ、召喚者はそれぞれの部屋に案内されていた。


「こちらが榊原様のお部屋となります。ほかの召喚者の皆様にも同じ部屋をご用意しております」

「す、すごい…」


思わず、感嘆の声を漏らす榊原。だが、それは仕方ないといえるだろう。なぜなら、案内された部屋はテレビでしか見たことがないような英国のようなオシャレな家具で統一された空間だったのだから。


日も落ち、そろそろ寝る時間だと思い始めたころ、中庭入り口からメイドがやってきて部屋へ案内するといわれた、榊原一行。中庭から一度、城の中に入り、ロカイユ装飾の美しいロビーを通り過ぎ、縦長の廊下に点在する部屋へ案内された。ヴィクトリアン様式のステンドグラスドアを開けるとその先は、これまたヴィクトリアン様式に統一された、簡素ながらも職人技が光る素晴らしいインテリアの数々だった。一人で使うにはあまりにも広すぎる部屋は、キングサイズのベッドがシングルサイズに見えるほどだ。まるで生きている動物をそのまま絵に閉じ込めたような絵画や精巧すぎて仕組みすら理解できそうにないスケルトンタイプの振り子時計、どれもこれも趣向が凝らされており、とてつもない価値がありそうだ。


「こ、こんなすごい部屋にいいんですか?」

「はい、メリギトス様からの命令に加え、国王陛下の勅令もあります。それに皆様は召喚者ですのでこの程度の対応は当然です」


あまりの待遇に動揺する田中に一行を案内したメイドが淡々と伝える。


「こんなすごい部屋はじめてだ!」

「ほんとにな!テンション上がるぜ!!」

「ウチ、海翔と同じ部屋がいいー」


それぞれ、生まれて初めての英国調の部屋に泊まれることを喜んだ。


「そういえばあの無能…僑國くんはどこかしら?」


そこで九重が今まで忘れられていた人物の居場所を尋ねる。


「そいや忘れてた。無能すぎて帰されたんじゃない?」

「あーありえるわそれ。さすが無能」


九重の問いにそういえばといった様子で思い出す一行。そして、罵る佐藤と黒瀬。


「メイドさんは何か聞いてないんですか?」

「いえ…特に…メリギトス様の執務室から出ていないのではないでしょうか」


メイドに直接聞く九重だったが、詳しい情報は得られなかった。


「まぁまぁ、無能のことなんてどうでもいいじゃん。それよか魔法で遊ぼうぜ!せっかくみんな魔法に適性あんだしさ!」


黒瀬がやけにシノアのことを意識する九重のことを訝しげに見ながらも、寝る前にそれぞれの魔法を見せ合おうと提案する。

ちなみにここにいるのは榊原、黒瀬、田中、朱雀、九重、水無瀬の6人だけだ。あとの二人は適性のある魔法と持っているスキルが特殊だったため、いまだ神殿に残っている。


「海翔の言う通りだな。それぞれいい感じに適性がばらけてるし面白そうだな」

「いや、お前は全属性に適性あんだろ?チートすぎ。」

「全属性っていえば独眼竜もだよな。理不尽だ…」

「フッ、神に選ばれし俺ならば当然のこと―」

「悪いけど私、もう寝るわ。昨日寝不足だからもう眠いのよ」


盛り上がる男子4人にめんどくさそうに不参加を告げる九重。


「んだよ!付き合いわりぃーな。しゃーねぇか、5人でやろうぜ」

「えーウチ、パス。そういうのだるいしー」


水無瀬も不参加を告げる。

結局水無瀬がやらないなら俺も、と言って様子で黒瀬も辞退する。

結局榊原の部屋で3人だけで行うこととなったのだった。

そして、自分に与えられた部屋に入り、鍵を閉めるとおもむろにベッドに置いてあった枕を手に取り―


「クソッ!!」


思い切り罵りながら床にたたきつけた。

そして愚痴るように現状への不満を吐き出し始めた。


「なんでシノアくんがいないのよ!ふざけやがって…せっかく誰にも邪魔されることのない密室で二人きりなんて大チャンスがあったのに…」


驚くべきことに九重は無能と蔑み、散々馬鹿にしていたシノアに想いを寄せていた。だが、その想いは少しばかり特殊だったようで―


「あぁ、もう!朝まであの可愛い顔ぼっこぼこにできると思ったのに…いい加減にしてほしいわ。他人に足蹴にされるのを見るのも好きだったけど自分でやるのが一番好きなのよ…」


少しばかり重度の女王様気質だったようだ。


彼女は中学に入学して一目でシノアのことを気に入った。最初は普通に好意を寄せ、ゆっくりと近付き、そのうち告白でも…と考えていた。だが、そんなときシノアが隣の席の女子と仲良く談笑しているのを見て彼女の中で何かがはじけた。


(私以外の女に対してどうしてあんな顔をしているの?あぁ…ダメな子。わからせなくっちゃ。ゴキブリに笑顔なんてふりまいちゃだめだって)


訂正しよう。彼女は超がつくSでメンヘラだった。中学二年生にして、ほかの女子をゴキブリ扱いなのだ。将来がある意味楽しみだ。


それから九重は様々な、傍から見れば嫌がらせとしか思えない愛情表現をシノアにし続けた。

まず、手始めに自分の有する圧倒的カリスマと外見でシノアを周りのいじめの的にした。

そして、ボロボロにされたシノアを見て興奮し、自ら手当てすることにより至上の喜びを得ていた。

…本当に中学生かと問いたくなる性癖である。


「仕方ない。明日の朝にでもあの神官のジジイを問い詰めて居場所を聞き出してやる」


そう言うと床に叩き付け、殴っていた枕を整え、ベッドに置き、顔をうずめた。

しばらくすると静かな寝息が辺りに響きだした。


◇◇◇


コンコン


部屋にノックの音が響く。


「九重様、朝食の用意ができました。お目覚めでしょうか」


どうやらメイドが起こしに来たようだった。


「はい、起きてます。すぐ行きます」


身体を起こしながら伸びをする九重。顔を洗い、寝ぐせを直し、身だしなみを整える。

扉を開けると昨日と同じメイドが凛とした姿で立っていた。


「すみません、お待たせしました」

「いえ、お眠りを妨げてしまったようで申し訳ありません。榊原様方が“冷めないうちに食べないともったいない”と申しておられたので」

「やっぱり…」

「では、参りましょう」


廊下を歩いていくメイドについていく九重。異世界での食事は初めてのため、非常に楽しみだった。

九重たちが寝泊まりした部屋と同じものが大量に並んだ廊下を抜けると中庭へつながる廊下があり、煌びやかな太陽の光を一身に浴びることができた。


中庭を通り、再び城内に入ると豪華な内装の食事場があった。優に50人は座れそうな大理石でできた縦長の大テーブルには芳しい豪華な食事がこれでもかと並んでいた。

思わずよだれが垂れそうになるのを抑える九重。


「あ、シズシズ~おきた~?」

「えぇ、待たせてしまってごめんなさい」


水無瀬が巨大なステーキをほおばりながら九重に手を振る。


「奈々、行儀が悪いぞ。いくらおいしいからって―」

「まぁまぁ、委員長。行儀なんてだれも気にしないし、いいじゃないか」


水無瀬を諫める榊原だったが、気にする必要はないと黒瀬に指摘され、それもそうだと納得する。


「それじゃあ、私ももらおうかな。いただきます」


手本のようなしぐさでステーキを切り分け口に運ぶ九重。そして口に含んだ肉の柔らかさと香ばしさに舌鼓を打つ。


「これは…すごいわ。こんなおいしいお肉食べたことがない」

「だろう!これは食べないと損だと思ってな」


思わず感嘆の声をあげる九重に榊原が自慢げに告げる。


「そういえば、しの―無能くんが見えないようだけど、どこかしら?」


一人の時の癖で思わず名前で呼んでしまいそうになるのを堪え、九重が榊原たちにシノアの居場所を尋ねる。


「さぁ?昨日から見てないな」

「あぁ、俺も見てない。独眼竜は?」

「いや、俺もみていないな」

「俺もみてねーぞ。そもそも興味ないし」

「ウチもー」

「わ、わたしもみてない…」

「ぼくもみてない!」


どうやら全員シノアの居場所を知らないようだった。

思わず舌打ちしそうになるのを堪え、近くにいたメイドに尋ねる。


「あの、僑國神愛はどこでしょうか?姿が見えないんですが」

「申し訳ありませんが、わたくしもその方の所在は存じ上げません。後ほどメリギトス様から詳細は告げられると思いますので、しばしご辛抱を」


メイドが目を閉じたまま告げる。


「なんだよ。ずいぶん神愛のこときにかけるじゃないか?」


黒瀬が面白そうに九重に探りを入れる。


「ただ、ストレスのはけ口がいないと思っただけよ。そんなことより、黒瀬君は昨夜ずいぶんお楽しみだったみたいね?」


だが、逆に昨夜のことについて九重からいじられてしまった。

昨夜のこととは黒瀬の部屋に水無瀬が入り込み、いろいろ致したことだ。真夜中に隣の部屋から聞こえてきた嬌声で目を覚ました九重はかなりイライラしている。


「異世界きたっつーのにさっそくかよ。お暑いねぇ~」

「いいじゃないか。二人は付き合ってるんだし」


田中がうらやましそうにふたりをいじるが榊原は若干擁護している。ほかの面々は赤くなったり、意味が分からず首をかしげていたりと様々だ。

中学二年生で既に夜を経験済みというのは時期尚早に思えるが水無瀬と黒瀬が速いだけである。ほかの面々は榊原含め、全員バージンだ。


そうこうしているうちに食事を終えた8人はメイドから案内され王座へと案内された。

荘厳という言葉がふさわしい高さ5メートル、横幅3メートルの巨大な扉の前で立ち止まるメイド。


「皆様、これより先にはこの国の主にして法王であらせられる方がいらっしゃいます。くれぐれも失礼のないよう、お願いいたします」


これまでにないほど真剣さがこもった声でメイドが告げ、その気迫に押され各々、首を縦に振る。

門前に控えていた兵士が持っていた槍で床をたたくとひとりでに扉が開きだす。


中には入り口から赤い絨毯がしかれており、さながらハリウッドのレッドカーペットのようだ。そして、絨毯の周りには美しい彫刻がなされた白金に輝く鎧に身を包んだ騎士たちが長剣を両手で持ち体の前で構えていた。

思わず、場の雰囲気にのまれそうになる一同だったが、王の横に控えている執事のような男の声によって我にかえる。


「召喚者一行。王の御前へ」


その声に榊原を先頭にゆっくりと歩を進める、一行。そして王の御前まで来ると右手を胸にい当て、片膝を付いて、頭を垂れた。榊原は部屋に置いてあった“騎士の基本”という本を読破していた。表向きの顔は優等生で通していただけのことはあり、非常に優秀だった。

榊原に倣い、各々騎士の礼を取る。

その様子に王は片方の眉を上げ、愉快そうに笑った。


「ほう?今回の(・・・)召喚者たちは礼儀正しいな。突然異世界に呼ばれたというのに冷静だな」


言葉を向けられた榊原は頭を少しだけ上げ、王の隣に控える執事を見る。


「発言を許す。申せ」


この国では王に言葉をかけられたとしても勝手に話し出すことは許されないことだ。この国の人々にとって、法王とは人であって人でない存在、代行神のようなものなのだ。話すどころか目を合わせる事すら極刑に値するという意味不明な国だった。


「はっ、王のお言葉、ありがたきに存じます。我らの力が貴方様の御力になれるあらば、この命に代えてもご命令を遂行致す所存であります」


全身が冷や汗が流れるのを感じながら榊原が言う。

なぜ、ここまで榊原がかしこまっているのかというと、それは“騎士の基本”という本に王の前で粗相をしでかした者が一体どのような目にあったのかが詳細に記録されていたからである。その中には召喚者もおり、自分たちも例外ではないと思ったのである。


「フッ、そう畏まるな。私はお前たちの言葉遣いなど気にせんし、態度も自然にしてくれて構わん。私の望みは唯一つ。我が王国と敵対する魔族の国、イリニパークス共和国に終焉をもたらすことよ」

「はっ!必ずや、成就させて見せましょう」


榊原の言葉に満足したようにうなずく王。そして執事から、下がってよいといわれ、一行は部屋から出る。

扉が閉まったのを確認すると榊原が―


「っはあぁぁぁ…緊張した。死ぬかと思った」


息を吐きながら前かがみになった。


「いやーあの人威圧感ハンパなかったな」

「まじそれな。ちびるかと思ったぜ」

「伊達に王って言われてるだけあるわ」

「にしても榊原の丁寧対応おもろかったな」

「俺の頑張りは笑いごとか?死ぬかと思ったぞ本当に…」


談笑し始める榊原たちだったがメイドにより中断される。


「皆様に陛下より武器をお渡しするよう言われております。こちらへ」


そういうとすたすたと歩き始めるメイド。急いでそのあとを追い始める一行。

自分たちが一体何に参加させられようとしているのか、彼らはまだそれを知らない。


◇◇◇


「ルヴ陛下、どうなさいますか」


筋骨隆々の戦士風の男が玉座に腰掛ける美丈夫に問い掛ける。


「昨日、巨大な魔力の流れを感知した。皆も知っての通りだ。おそらくかの国は“召喚”を行った」


陛下と呼ばれた男が透き通るような美声で告げる。その声に王座の前に控えていた騎士たちに動揺の声が広がる。そんな中、一際豪華な騎士風の鎧を身に着けた男が声を上げる。


「陛下!恐れながら申し上げます。もし、仮にあの国が召喚を行い、召喚者達をわが国に差し向けたならば、道はありません!もう、不殺や共存(・・・・・)などと甘いことは言わず、殲滅すべきです!」


「ならん」


男の言葉を即座に否定する王。


「な、なぜ―」

「そんなことは簡単だ」


声を上げた男の声を遮り、よく響く声で告げる。


「人間とは自らが知らぬ力を認めぬ。自らが敵わぬ存在を恐れ、決して許そうとはしない。人間族を殺める、すなわちそれは人間族との敵対を表す。ゆえにわれらは決して殺めてはならん」

「し、しかしそれではわが国は…」


それでも食い下がる男に王は諭すように話し始める。


「負けるであろう。だが、それは短絡的な目で見ればの話よ。我らは長命種だ。時を重ねればこの戦に負けたことなど詮無き事となろう。将来訪れる平和のためならば、我は喜んでこの命差し出そう」

「お、王よ…」


覚悟を決めた王の宣言にその場にいる誰もが気圧され何も言えなくなる。

そして、最初に声を上げた男が王の宣言を支持する。


「我が命はこの世に生まれし時より貴方様のものです。戦場で御身の盾となり果てることができるのならばこの身に余る名誉であります」


その言葉に次々と騎士たちが礼を取り、剣とその命を王に捧げる。


「そう案ずるでない。負けると決まったわけではないのだ。最後の瞬間まで運命とやらに抗ってみせようぞ」


王がにやりと不敵な笑みを浮かべ、その場が歓声に包まれる。


戦争の始まりは刻一刻と迫っていた。


ご覧くださりありがとうございます!

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