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「うーむ」
俺、杉森イトは悩んでいた。
「これ、帰れなくね」
自分で張った結界から出られなくなってしまった。
いや、そもそも張った本人が出られないことの方がおかしいのだが。
結界というのは、自分を守るためのもの。
今回俺はこの結界に二人揃えば出られるが、一人ならば必ず出られないという何とも単純でめんどくさく、ぼっちには厳しいものを張ってしまったのだ。まぁ、二人じゃないと入れないからそんなこと起きないんだけど。
「はぁ~。もっと話のわかる奴だとは思ったんだけどな」
彼、マナブ君を閉じ込める。そして人格を取り出し面白おかしく掌で踊らせようと思っていた。
だが、あの子は自由になったのにも関わらず守ることを優先した。
マナブ君には異物や異色の否定概念がないのだろうか。いや、異常者にだって必ずある。
「時間待つのもな~」
この弐人鏡は、暁月夜の時にしか出入りができないようになっている。
・・・まぁ少し例外で、夜明けの晩の時間でも出入りができる。
今回は夜明けの晩の反対の時間だったから出る確率が少し上がっていただけで、それでも出られない確率の方が多かった。
「視えないのに、見えていたのか」
俺みたいに透明を視るんじゃなくて、マナブ君はただ帰り道を見ただけだったのか。
「あの子達やっぱり面白いや」
この働かない自称探偵ニートに興味を持たせるなんて、マナブ君も罪な男だね・・・。
「ふざけてる暇ないか。仕方ないや」
あんまり、コレ気持ち悪いから使いたくないんだけど。
目のない眼で、見えない彼らを視る。
「俺の神様。優しく強い君ならば、俺を此処から出してくれるね」
弐人鏡はそれほど強力な結界じゃない。
自分で作ったのにも関わらず、壊すのは少し・・・いやかなり不服だが、出る為だししょーがないしょーがない。
「マナブ君達は帰った頃かな?今から追いかけても特定はいくらでもできるんだが」
そんなことしたって、うん。
「つまらないな!」
俺はあの初対面敬語のくせに心が動揺するのが遅いマナブ君がいいのだ。
あんな面白くて目障りで俺の助手に相応しい人間は、多分一生いないだろう。
「いつ捕まえるんだ~!明日だよ~!」
なんだか気分がいいので、このまま事務所に直帰した。