6
息が乱れた。
あろうことかマナは、教師の前を全力ダッシュで通り過ぎるという偉業を成し遂げた。
来週の月曜日には職員室行きだろう。
「というか、俺より運動神経良くないか?」
『身体も体力も一緒ですから。マナブがいつも本気出してないだけですよ』
「俺はまだ可能性があるってことか」
『そうですそうです』
励ましじゃなく心から言っているのが直で伝わってくるので、自分で自分を褒めている感じがすごいする。
「なんか、恥ずかしい・・・」
ナルシストというわけじゃないけど、これが無意識の自画自賛ってやつなのかな。マナの考えてることわかるから無意識ではないんだろうけど。
「あ、車ある」
マナと話しながら歩いていれば、学校から徒歩圏内の自宅に着いていた。
少し大きめな紺色の車が止まっている。
「父さん帰ってきてるんだな。珍しい」
『よりによってこんな日にですね。学校側から流石に連絡いってますかね?』
「ないことを祈るわ」
鞄から鍵を取り出して扉を開ける。
母さんの声は聞こえない。
『いつもならおかえり~って言ってくれるのにね。お風呂にでも入ってるのかな』
「だろうな、電気ついてるし」
風呂場の方は照明がついていて、水の音も聞こえる。
『マナブ~、覗くんじゃないぞ』
「自分の親の裸を見て何がいいんだよ」
そうなの?と言っているマナを無視して部屋に戻る。
今日は友人の所為で疲れた。
・・・でも、マナと話せたし。あの弐人鏡の変な空間から逃げられたし。
自分のベッドに倒れこむと、今日の疲れが身体中を包み込む。
あ、ダメだ。このまま寝ると・・・制服に、シワが・・・でも明日休みだしいいか。
「・・・・・」
『ん?あーマナブ寝ちゃったか。俺起きてるんですけど』
マナブは一回寝たら中々起きない。ちゃんと夜ご飯は食べて欲しいから・・・。
「これでよし!ごめんねマナブ。ご飯食べたら俺も寝るから」
それまで今までやりたかったことやらせてもらうね。
マナブは朝起きると遅刻寸前で。いつも俺は起こそうとしてその感情を殺してた。
マナブは夜家に帰ると、眠くなる時が多くてベッドでよく寝落ちしてた。
このままだとマナブの身体が弱っちゃう。
風邪とか熱とかかかっちゃったらどうしようとか、マナブが気付かないようなところでずっと思ってた。無意識に。
でも関わっちゃダメだから、ずっと黙ってた。
「もう、バレちゃったし我慢する必要は無くなった」
マナブの分もちゃんと野菜食べて、栄養バランス整えて。
「いっぱい元気に育ってもらうんですから」