5
「あ、あれ?」
鏡に呑み込まれた後、身体の主導権も全て俺に戻っていた。
「夢、ではないよな。あの変な人は・・・置いてきたのか」
『はい。多分あっちはもう暫く此処に戻ってこれないと思います』
いきなり返される返事にビクッとする。普通言葉って脳がこう喋ると信号を送るから喋れるんであって・・・なんか不思議な感じだな。
『とりあえず俺は俺のことをマナって呼んでください。俺はマナブって呼ぶんで』
「えっと」
『なんかそっちの方が漫画みたいで面白そうじゃないですか』
「そんな理由かよ」
呆れたと同時に安心した。
不快感もどこかに消え、やっぱり俺は俺だなと思う。
こんな時にまで、そんな考えを持っているんだから。
「いいよマナ。ところでかなり暗いけど今何時」
『俺はスマホのAIじゃないですから。』
「そうだなスマホ見ればいいよな」
暗い中目を凝らしながらスマホを探して電源をつける。暗いなか光るので一瞬目が怯んでしまった。
「えーっと、七時⁉︎これ部活って言って誤魔化せるかな」
『ギリアウトだと思いますけど』
まず学校から出られるかが問題なんだよなぁ。先生に見つかったらヤバイ。
「一階には流石に電気ついてるよなぁ」
『ここはアレですよ。誰も起こしてくれなかったとか理由を』
「それだと俺が虐められてるみたいじゃないか!」
早く帰らないと、母さんと父さんが心配してしまう。昔一回だけ家出したことがあったけど・・・。
『その時は警察まで味方につけて大変だったよねー』
「本当だよ」
大惨事だった。
『俺に代わってくれませんか?いいこと思いつきました』
「あれ?身体の主導権お前じゃないの?」
『別に俺が持ってても意味ないですし』
そうなのか?でもまぁ、帰れるんなら帰りたい。かなり早急に。
「変なことはするなよ」
『俺はマナブに危害が加わるようなことはしませんよ』
だから安心して、そう言うので代わってやる。何故だか少し嫌な予感がした。