杉森探偵事務所。
現在午前捌時丗分。
客は何処からも生えてこず、いつも通りの閑古鳥。
だけどもだけども仕方がない。何故なら此処は視力と引き換えに怪異を祓う、側から見れば関わりたくもない事務所。
玄関前の看板は、異様な空気を醸し出し。
「そろそろニートにでも転職するかな」
そんなことを口走る変な自称探偵が日々や奮闘しています。
彼の名は杉森 イト、ここのオーナー的存在でもある。
いつも白い包帯を目に巻いている。そのせいで子供や近所が噂し、この事務所に入りたくても入れない人がいる・・・らしい。
「ニートは職業じゃないです。働いてください」
そのイトに呆れながらも口を開く。
霜月 マナブ。彼もまた、あの自称探偵に付き添う可哀想な子だった。
最近、事務所に入りにくさを感じている。
「仕事が来なければ金は入らん。なんか客捕まえてきなさいワトソーン」
「誰がワトソンですか、どちらかといえば俺は貴方のモリアーティになりたいですよ」
「それはいけない。そうなったら誰が此処の家事全般をしてくれるというんだ」
「そんぐらい自分でしろ‼︎」
洗濯物を畳みながらマナブは叫ぶ。
一人心を躍らせながら都会に来たのに、こんなやつに捕まるなんて。
「運がない・・・」
ほんと俺運がない。
両手で顔を覆えば嫌なことがたくさん。
「次々と走馬灯のように~」
「流れないし死にませんからね!」
口に出ていたようで恥ずかしくなりながらも、どうしてこうなったんだろうと頭を抱えそうになる。
「マナブ、服折りたたむの一旦やめて椅子にでも座りなさい」
「・・・?またなんで」
「いやねぇ、俺の暇つぶしに昔の依頼でも話してやろうかと」
そう言ってイトが手に持ったのは一枚の写真。
「それ、俺が依頼したやつですよね。昔でもなくどっちかっていえば最近ですよね。しかもそれ一ヶ月前ですから」
「ん?そだっけ」
霜月 マナブと杉森 イト。
出逢いは、今から少し前。
依頼する人間違えたと。この人なんか信じなければよかったと、今のマナブは思っていた。だけれども同時に、この人がいなかったら・・・どうなっていたんだろうとも思っていた。
あった筈の未来は#無くなり__・__#。なかった筈の未来が穴を埋めるように広がって。
あぁ、また透明が溶けていく。