プロローグ
俺の名前は松永 修。 ごく普通の高校2年生・・・だと思っていた。
そう、あの日・・・
2009年、夏。蒸し暑い日差しが街を照らし、温かい風は肌をすり抜ける。
「そこの君、ちょっと道を教えてくれないかな??」
メガネをかけた背の高い老人がそこに居た。
夏休みの初め、俺は海の見える祖母の家に身を寄せていた。
「え? ぼくのこと??」
その時俺はまだ10歳の子供だった。
「ああ、鳴海堂って言うんだけど、知ってるかな?」
夏なのに白くて長いコート。 明らかに不自然だった。
「なるみどう?」
たしか鳴海堂とは近所にある古本屋のことである。
「古い形で神社の隣にあるって言う話しなんだけど。」
夏の暑い日。老人を古本屋に案内する。 それだけのはずだった。
「知ってるよ。 案内してあげるよ。」
それからの記憶は無い。
蒸し暑い夏。 そして、始まりの夏。
そして2010年、冬。
「ここは? どこ?」
赤いランプが白い壁を照らし革のニオイの漂う車内、気が付くと俺は警察のパトカーの中に居た。
「君、名前は???」
約5ヶ月、どこで何をしていたのか、何を食べ、どうやって生きていたのか分からない。
「まつなが しゅうです。」
だがその時のことだけすっぽりと抜け落ちている。
そう、俺は誘拐されてしまっていたんだ。