ん?死んだの?
真っ白な部屋、家具家財の類は一切ない。窓も照明もないのに、一定の明るさが保たれている。寝転がるだけの空間はあるが、歩き回れるほどの広さはない。
気が付くとそんな部屋にいた。
ここはどこなんだろう?
なんて考えると、思いつくのは「ここはどこ?私は誰?」といった、ありがちな台詞。ひと呼吸置こうかとするが、自分が誰なのかの記憶もないことに気が付く。
なんとなく物語の主人公になった気分が一瞬よぎるが、本当にそんなことになってしまったら目も当てられない。
ひどく狼狽して思い切り床を叩き、あまりにも少ない衝撃に、自分の手を見る、床も壁も一時期流行った高級寝具の低反発ウレタンをいくらか硬くした感じの材質で作られている。
何もできない…何もわからない… いったん落ち着こう…って 落ち着ける気がしない。自分の顔を引っ叩いたり、壁に体当たりしたりを小一時間ほど。といっても時計も窓もない世界で、小一時間といっても実際は10分ほどなのか、3時間ほど暴れてたのかの確認のしようもないわけだが…
その小一時間が過ぎ、息も切れて床に倒れこむ、寝そべって部屋の隅に目をやると、一枚の小さな紙が落ちていることに気が付いた。名刺よりも小さな紙、しかも白い部屋に白い紙、「わざとわからなくしてあるだろこれ。」とつぶやきながら紙を拾い上げる、紙には以下の言葉が書かれている。
[ あなたは、人間道の寿命を全うし死亡しました。 ]
[ ここでは、今後の身の振り方についての面接を行います ]
[ ]
[ 尚、人間道への遺恨、未練等の、今後の身の振り方に対する影響を]
[ 抑えるために、個人的な記憶は抹消してありますが、判断材料を得]
[ るための知識の抹消は行っておりません。 ]
[ ]
[ 面接の準備ができたら、切り取り線に従って、この紙の右下の部分]
[ の「相談チケット1」を千切ってください ]
[ ]
[ 三途河川庁代表 ]
[ 閻魔大王 ]
また、紙の隅に「相談チケット1」「相談チケット2」「相談チケット3」と書かれた切り取り線が付いている。
なるほど、死んだのか…
なんとなく納得したような気がするが…
死んだの?
これについては、先ほどまで部屋でのたうち回るという行為の途中でなんとなく気が付いていた。
それと同時に、このことについていくら悩んでも考えてもどうすることもできないし、未練があるかといわれても、その記憶も消されているので考えることすら不可能である。
寿命を全うしたって?
寿命っていくつだ?
じっと自分の手を見る、成人男性の手である。そんなに張りがあるわけでもないので、30過ぎといったところだろうか?しわしわでもないので、70前であることは確かなようだ。体の他の部分を見渡しても、成人男性のそれである。大きな病気や怪我の痕跡もないが、怪我などはこの部屋に入れられる時点で消してしまうことも可能だと思われるので、あまりあてにはならないが…
まぁ、子供のうちに死んだのでもなければ、平均寿命以上に大往生したわけでもないらしい。
人間道?
あの世、この世の”この世”って意味か?死んでこっちに来たら”この世”が”あの世”で、”あの世”が”この世”?わかりにくいから生前の世界に独自の名前を付けたのだろうか?
しかしなんで道なんだろう?柔道に華道、北海道に東海道、道が付くものはいろいろあるけど、世界にも道ってつけるのが通例なのだろうか?
世界なので人間界とかにしたほうがいいのではないだろうか?あ、そうするとこっちの世界にも自分を含めて人間がいるから、あっちもこっちも人間界になってしまう可能性があるな。
まぁ、誰かが勝手につけた名前なんだろう。気にしてもしょうがないか。
今後の身の振り方の相談?
今のところ、これが大問題である。
いずれにしても、個人的記憶を封印したままで今後の身の振り方を考えろと言われた時点で、「これまでの生き方を反省して悔い改めろ」とか、「お前が幸せにしたもしくは、不幸にした人々に対して何かをしろ」というようなことはないだろう。実際そんなこと言われても意味わかんないし。
ということは、相談時に「天国に行きたい」と希望すれば天国に行けるという可能性があるということになる。ただし、それなりの資格や努力が必要となる可能性も否定はできないが…
また、「天国か地獄かどちらかを選べ」という書き方でないことから、それ以外の選択肢が提示される可能性もあるということか。だとすると、「異世界に転生して、ドラゴンを倒して勇者と呼ばれ、けもみみロリ少女とむふふな世界」というのを理想の第一希望としておこう。「なんで、自分にはこんな知識があるんだろう?」自分の中の偏った知識をつなげていくと人間界での自分の立場や性格などをある程度想定できるのではないだろうか?なんてことを考えてみるが、きっかけや、比較対象がないと偏ってるかどうかの判断もつかないので、しばらく悩んで打ち止めとする。
等々、真剣に悩み、時には脱線妄想しながらいろいろと考えているうちに時間が過ぎる。実際に何時間過ぎたかは見当もつかないのだが…
「しかし、ベッドもトイレも飲み物もない部屋に何時間も閉じ込めるとは」なんてことに気が付いたが、自分自身が尿意も渇きも感じないことに気が付く。いっそこのまま、10年ぐらい悩んでるふりをしとこうか、なんか快適だし… 考えるのも面倒だしこのまま寝てやろうってことで、何もない天井を向いて目を閉じる。
いや、眠くもならないし!
ひま~~~ 考えても結論なんか出ないから、考えたくもない~~~
しょうがないので、もう一度、唯一の情報源である小さな紙をよく見てみる
閻魔大王の肩書の「三途河川庁」って三途の川の管理省庁って意味だろうけど、政府組織を名乗るからには、その政府組織は、市民から税金を徴収して、官僚や、教育機関、警察組織などを維持しているのだろうか?まぁ、自分の身の振り方にはあんまり関係ないかな?
相談チケットは3まで、4隅のうちの、左上にはチケットの切り取り線がない。ということは、3回の相談で身の振り方を決めろということだろう。1回目は、状況把握に使って、2回目に選択肢を出してもらい、3回目で決定するのが効率がよさそうだ。
そんなこんなで、ここにいては、これ以上の情報を得ることもできないし、相談を引き延ばしたところでくだらない妄想以外することもないことを何度も確認する。
「初めての場所では、慎重に行動しないと、トラップに引っかかって即死の可能性もあるしな」などとつぶやき、変な妄想の世界に自分の判断の責任をかぶせるといった無責任な思考を継続しつつ
「そろそろ潮時かな」とつぶやき、”相談チケット1”を使おうと意を決する。
切り取り線を何度も折り曲げて、「ピリリ」と紙を千切る。ちょっと余計なところまで千切れてしまったが、細かいことは気にしなくても大丈夫だと思う。多分…
悩んでるよりやってみろ ってことで、なんとなく書き始めてみました。
結構長いこと生きてるつもりですが、筆者の恋愛も戦闘も経験が乏しいため、なんか地味な話になりそうです。
まぁ、自分で読んでみても、話がとっ散らかってて読みにくいことこの上ない。
何分初投稿なもので、慣れるまでご勘弁ください。
目標、週一回更新ということでよろしくお願いします。