~狩人殺し 戦闘開始~
「油断はするなよ。」
俺はそう軍人プレイヤーに忠告する。
「分かってるよ。こいつの一撃で俺は死ぬかもしれないんだ。油断なんて出来るかよ。」
軍人プレイヤーもそう答える。
俺たちの警戒をよそに狸は全くの無警戒。
しばしの間お互いの睨み合いが続く。
「俺が仕掛ける。俺が弾を撃ち終わったら合図をする。追撃は任せたぞ。」
軍人プレイヤーがしびれを切らして、そう言った。
「お、おう。分かった。」
俺も頷く。俺ももう攻撃したいと思っていたところだった。
軍人プレイヤーは油断なく少しずつ距離をつめる。軍人プレイヤーが持っている銃はショットガンだ。近距離で発砲すれば外れることはまずない。
少しずつ少しずつ近づき、狸が射程範囲に入った。
「死ねぇ!」
バガン!バガン!
軍人プレイヤーはショットガンを二発発砲する。
「!!!」
狸は弾丸をまともに食らい苦しみで呻いている。
(・・・?こんなに弱いのか?)
軍人プレイヤーはさらに発砲し続ける。
(これなら倒せるかもしれない!)
俺は追撃のため狸の死角に回ろうとその場を離れ、背後に回るために移動する。そして見つからないように草むらに全身を隠す。
(あとは合図が出たら背後からバットで一撃を食らわして倒す!いける!いけるぞ!)
そう思っていた瞬間、ポンッと音がした。次の瞬間、
ドッ!ドサッ
鈍い音がし、続いて何かが落ちるような音がする。
「おい、大丈夫か?」
思わず顔を出して確認してしまう。
そこには今まさに灰になっている軍人プレイヤーがいた。
「っ!?おい!嘘だろ!?」
「少し油断しちまった・・・近づきすぎた・・・くそっ!死にたくねぇよぉ・・・」
そう言って軍人プレイヤーは消えた。
(まずい、まずい、まずい!!どうする!?いやまずあいつはどこにいる!?近くにいるのか!?)
慌てて周りを見回すが近くにそれらしき姿はない。
(よし。ひとまず大丈夫そうだ。)
すぐに立ち上がり歩き出す。先程いた場所に戻ってみようと考えたのだ。
「いた・・・のか?」
先程の狸のいた場所に戻ってくると、そこには狸とは違う何かがいた。大きさこそそこまで違わないにしても、見た目がどう見ても狸ではない。
まず黒く丸い顔に丸く白い目が二個ついており、鼻のような部位はとても小さく見える。口は三日月型に笑った様な形で、歯は肉食動物のような牙が生えている。耳は猫耳が近いが、胴体や尻尾は犬のような印象がある。完全にモデルが現実にはおらず、オリジナルで作られたモンスターだろう。
「本当にこいつなのか?」
しかしどうにも信じ難い。こいつが《狩人殺し》なのか?もしかしたらこの森の強い部類のモンスターじゃないのか?
「クゥーン・・・」
鳴き声は犬みたいである。しかも結構かわいい系の。
(本当にこいつが一撃であの軍人プレイヤーを殺したのか?こんなにちっちゃいやつが?)
あの軍人プレイヤーは防弾チョッキみたいな防具を着けてたし、頭にはヘルメットも着けていた。防具的には俺よりもよっぽど上だった。
(一応攻撃するか?敵だったらレベルが上がるかもしれないし。)
そう思いながら近づいていく。と、
「ヴヴヴ・・・」
めっちゃ警戒され始める。敵対モードだ。
「やっぱお前敵か。なら倒してやる!やぁっ!」
先手必勝!とばかりに素早く動き、バットを振る。
「・・・ッ!!!」
ブンッ!
「!?」
俺の振ったバットは黒猫もどきには当たらず空を切る。
(どうなったんだ!?)
周囲を見回し、黒猫もどきを探す。
(どこだ?どこにいった?)
ヒュン・・・カサッ
「!!」
黒猫もどきは目の前に落ちて、いや降りてきた。
(まさかこいつジャンプして俺が振ったをバットをかわしたのか!?)
もしそうなら恐るべき身体能力。俺が周囲を確認してた時はいなかった。つまり、十数秒は空中にいたことになる。
(こいつだ。こいつが《狩人殺し》だ。ここの森のボスだ。)
この異常が多い森で一際異常な生物。それがこいつだ。今までの経験からしてこいつこそ《狩人殺し》に違いない。
「こっからは俺も本気だぞ。覚悟しやがれ!」
あえて大声で叫ぶ。そうでもしないとビビってしまう。ただでさえその辺にいたモンスターにも勝てなかったのに、ここのボスにだけ勝てるという根拠はあるだろうか。いや、ない。
(正面からは恐らく無理だ。側面か背後のどっちかだが、そう簡単に背後を取らせてくれるか?いや、やってみないことには分からない!案外簡単に行けるかもしれない!)
さっきの正面からの不意打ち攻撃がかわされた以上は、正面からの攻撃は当たらない。すると、側面か背後からの攻撃を選択するのは当然とも言える。
(さぁ、いくぞ!)
俺は覚悟を決めて、走り出す。
ありがとうございました。本当にありがとう。
これを読んでくださっている方は心優しきいい人だと思います。本当にありがとうございます。