星71 変わりゆく世界
そんな中、世界は少しづつ変化していく。
魔物の脅威が増えすぎて、そして人々の生活がままならなくなっていった。
それは、無視できないほどの甚大な被害。
エルドは魔物となった事で、人間の心を忘れてしまったのかもしれない。
外の世界はそんな風になっているというのに、森の中は静かなままだった。
それもそのはず。
森はあれから閉じられてしまい、強く外界を遮断したせいで時の流れが異なる様になってしまったのだから。
たった一週間だというのに、外の世界ではその間に百年ほど経ってしまったらしかった。
?「誰かいるの……」
そして、時は巡り。今度はステラ達が人を迎える番だった。
家の前、通りかかったのは夜の魔女。
その人は、世界中から、魔物を生んだ張本人だと誤解されている不幸な女性だった。
夜の魔女及ばれた女性は可愛らしい名前の持ち主でもあった。
ステラ「スピカって可愛い名前よね。私の名前も星っていう意味があるんだけど、お揃いね」
スピカ「ありがとう。そんな風に似ている事を喜んでもらえるなんて思ってもみなかった。久しぶりに人と話せた気がする。長い間誰とも話してなかったから、言葉を忘れていないか不安だったの」
一体どれほどの間、一人で過ごしていたのだろうと思うと少しだけ胸が悲しくなる。
スピカ「ステラはちょっと雰囲気が私のお母さんに似てる。でも、優しい所は妹のリィアに似てる」
ステラ「そう?」
スピカ「二人共、もう話す事は出来ないけど、でも……。凄く大切」
それから森の中に住み着いたスピカとは何度も話す機会があったが、しかしその交流は長くは続かなかった。
ステラ達のいる森が焼き払われたからだ。
幸い、火傷を負ったもののステラ達も彼女も無事だった。
しかし大樹は体の大半にダメージを負ってしまって、今まで通りに森を守れなくなってしまった。
無事だった森の豊かな場所は、人々によって実りが奪われ始めている。
森は生き物達が安らかに住める場所ではなくなってしまった。
スピカは嫌われている自分がいたせいかも、と森を出て言った。
ステラ達から見て、この世界にやってきて二週間が過ぎた頃の事だ。
ステラ「また人がいなくなっちゃいましたね。世界の様子も変わってて、なんだか世界中から取り残されてる気分です」
家に招き入れたスピカは、恐ろしい魔女などにはとても見えなかった、
どこにでもいる、ただの人間にしか見えなかったというのに。
それなのに、どうしてあんな風に一人でいなければいけないのだろう。
人々が噂をするような悪い魔女などには全く見えなかったのに。
ツヴァイ「人の噂なんてそんなもんだ。お前だって分かるだろ」
ステラ「そうですね」
王宮にいた時に、何度も噂が一人歩きしていた場面に居合わせた。
本当はそうでなくても、事実は容易にねじ曲がってしまう。
より立場の強い人が言っていたから、より多くの人が言っていたから、ただそれだけで。
それだけの事で。
ツヴァイ「誰かを守るためには、たとえ気が向かなくても曖昧な悪にも剣を向けなくちゃならない時だってあるんだ。騎士になった時お前にそれができるか?」
ステラ「分かりません。でも……、それが騎士の仕事なんですよね。そうして毅然な態度をとる事で、皆は安心してくれる」
そうだ。
誤解をしたり、疑問を抱いたり。
そういう事は人間だから、騎士にだってあるだろう。
だが、それは騎士が騎士である以上は、表に出してはならない感情だ。
ステラ「スピカも、そうやって誰かを守りたい人達に悪者扱いされてるんですね」
ツヴァイ「そうだ」
ステラ「私にそれができるのかしら」
ツヴァイ「その答えが出た時に、俺はお前に託してもいいかもな」
ステラ「?」
ツヴァうイ「いや、何でもない」




