星52 二日酔い
お疲れ様会を装った酒盛りが終わった後の事だった。
ステラはもう二度とお酒は飲まないと誓っていた。
ベッドの上から起き上がれない。
ツヴァイ「馬鹿だろ、お前」
ステラ「ぅぅ……」
ツヴァイ「二日酔いで起き上がられなくなるとか、お前馬鹿だよな。知ってるか、ニオが言ってたぞ、そういうの脳筋って言うらしいな」
ステラ「すみません」
ツヴァイ「また俺の世話になるなよな」
ステラ「ごめんなさい。もうしません」
ステラはただベッドの上で、大人しく聞くしかない。
だが、叱られるのは苦手だ。
別に誰からも叱られない環境で生きて来たと言うわけではないが、ステラは身近な人に叱られるのに弱かった。
その人が自分の事を心から心配してくれていると分かっていると余計に。
ステラ「心にグサグサくるのよね」
ツヴァイ「こなかったら、とんでもねぇ人間だろうが」
確かにそうだが。
ステラ「でも、こうしてると何だか不思議な感じ。あの頃に戻ったみたい。先生なんか白衣着てますし」
ツヴァイ「着てちゃ悪いかよ」
ステラ「そんな事言ってません。やっぱりそっちの方が合ってますね」
ツヴァイ「そうか?」
ステラ「剣を握るよりもずっと。先生優しいですから、きっと本当は戦うのとか嫌いなんでしょう?」
ツヴァイ「たわけ」
ステラ「たわけって何ですか」
ツヴァイ「知らねぇのかよ……」
布団にくるまって横になっていると、辛いはずなのに妙な安堵感が湧いてくる。
昔に戻ったような感じがして。
ずっと、あの頃は辛い事の方が多いって思ってたのに、案外そうでもなかったのかも。
楽しい事もあったし、嬉しい事もあった。
あの時はそれに気づけなかっただけ。
ツヴァイ「俺は俺が分かんねぇままだよ。医者でも剣でも救いたい奴が救えてねぇんだから」
ステラ「先生は誰かを救いたい人なんですね」
ツヴァイ「似合わねぇだろ。俺は、俺が何になれば良いのか、何になれば大切なもんをちゃんと守れるのか分かってねぇんだ」
ステラ「それって、そんなに大事な事なんですか? 何かになるって」
ツヴァイ「あぁ?」
ステラは視線でツヴァイの使っている鞄を示す。
医療道具の入っている鞄を。
それは、ずっと前にステラが贈った物だ。
ステラ「私は騎士になりたいけど、それは先生を見たから。先生がきっかけだったからです。きっともっと他の人と出会う機会があの頃の私にあれば、医者を目指していたり、ひょっとしたら相談者……カウンセラーみたいな人を目指していたのかもしれません」
そうだ。
あの頃のステラにいた大人は、たまたまツヴァイだけで、目指そうと思っていたのはたまたま騎士になっただけ。
やり方は無限。
可能性は無限にあるはずだ。
ステラ「何で助けるか、じゃなくて、助けるために今の自分に何ができるか……それが大切なんじゃないかなって思うんです」
自分の考えを言い終えれば、ツヴァイは布団を引き上げて。
ステラをすっぽり覆ってしまった。
息苦しい。
ツヴァイ「ほんっとお前ってやつは……、ガキの頃から俺を驚かせすぎだ。薬置いとくから、ちゃんと飲めよ」
ステラ「はい」
もそもそと布団から顔を出せば、見えるのは扉に向かうツヴァイの背中だけ。
ステラの思いが届いているかどうかは分からなかった。




