星11 教師の手伝い
ツヴァイは久しぶりにグランシャリオの国に戻ってきた。
いや、戻って来ざるを得なくなったのだ。
故郷の国が無くなったからだ。
大国に戦争を吹っかけられて、国は敗北。
王族は根絶やしにされて、国民は奴隷となった。
実力は火を見るより明らかで、戦争にすらならなかった。
そこにあったのは一方的な蹂躙だけだった。
その中でツヴァイは、時に騎士として敵に歯向かうのだが、それは叶わず。
また時に医者として人を救おうとしていたのだが、それも叶わない。
助けたいと思った人間全てを助けられず、失ってしまう。
ツヴァイは孤独になった。
誰もいない国で、侵略者が我が物顔を聞かせている国で、一人で生きていくだけの力を持たなかった彼は逃げる事しかできなかった。
そして、全てを失くしたツヴァイは、グランシャリオの国へ戻って来て知り合いの伝手で教師をやる事になった。
そこでかつての、患者ステラードと再会したのだった。
物思いから戻って来るなり、罵声が浴びせかけられた。
ステラ「もうっ、何度言ったら分かるんですか。ちゃんとご飯を食べて下さいって言ったでしょう。不健康ですっ!」
怒りを表明する者へと視線を向ける。
職員室にいるのはツヴァイと、他の教師が数名。
そして現在何かに対して怒っているステラードだ。
よくそんなに毎回毎回怒れるものだと、ツヴァイは思う。
変わっていないと思ったが、案外そうでもないようだった。
ツヴァイ「で、今日のお前は何に怒ってるんだ?」
ステラ「私の今までの話し聞いてなかったんですか!?」
ツヴァイ「相手されてなかったからってそう拗ねるなよ」
ステラ「拗ねてませんっ」
分かっている。
だが、からかうと面白いから、つい余計な事を言ってしまうのだ。
ステラ「聞きましたよ、朝ごはん食べてきてないんですよね。駄目じゃないですか、それに机の上もこんなに散らかして、掃除しなきゃ駄目です」
ツヴァイ「あーはいはい、分かった分かった。明日やる」
ステラ「先生の明日やる、はずっとやらないんです。だから今やってください、すぐやってください」
まったく自分に害が及ぶわけでもあるまいし、どうしてそんな風に怒れるんだか。
ステラ「私、先生がこんなにいい加減な人だとは思いませんでした、もっとちゃんとしっかりしてるかと思ったのに。ご飯食べないし、掃除できないし、言い訳するし、意地悪言ってくるし、駄目人間じゃないですか」
ツヴァイ「お前、言うようになったな。俺年上だぞ」
ステラ「じゃあ年上なら、偉いんですか?」
いや、全然。
ステラ「もう……」
ため息をつきつつも、ステラードは勝手知ったると言わんばかりに机を掃除して行ってしまう。
ツヴァイ「あ、おい。そこらへん重要な書類があんだよ」
ステラ「知ってますよ、だから、ほら他のものと交ざらない用にちゃんと横に避けてあるでしょう」
あった。
綺麗に分けられている。
いい案が浮かんだので、ツヴァイはそれを口に出す。
ツヴァイ「今日から、お前が俺の代わりに教師やれ」
ステラ「い、や、で、す」
反応は予測できたが、言いたかっただけだ。
ツヴァイ「ステラード先生ってか、にあわねー」
ステラ「先生が言ったんじゃないっ!」
そこで馬鹿にされたと思うのもお約束だった。
怒りの意を表明してくる便利な女子生徒。
顔を真っ赤にして怒るステラードを見てツヴァイは思う。
単純な所はやはり変わらない。
昔からずっと。




