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ラーメンおいしい
「あの…すみません、何度もチャイムを鳴らしたのですが…。」
玄関の方から、申し訳なさそうな声がした。
死んでいる父の顔にティッシュを被せて向かうと、きっちりと制服を着た、端正な顔の警官がいた。
黒髪を短く切りそろえており、さわやかそうな印象を受ける。
「黒田 楓くんがお帰りになったと伺いまして。」
「あ、僕です。」
警官は、僕を見ると、ほっと胸をなでおろした。
「良かった。無事そうですね。申し遅れました、わたし、巡査部長の友田と申します。
お疲れのところすみませんが、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか。」
「はい。」
「まず、今日何があったか覚えていますか?。」
警官は、僕の目をまっすぐに見つめながら尋ねた。
その目は、何も逃さないと言いたげだ。
「はい。…朝高校に行くと、みんながおかしくなっていて…。
それで、逃げたら、そこの細道に黒い繭みたいなのがいて…。」
はい、はい、と返答しながら警官は難しい顔で僕の話を聞いた。
手元では、手帳にせわしなくメモを取っている。
「一つ一つ質問していきますね。
まず、おかしくなっていた、とは、どんな様子ですか?。」
高校でのみんなの様子を思いだす。
「えっと、普段大人しい子に自傷行為をしたような跡があったり、
普段明るい子がなんだかイライラしてたり…。
それで、おかしいなって思ってたら、みんなが…普段、仲が良い、奴らまで…殴って、蹴って、死ねって、死にたいって…。
僕も、僕のせいだから、死にたくなって、死のうって死ななくちゃって…。」
「落ち着いてください。ゆっくり、無理せず話してください。」
友田さんが、僕の背中をゆっくりとさすってくれた。
ひゅ、と息が漏れる。いつの間にか呼吸を止めていたらしい。
「大丈夫…?。」
姉の言葉に頷く。いつのまにか復帰した父も、頭に大きなたんこぶを作って僕を見ている。
「新記録じゃん。」
「ああ、今までで一番痛い。母の愛を感じる。」
とても神妙な顔で答えてくれた。そんな顔をしていても、頭のたんこぶのせいで、笑いがこみあげてくる。
「もっと感じたいの?。」
母が般若の影を背負いながら父を笑顔で見つめると、父は「これ以上は命の危険を感じる」と青い顔で黙った。
「…ふっ。」
なんか、気が抜けた。
この感じなら、冷静に話せそうだ。
父よ、ありがとう。骨は拾おう。
「いけますか?。」
友田さんが生温い目で僕らを見ながら言った。
前言撤回だ。父のたわわな胸筋をもぎとってやりたい。
「はい、いけます。………。」
僕は、朝から今までの事を、全て話した。
黒い繭の話になった辺りから、顔をしかめ始めた友田さんは、終わる頃には頭を抱えていた。
「………で、さっき起きて、今に至ります。」
「そう、ですか。ご協力ありがとうございます。
実は、今回発見されている人々はたいてい、黒いドームの中にいた時の記憶を失くしているんですよ。
持っている人も、普通に過ごしていただけだとか、何も分からなかったんです。
それに、高校の生徒さん達は…、その、非常にショックを受けたようでして、呆然自失としていて、とても話を聞けない状態なのです。
本当に、君が無事でよかった。」
って感じです。
to be continued!