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何事も受け取り方次第ですよねっ。
薄い意識の中、夢のようなものを見た。
ある教室で、一人の少女が、二人の女子生徒と話している。
「アンタおかしいんじゃないの!?。」
茶髪の気が強そうな生徒が少女に詰め寄る。
よく見ると、生徒のうち一人、黒髪のおとなしそうな生徒が涙をこぼしている。
「おかしいのはあんたよ!これはあたしのなの!!。」
少女が胸元にかわいらしいシャーペンを握りしめて叫ぶ。
「あんたねぇ…。かなこが優しいからって、いっつも人のもの盗んで!
いい加減恥ずかしいのと思わないの!?。」
茶髪少女は顔を真っ赤にして、今にも泣きそうなくらい瞳を潤ませている。
それほど少女の言動が許せないのだろう。
「やめて…。大丈夫だから…。たまたま同じもの持ってただけかもしれないし、ね?。」
黒髪の生徒が、茶髪の少女の服の裾を掴んで懇願した。
少女は「そうよ!。」と叫んでいる。黒髪の生徒の顔は複雑そうだ。
「そう言ってもう何回目?!もう許せない!。」
黒髪の生徒の肩をつかんで叫ぶ茶髪の生徒は、今にも泣きだしそうだ。
よほど二人は仲が良いのだろう。よく見ると、おそろいの髪飾りを付けている。
「許さなかったからなんなのよ!。」
ふん!と鼻で笑うと、少女は教室から去っていった。
残された二人の生徒の周りに、慰めようと何人もの生徒が集まる。
「なんなのよ!あの子!絶対あれ、かなこのシャーペンじゃん!。」
茶髪の生徒の言葉に、周りの生徒も同意らしく、うんうんと深く頷いている。
それを教室の扉の前で聞いている僕の胸の内に、覚えのない怒りが沸き上がった。
これはあたしのものなのに!
朝あの子が持っているときに、欲しくなったんだもん!
私が欲しくなったら、それはあたしのものでしょ!?
いままで大人しくくれてたのに、いきなりなんなのよ!!
ああ、これは、さっきの黒い少女の記憶だ。
ふと気が付くと、場面は変わり、夕暮れの教室は、昼間の明るい教室になっていた。
少女が登校してきたようだ。
「おはよう!!。」
普段ならしぶしぶながら、何人かは返事をしてくれるのに、今日は誰も何も言わない。
「ちょっと!無視とかサイテーー!。」
金切り声をあげて少女はあたりを見渡した。
こうすれば、必ずかなこは反応するのだ。
しかし、今日は様子が違った。
かなこもは、申し訳なさそうにしながら返事をしなかった。
怒りが頭を焼いた。
「なによ、なによなによなによなによなによ!!!!!!!。
あたしを無視するの!?あんた達、先生に言いつけてやるからね!!。」
吐き捨てるように教室を出ると、「もうやめようよ…。」というかなこの声が聞こえた。
ふん!今更後悔しても遅いんだから!!
「先生!。」
「…なんだ、原。」
嫌そうな顔を?しながら先生が振り返る。
この先生は、いつもあたしに嫌なことばっかり言ってくるんだけど、いじめられたんだから、あいつらに制裁を加えてくれるだろう。
先生は、その気持ち悪い顔を私に向けて、話した。
「…無視されただけだな?なにか、お前を馬鹿にするようなことを言われたり、暴力をふるわれかけたら、また改めて言いに来い。
あのな、お前は他人の事を考えてなさすぎるんだ。
世界はお前を中心に回っているわけではないということを覚えろ。
それで、他人を思いやったふるまいをすれば、そうだな、かなこなんかはすぐに許してくれるだろ。
いいか、自分がしたことで相手がどう思うかを…原っ!。」
なんなの、意味わかんないことばっかり!なんであたしがあんな奴らのこと考えなくちゃいけないの!?。
怒りに震えながらその日は終わった。
そうして、みんなに無視されて日々は過ぎていった。
ある日、
「なぁ、お前が原香澄?。」
金に近い明るい茶髪の少年が話しかけてきた。
何この人、いきなり。顔めっちゃ怖いし!
「いい加減、謝んねぇの?。」
「なんでよ?。」
あたし何も悪いことしてないわよ。
むしろあんたの方が、悪いことばっかりしてるんじゃないの?
「…なんだ、その態度。」
いきなり胸倉を掴まれた。
「なにすんのよっ!。離しなさいよっ!!…っ!!いたぁい!!!。」
少年は顔を殴ってきた。
「女の子殴るなんてサイテーよ!!!。」
「お前に言われたくねぇよ。」
少年はにやりと口端を上げた。なにがおかしいのよ!
「あいつに何したのかすら覚えてねぇのか?。」
髪を引っ張って無理やり、かなこの方に顔を向けられた。
「かすみちゃん…。」
いつものように涙を流すかなこの顔には、おおきなアザがある。
顔の左にできたアザは、湿布を貼っていても分かるくらい大きく腫れて、目も上手く開けられないようだ。
「いい気味ね。」
今度はおなかを蹴られた。
「どうしたら、そうなるんだよ。」
あまりの痛みにうずくまったあたしを、上から見下ろす少年と、何もしないみんなに腹が立つ。
どうせ笑って見てるんでしょ。
「かなこがお前に何したんだよっ!。」
「あたしがいじめられるようになったのは、かなこのせいじゃない!。」
「いじめられてる?誰が。」
「あたしよ!。決まってるでしょ!?。」
少年は冷たい目であたしを見た。
「ちげぇよ。あれは、皆がお前に愛想尽かしただけだよ。」
そんなこともわかんねぇの?。
「それで無視するの?!それっていじめじゃない!。」
意味分かんないのに、さらに少年は意味不明なことを言った。
「お前、話してるだけで害じゃん。無視は正当防衛だよ。」
意味わかんない。
少年は、少女に何を言っても無駄だと気づいたのか、苦々し気な顔で少女の傍から離れ、かなこという少女を慰め始めた。
それと同時に視界が黒く染まっていった。
こんな人いるなぁ。