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強いいじめの表現がありますので、ご注意ください。
嫌な思いやトラウマを呼び起こさせる恐れがあります。
『なんでっ!なんでなんでなんでなんでなんで!!!!!!。』
鞭が無くなり、完全に人の姿になった香澄という少女は慟哭した。
『なんでいつもあたしばっかり!!。
あたしは何も悪くないのに!みんなあたしをいじめる!!
みんなあたしの言ってる事を聞いてくれない!!
お父さんだって、お母さんだって!。』
瞳から大粒の涙をぼろぼろと流しながら叫ぶ少女の姿はかわいそうで、思わず胸が苦しくなった。
少女はスカートと思わしき部分を握りしめ、より悲痛な声で叫ぶ。
『机を蹴られて、何でいるの?とか!
よくそんなにキモくて生きてられるねとか!
あたしが何回もやめてって言っても、何度も何度も笑顔で殴られて、蹴られたし!
それをみんなは、何にもしないで笑って見てるし!
お父さんとお母さんに言ったら、構って欲しいだけって!!
なにそれ!?なんで、なんであたしばっかり!!』
より少女の声はヒートアップしていき、言い終わる頃には息が切れていた。
何故僕はこの少女を救ってあげられなかったのだろうか。
もし少しでも救えていたら、ここまで少女が思いつめることも無かったかもしれないのに。
彼女のクラスの一組には、友人を訪ねに何度か行ったことがある。
その時、確かに誰か、誰とも話さず、暗い表情で椅子にぽつんと座る少女がいた。
その様子は関係のない僕から見ても悲壮で、今から考えると、今にも死にそうなほど追いつめられていた。
しかし僕は、…能天気にも友人とただ楽しく話して笑っていた。
関係ないから。彼女に関わって、いじめっ子に絡まれるのは避けたかったから。
そしてなにより、面倒だったから。
後悔と過去の自分への嫌悪で息が詰まった。
「あそこで僕が何をしたって、どうにもならなかった!」「あの時は、そこまで追い詰められているなんて分からなかった!」頭の片隅で僕が言い訳を必死に叫ぶ。
ああ、でも、すべて言い訳でしかない。
僕は彼女を救えたかもしれない。
しかし僕は面倒だなどという自己中心的な考えで、その可能性を無駄にした。
何故、どうして。
「それで?。」
それで…、………え?
いつの間にかうつむいていた顔を上げると、頬を紅潮させ、とてもイイ笑顔をした小春さんが目に入った。
「え、小春さん?。」
「それで?どうしたの?香澄さん。もっと話して頂戴な。」
その声は実に楽しそうで、語尾にハートマークでもついていそうな勢いだ。
『…え?』
小春さんの様子に流石に少女もきょとんとした。
「誰にも頼れず、誰にも相手をされず、一部の人々からはいじめられる。
そんな絶望的な状況で、普通なら選ぶ自殺を選ばず、恐らくかなり特殊な方法でそんな姿になって、見事今復讐を果たしているんでしょう?
どんな思いで?どんな状況で?どうやってその境地にいたったのか聞かせて頂戴よ!。
私、とっても興味があるわ!。」
『何、あんたもいじめられてるの?。
それであたしみたいに復讐をしたいとか?
…そっか、その思いが強かったから、あんなに…。
いいわ、教えてあげる!』
ふむ、と一人納得すると、少女は小春さんを指さし、胸を張って声高々に言った。
『この姿はね、あたしやあんたみたいな子への神様からのプレゼントなの!
憎しみや悲しみ、妬み僻みとかの、強い負の感情を持った子にはね、神様が来て、あたし達の願いを叶えてくれるの!
こんな感じの姿になるにはちょっと時間はかかるんだけどね、その間だけ待ってればなーーんでも願いが叶うの!
ねっ!最高でしょ!あなたも、あたしの攻撃を無効化するくらい強い思いを持ってるんだから、きっとすぐにでも神様が来てくれるよ!。』
少女は楽しそうに、まるで宝物を見せる子供のように小春さんに語った。
けれど、違う。彼女がいじめられる?それはどこのおとぎ話だ?
彼女は…彼女はそんな人物ではない。
「へぇ、それは素敵ね。」
『でしょう!?』
「けれど、最高につまらないわ。」
『…え?』
「あなたの無様な話が聞きたかったのに、神様?贈り物?なぁに、それ。
つまりあなたは、突然降ってわいた幸福に酔っていただけなのね。
…もうっ、つまらないわ。黒田君、今回はハズレね。」
『…なに?なんなの?どういうこと?』
なんだかさっきから少女は困惑してばかりな気がする。
しかし、少女の反応は正常だ。
『あ、ああああんた、なんでそんなことが言えるのよ。
こんな、かわいそうと思わないの!?
意味わかんない!!どういう神経してるの!?
頭おかしいんじゃない!?。』
「あら、もしかして悪口?いいわよ、無様じゃない。そうね、あなたに私のモットーを教えてあげましょう!」
ちょっと、まて、それは色々まずい。
頭の中で、まだネコを被る前、小学生の彼女が自信満々に言った。
「私以外、全部ゴミ!!!!!!。」
「言い切りやがったこいつ!!!!。」
「うふふ、あなたも、そこの黒田くんも、全部ゴミで私以下なのよ。
そのゴミからの悪口なんて、うふふ、なんだかおもしろいわね。」
僕の叫びを無視して彼女は続けた。そっか、そうですよね、あなたはそういう人だ畜生。
「それで?悪口が効かないなら、今度はどんな無様なことをしてくれるの?。」
とてもイイ笑顔だ。もはやすがすがしい。
三者三様の考えです。
少女についての詳細は、次話にてお話ししたいと思いますが、こちらも中々嫌な話になりそうです。
この小説はフィクションです。実在する人物、事件とは関係ありません。