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夢を見た。
僕はぼろぼろの布切れのような服を引っ掛けてパン屋の前にいた。
パンのいい匂いが鼻をくすぐり、お腹が鳴る。とてもお腹が空いていた。どうにか1つ分けては貰えないだろうかと、窓ガラスから中を覗く。中では優しげな女性がバタバタと慌ただしく開店準備をしている。ひと段落したのであろうタイミングで扉をノックした。
トントン
「はぁい、すみませんまだ開店してな、いんで、す…。」
少し困り顔だけれど笑みの浮かんでいた顔が、段々と怒りを湛えた般若のような表情になっていった。
そこから場面が飛び、気が付くと僕は路地裏で座り込んでいた。強く打ったらしい背中がじくじくと痛む。飢えも酷く、目の前が霞んできた。体が自由に動かせない。ゴミとゴミの間に挟まれて、体を横にすることも出来ず、ただそこに座り込んでいた。
すると目の前に大きな肉が現れた。柔らかそうな肉は生のままだが、ここ数週間ゴミに捨てられた食べカスしか口にしていなかった自分にとってそれは素晴らしいご馳走であった。
近づいてきた肉の手をとりかぶりついた。熱い血が口内に溢れ、喉を潤し、弾力のある肉を噛めば芳醇な旨みが舌を楽しませた。飲み込むと多幸感に溢れ、もっともっとと本能が望むままにかぶりつく。
美味しい、素晴らしい、これ以上に美味しいものはこの世に無いんじゃないだろうか。いや、絶対そうだ。
僕は神に感謝しながら、再び肉にかぶりついた。
必死の思いで小春さんを追い出し、ふて寝を決め込んだ僕は、夜中にメールの着信音で目が覚めた。
なんだか幸せな夢を見ていた気がする。ぼんやりとそう思いながら窓の外を見た。
「うわ、外真っ暗…。どれだけ寝てたんだ僕。」
スマホを手に取ると、メールの着信は戸田からであった。
件名には何も書かれていない。
なんだろう、と何気なく開いたメールの内容が理解出来なかった。
『親が消えた、どうしよう黒田』
「…消えた?。」
行方不明、ということだよな。
けれど、そんな突然に?。
戸田の家の両親は、落ち着いた大人の雰囲気の人だ。
少し抜けているところもあったが、良識があり、物事を深く考えることの出来る人達だ。
何度も自分の親と比べては、その人間性の差にため息を吐いたこともある。
そんな人達が、何も言わずどこかに行くわけが無いし、想像も出来なかった。
ということは、
「事故とか…?。」
だとしても、普通すぐに家族に連絡が行くだろうし、両親もなるべく早く連絡してくれるはずだ。
きっと、何か急な仕事が入って、連絡する暇もないんだろう。
『急な用事でも入って忙しいんだろ、考えすぎだって。』
そうメールを打ち、その内容に自分で納得しているはずだが、なんだか胸騒ぎがしていた。
「?。まぁ、いっか。」
きっと気のせいだろう。
僕はもう一度瞼を閉じ、朝まで起きることは無かった。




