12
お久しぶりです。
どら焼き食べたい。
「これに入る?。」
と言ったか、この人は。
神だとかいったものを信じる愁傷な心なんて持っているとは思えないが、これに関しては、目の前で願いを叶えた少女を見たから信じる気になったのだろうか。
それにしたって僕を誘わないで欲しい。
未成年にたばこや酒を勧めたり、ドラッグを勧めるくらいに質が悪い。
じとりとした視線を向けて、非難するが、当然の如く効かない。
「そうよ。」
無い胸を張って言うのはいいが、お断りだそんなもの。
個人の思考に僕を巻き込まないで欲しい。
面倒だから、彼女に逆らうことはあまりしないのだが、今回ばかりは拒否しよう。
よし、言うぞ。
「いやです。」
言えた!と思ったのもつかの間。彼女は僕の顎を掴み、妖艶な表情でささやいた。
「あなたに拒否権なんてないわよ。」
げんなりとする僕に、にんまりと笑う彼女は嫌になるほど美しい。
宗教に入る、といっても複雑な手順は必要なかった。
普通そんなものなのか、この宗教が特別そうなのかは判断しかねるが、手続きは数クリックですんだ。
年齢、名前、性別、何を願うか。
最後の項目はともかく、それ以外はレンタル店で登録するときに記入するものとそう変わらない。
あまりに現実味が無くて、どこか他人事のように手続きを続けていた。
しかし、メンバーの欄に「黒田 利久」という自分の名前を認めたとたん、その異様さにめまいがした。
神だとか、信仰だとか、ともすれば人を凶暴にもする宗教に、不幸体質の僕が入るとか、嫌な予感しかしないから、絶対に嫌だったのに…。
これで晴れて今日から「黒夢教」の一員だ。
なんてことだ。
心なしか頭痛もしてきた。
頭を抱えていると、どうやら手続きが済んだらしい小春さんが席を立った。
お手洗いだろうか。
「お手洗いならそこを右に曲がったところですよ。」
「ありがとう。」
とん、とんと軽い足音が薄く聞こえる。
やっと彼女の視界から外れた。
深く息を吐いてソファに深くもたれかかった。
僕が不幸体質でありながらも、おおむね普通に暮らせているのは、最悪の事態になる前に彼女が適切に対処してくれるからだ。
僕一人だったら死んでいた場面はいくつもあった。
まあ、逆に彼女のせいで状況が悪化した場面も数多くあるのだが。
それでも何度も助けてもらったことに変わりはない。
だから彼女の頼みは断りづらいのだが…。
宗教と僕の組み合わせは、本当にロクなことにならないと思うのだが、彼女は何を考えているのだろうか。
ふと机の上を見ると、彼女の麦茶が残り少なくなっていた。
僕の麦茶も半分ほど減っている。
入信の手続きをしながら惰性で飲んでいたのだが、結構減っていたらしい。
キッチンに行くのも面倒くさいし、注ぎ足すのは言われたらでいいか。
ぼーっと、壁にかかった時計を見つめながら、明日高校で友達になんて声かけよう、宿題ってあったっけ、お腹へったなぁ…などとダラダラ考えた。
それにしても遅い。
女性のお手洗い事情に口を出したいわけでは無いが、化粧をしているわけでもない彼女がこんなに遅いのも普通なのだろうか。
いや、彼女はそんな色々裏でするような可愛らしい性格ではないだろう。
体調でも悪くなったのだろうか。
しょうがないな、様子を見に行くか。
私はお手洗い高速派です。
化粧直しとかめったにしない。




