あぁ馬車は揺れてゆく
とりあえずお腹が満たされ、浮かぶ睡魔にフワフワしていると………
上り坂から平坦になったところで、馬車が止まったようだった。
(‥‥‥道になんか転がってるんかなぁ‥‥‥)
そんなことを思っているとドアが開き、かの男性が降りるのを感じた。
馬車の前からは、御者さんが繋いだ馬を離しているのだろうか、そんな音が聴こえた後、足音と蹄の音が離れて行く
多少気にはなったけれど、まだまだ赤ん坊の身の上。
睡魔が勝って寝こけることにした。
段々熟睡モードに落ちていったその時………
「…ふざけるな!!!俺は一人で暮らしてるんだぞ!!赤ん坊なんぞ育てられる訳なかろうが!!!!」
………微睡みを擘く声
引き戻る意識
背筋に冷たい物が走った
(……ちょっと待てぇぇ!!! こっちゃ か弱い乳飲み子だぞ!!!男一匹で育てられる訳ないでしょうがぁ!!!)
突然突きつけられた、或る意味 命の危機に、心は思いきり動揺する。
が、続いて届いてきた言葉は
「しかし、祖父の貴方が引き取らないということになりますと‥‥ あの子は産まれなかった物として処分ということに成りますが、宜しいのでしょうか?」
(そっちも待てえぇぇぇぇ!!!処分って何だぁ!!!!何か?!自分は邪魔な子なのか? !!)
齢 幾ばくかにして早くも命の分水嶺。
行くは緩やかな命の危機
戻るは即・死、邪魔な物として
望んだ事は‥‥
(頼む~~ 祖父とやら~~~ 引き取ってくれ~~~!!)
突然即・死は嫌だった
赤子の身の上、思わず泣き出したい衝動に駆られたが‥‥
相手方にめんどくさいと思われたら一気に死が近づいてくる予感が走り
咄嗟に、強く、固く我慢した…………
「…ハァ~~~~~……………」
相手方の、長い、とても長いため息が聞こえる
「取りあえず中に入れ、話はそれからだ」
自分を連れて来た男性を家の中に引き入れたようだった、こちらを置いて‥‥
自分の命を左右する話なのだから、己が耳で聞きたいと思ったけれど、やっぱり声を出して気を引くのは躊躇った。
何も出来ない身の上。せめて少しでも良い方向に転がって欲しいと願って、待っていると…………
…………はたと気付いた
(………マズイ!!! 今死ぬかも!!)
………馬車は黒、外は射すよな炎天下…………
…………車内の温度が……………
…………次第に…………
(………パチンコ屋で………放置された……子供の気分って……… )
‥‥‥なるほど前世で虐待になっていた訳が、よっっく分かる‥‥‥
生家に戻ってからどころか、今すぐにでも死にそうな目に会いながら 誰かがドアを開けるのを待っていると………
ようやっとドアは開き、空気が動き、灼熱地獄から救われた。
(あぁ… 死ぬかと思ったぁ‥‥‥)
そして、くだんの男性に抱き上げられ、外に連れ出された。
より涼しい風が肌を撫でる。
それから 祖父と言われていた人に手渡され、
「それでは。幸運をお祈り致します」
その言葉を残して、彼は馬車へと戻って行った。
馬に水を飲ませていたらしい御者さんが馬車に繋ぎ直し、Uターンをして、坂道を下っていく。
‥‥‥どうやら命の危機は、もう少しだけ遠ざかったようだった‥‥‥
「…ハァ~~~~~~~~~~~……………」
輪にかけて長いため息が 祖父と言われた人から発せられる。
‥‥‥そうですよねぇ‥‥心中お察し致します‥‥‥
犬猫だっていきなり押し付けられたらやだもん。
況や赤ん坊なんて‥‥‥