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馬車は揺れる



「ょいしょっ‥」


(………??)


 いつもと変わらぬ麗らかな一日、いつもと変わらぬ惰眠を貪っていた‥‥ が


不意に 身に慣れない手で抱き上げられた。

瞼を上げると、見覚えの無い男性が目に映る



「………ハァ~~~……」


(???)


 更に不意に、気が重そうな長いため息


 いきなりの慣れない状況に、不安と疑問がどんどん膨らんでいった。



 更には、今まで連れて行かれたことの無い方向にドンドン進んでいく。


 何事か聞こうにも、未だ言葉は喋れない、


‥‥赤子の身の上は本当に無力だ………




‥‥(おお~~~!!)



 着いた先は、馬車の車庫のようだった、

 黒やグリーン 煉瓦色など、ピカピカに磨かれ居並ぶ車体。

 特に高そうな物には如何にもヨーロピアンなオーナメント柄の、白やイエロー 金銀の飾り絵や縁取りなどが施されている。



 先程までの不安は何処へやら、

クラシカル且つ上質な職人技の数々に、心は一気に沸き立った。


 そして自分が連れられた先には……




 比較的小振りで、装飾もない、黒のシンプルな一台が馬に繋がれていた。


(‥あら、あっちじゃないのね)


 やや肩空かしをくった気分になったが、重量が軽く軽快に走りそうと思うと、再びワクワク感が蘇る。


 乗せられた車内は、ビロードのようなキメ細やかな えんじ色の生地が、シートにも壁にも丁寧に設えられ、

磨き上げられたウッドパネルや木製のドアハンドル等と共に、シックな風合いを醸し出している。


 間違いない、これも相当に高級な造りだ


(良い家に生まれたなぁ~)


 などと考えていると、おもむろに御者さんが前に乗り、馬車は日差しの下を走り出した。





…………ガタタン…ゴトトン…………


(‥‥うへぇ‥‥)


 見た目の割に乗り心地は良く無かった。


 揺れる、とにかく揺れる。路面のギャップを乗り越える度に、車体がバユンバユンと上下動を繰り返す。

 山道に入ってからは堪ったもんじゃない、ややもすると酔いそうだ‥‥


 ひょっとして、足回りの技術が未発達なのか。

 大きくなったらすぐに手を加えようと固く心に誓った。



 それにしても随分遠くまで連れ出すなぁ‥ そして何だか‥‥



(‥ハラ減った‥)


 が しかし、一つの問題に気が付いた。


 自分のそばに居るのは男性一人、御者さんも後ろ姿ながら恐らく男性、

いったい誰が、お腹を満たしてくれるのだろう


「‥アアゥ‥アゥ……」


 考えていても仕方がない、とりあえず声を出して訴えることにした。


「?、ご飯ですか?」


 良かった~ すんなり通じて。そしてちゃんと準備があるようだ。


 自分とは反対側で荷物がまさぐられ、キュポッっと音がした。

 その後暫くして、こよった布巾のような物が口元に差し出される。

 その先端は何かに濡れていた。


(???)


 哺乳瓶的な物を想像していたので少々面食らったが、恐らく吸えということだろう。


 おもむろにくわえると‥‥



(!!!!甘~~!!!)



‥‥そりゃあもう、びっくりするほど甘かった。


 そしてむせた。



(なんじゃこりゃ! なんか水飴のような‥‥ っていうかそのもの?!!)


 今まで母乳で生きて来た身としては、脳天に響くような派手な味だった


 せめてもう少し薄味でお願いしたい。 が、伝えるすべがない。 それに多分水も無いんだろう

 涙を堪えて吸い干した




(ううぅ‥喉乾いたよぅ……)



 すると再び こよった布巾が差し出された、

先程より幾分水っぽく見える。


 恐る恐る、というかビクビクしながらしゃぶり付くと‥‥


………無味無臭‥‥


(水、有ったんかい‥‥)


だったら薄めて出してくれれば良かったのに………


 そんな言葉が脳裏に浮かび、とにもかくにも早く喋れるようになりたいと強く心に思うのであった………

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