壁の赤
この世界に生まれ落ちて暫く経ち、目も耳も大分利くようになってきた。
赤ん坊の目線ながら、置かれた状況を観察すると……
ここは多分、石作りのしっかりとした建物。
壁にはタペストリーや剣、
大きな暖炉。オマケに廊下にゃ鎧まで。
機械文明はカケラすらない。
見かける人も彫りの深い顔立ち。なんか昔のヨーロッパといった雰囲気だ
………なのに言葉は日本語だけが飛び交っている‥‥ 違和感がハンパじゃないわぁ……
寝床のごわごわは 高そうな刺繍だった。……擦れるから赤ん坊の寝具には勘弁して欲しい……
まぁでも、なかなかに裕福なお家のようで。
不機嫌そうだった声の女性は、どうやら乳母さんのようだった。
生まれてからほぼ同じ味のお乳をいただいている。
‥‥ということは、自分 初乳を飲んでないんじゃ…… 大丈夫か?
この人は 自分より一回り大きな子と一緒に、自分を育ててくれている。
多分そちらがご自身の赤ちゃんなんだろう、お母さんは大変だ。
色々総合して考えてみると、自分はどうやらいーとこの生まれなようだ。
これなら多分 飢える心配は無さそうだ。
いやぁ~一安心。
乳母さんのお仕事は子育てだけではないらしい。他の人と一緒に、家事やら何やらをアチコチでしている。
その都度、自分は背負い袋ごと壁のフックに引っかけられ‥‥
なんかトイレの個室の鞄の気分になる‥‥
たまに痛いし息苦しい‥‥
周りで他の子が泣こうが喚こうがお構いなし、
正直このぶら下げだけはカンベンしてほしい。
それ以外は然したる不満もなく、心安らかに過ごせていた。
ただちょっと気になっていることが一つだけ、
自分の親の顔がサッパリ分からん‥‥
特定の人が会いに来るといったことが全くないので、親だと確信が持てる人物に心当たりがない。
子育ては乳母さんに丸投げしているようだ
…………まぁ親が無くとも子は育つと言うし、なんとかなるだろ………