山には埋もれたミスが有る
小さな紙片を机に山積みにし、
束のようなロウソクの逆光に浮かぶ、じいちゃんの背中からは‥‥
「……………終わらん……………」
重たい声が響いて来た‥‥
よく熱出してた頃に よく聴いたっけなぁ‥‥
「お~し~の?(どうしたの?)」
「おぉ…… 魔導書のな、写しがな、終わらんのよ………」
‥‥机の上の紙 全部に書くのか‥‥ いや、紙は下の箱から上げてたっけ‥‥ と言う事はまだ‥‥
そりゃ さぞかし気の滅入る‥‥
「みぃて みぃて(見せて 見せて)」
両手でせがむと、書き上がった何枚かを取って こっちに差し出した。
いつもより遥かに小さい、前世の 英単語の暗記カード位の紙片に書かれていた文字は、一様に
【phlox】
とだけであった。
「こえあ~に?(これなに?)」
「そんなんだけど魔導書だ~、魔力 通したら火が出るぞ~………」
あ、相当お疲れのようだ。
机につっぷしながら細い声で返事してきた。
おんなじ文字ばっかりの単純作業だもんなぁ‥‥
‥‥何かお手伝い出来ないかな?‥‥
机の下の箱から 書く前の用紙を魔法でそっと拝借し、
雑然とした机の横の山から、インクと羽ペンも引っ張って来た。
箱の中の残りは、机の上の山よりは多少マシな量だった。
先ずはただ写してみる………
この小っちゃいおててじゃ書きにくいなぁ‥‥
………書き上がった物に魔力を通してみて………
うん ダメだ。ウンともスンとも言わん。
そもそも魔力が上手く通らない。
なら、書くときに魔力を押し出す様に、それこそ道を作る様なイメージで書いてみる。
それに魔力を通すと‥‥
ボッ‥‥
おっ よし、成功した。
じゃあやる事は只一つ、机の下の残りを全部終わらせて、じいちゃんをビックリさせてみましょ。
「フゥ………… お??………」
机の上の紙を片付けたじいちゃんが 下の空になった箱に手を伸ばした時、思わず声を上げた。
こっちを見た瞬間に、移した魔導書に魔力を通し、炎を出して見せる。
その様子と、書き上げた紙片の山を見てポカンとするじいちゃん。
よっし!ドッキリ大成功!
「お前は………本当に‥‥‥」
目元に手を当てて、口元にうっすら笑みが浮かぶじいちゃん。
良かった~~喜んでくれたわ~~
「じゃあお前はもう寝てていいぞ。」
そう言うとじいちゃんは さっきの箱の隣から、今度はA4サイズ位の紙を掴んで机に上げた。
まだ仕事あったんかい‥‥
が、そうは問屋が卸さない。
ここまで来たら一蓮托生、徹夜でも何でも付き合いますぜ、じいちゃん。
‥‥‥と 気合いを入れ直した時に、ふと思い出した‥‥‥
一番最初に書いた紙!!
魔力の通らんやつ!!!
あれ避けとくの忘れてた!!!
ギャー!!!!!
この山の中から!!たった一枚探し出すのかよ~~~!!!!!
こうして じいちゃんを手伝いたいとは思いつつ 要らん時間を費やしてしまう、情けない自分なのであった‥‥‥