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後始末の始まり

ⅩⅥ.



 尻切れトンボのような不可解さを感じるものの、その後暫くセラフィムたち三人でそれぞれ気配探知系のスキルや魔法を使って警戒してみても周囲にアクティブな敵性体は確認できなかった。


 ゲームではイベント戦を除いてこういう演出はなかったものの、これが現実であるのなら何らかのイレギュラーや、こちらの想像外の思惑があるのは当然か。


 セラフィムはもやもやとしたものを飲み込んで、一先ずはそういうことにして無理矢理に納得しておいた。

 そうして現在。


「お、俺たちはあいつに従ってただけでなんです!」

「そ、そうです! そもそもあいつがあんな化け物だったなんてことすら!」

「お願いです信じて下さい天使様!」


 うへあ。

 そんな感じの表情をしているセラフィムの前で、貴族に扮していた使徒に随伴していた兵士たちが膝間付き、必死の形相で口々に喚いていた。

 命乞いとか、懇願とか。そういう。

 ゲーム時代にもこういう輩居たわー、とセラフィムはうんざり顔で思い出した。


 数で囲っておいて、いざ旗色が悪くなるとこういう風な感じになるのだ。まぁ、中にはそういうプレイをしていた愉快なプレイヤーもいたが。通称ひゃっはー系。

 セラフィムは基本的にPKに容赦はしない。ゲームのルールとして認められている以上、その行為に何か言う気はないが、やるからにはやられて然るべきだ。そういう考えでキッチリ殺り返す。


 とは言え、それはゲームだからの話である。現実でそんなことをしていたら大量殺人犯だ。


 命令に従っていただけ。とは言え、命令されてそれを行っていたことは事実なのだ。嫌がる女性たちを無理矢理捕まえ奴隷にするという所業を、セラフィムは許す気はない。

 かと言って殺すのも違うと思う。奴隷に落とし返すなんてのはもっと違うだろう。拙い倫理観とか道徳心的なものでそんなことを考えるが、殺す以外の方法を考えるのがこんなに面倒くさいとは、とそんなこともセラフィムはこっそりと思う。

 どうしたものか、とセラフィムが妹たちを見やれば、向こうは向こうで村人たちに囲まれて感謝感激雨霰状態。中には祈りを捧げる人までいる始末。

 救援は、望めない。


「俺たちみたいな平民は貴族には逆らえねぇ、言われたことには従わねぇと殺されちまうんだ……」

「生きてくためには仕方がなかったんだ!」


 なおも何事か言っている兵士たちの言葉を右から左に聞き流しつつ、セラフィムはどうするか考える。

 既に馬車に乗せられ枷を嵌められていた女性たちは救出済みである。彼女たちもセラフィムたちに感謝していたが、今は空気を読んでか離れた所に固まって様子をうかがっていた。

 

「お願いだ、天使様! お慈悲を! お慈悲をぉぉ……」


 兵士たちの処遇もそうだが、セラフィムにとって頭の痛い話は他にもある。

 戦闘終了からこっち、ここに居る皆――村人や兵士たちがセラフィムを天使様と言って拝み畏れだしたのである。


 神が敵である『スペクトラム』の世界観では神を崇めるような宗教観はない。

 それでも人々の心の拠り所として設定上は宗教が存在しいた。

 それが、「天使崇拝教団」という世界規模の一大宗教である。

 最初に神に反逆した天使たちを自分達の救世主として崇拝しているこの宗教において、天使の存在は絶対だ。

 そこにきてのセラフィムの種族設定話を面倒くさくしている。

 セラフィムの種族は【有翼種】という翼を持つ種族であり、これは神を打倒した後に地に降った天使たちと人間たちの間できた落とし子であるという設定なのである。

 とは言え、この設定はゲームのバージョンアップ――世界観更新の度に廃れていった、という設定もある。

 あるのだが、ついさっき彼らの視点では使徒を圧倒していた事実が、廃れた伝承に真実味を与えてしまった。

 これにより、セラフィムを天使認定してしまったのである。

 勿論セラフィムは面倒の香りを嗅ぎ取り即座に否定した。片翼であることなんかも理由に挙げていたのだが、効果はない。

 どころか、片翼であることを「神に反逆した決意の現れ」だとか「歴戦の勇姿である」とかそういうプラス方向に受け取られる始末だ。

 これにはセラフィムも何を言っても無駄と悟らざるを得ず項垂れた。

 ――どないせぇっちゅうねん。

 聞き齧りでしかないような、言い慣れない方言を心中で呟く程に。

 


「うーん、て言うかさ。私がどうこう言う必要もない気がするのね。とりあえず捕まえてた女性たちを、あんたらが責任もってきちんとそれぞれの村へと返せばそれで良いと思うの」


 なんだかもういよいよ本格的に考えるのが面倒臭くなったセラフィムは投げ遣りに言う。

 その言葉にとんどもない! と反応したのが兵士たちと、当事者の女性たちである。


「そんな! 天使様の御許しを頂けないことには我らはおしまいです!」

「嫌です! この人たちは信用できません! 天使様の目が届かなくなった途端になにをするか……」


 兵士たちの言ってる意味がわからないのは置いといて、女性たちの兵士たちへの信用度の無さがスゴい。まぁ事情を考えれば当然ではあるが。


「あー、お姉さんたちはそうよね。ごめんなさい、考え足らずだったわ。村へは道すがら私が連れて行きますので、安心してください――って、ちょっとやめて抱きつかないぅわぷっ」


 泣きそうな表情で詰め寄ってくる見目麗しい若い女性たち。ただでさえ対人能力が他者より低いセラフィムにとってこれは堪らない。勘弁してほしいという意味で。

 上目使いに不安げな表情で見つめてくる複数の視線から露骨にそっぽを向きながら、セラフィムは自ら苦労の道を選択した。とにかくその圧から逃げたい一心での安易な選択である。

 その言葉にホッとしたのか、畏れ多いと思いながらも絶対の安心を得た女性たちが互いに喜びを表していく。

 そんな中、数人の感情表現が大袈裟な女性たちは感極まったのかセラフィムに抱きついた。

 身長があまり高くないセラフィムにとって、大人の女性の抱擁はそこらのモンスターの攻撃よりも強力である。

 下手に抵抗は出来ず、受け入れたら最後、胸に顔が埋まって窒息してしまうのだから。

 つい先程までとは別種の混乱が訪れた。


「隊長、俺たちはいったい……」

「聞くな。今はとにかく祈れ。天使様の機嫌を害さないようにな」

「俺、生きて帰れたら、兵士やめて村に戻るんだ……」

「俺も……」

「俺は、リベリオンに転向しようかな」

「マジか? お前、すげーな。あの戦闘見たあとでよく……」

「いや、だって、格好良かったじゃねーか」

「ああ……、あの細腕で大剣ブン回してたもんな」

「あの一連のスキルとか、早すぎて見えなかったし」

「たしかデカいレギオンだと短期育成コースとかってのが最近できたろ? 俺あれ受けるわ」

「狭き門だって聞いたぜ?」

「知ってるさ。けどよ、やっぱ強くなりたいから剣を取った、だろ?」

「…………だな」

「そうだな。そうだったよな……」

「…………俺も、受けるかな……」

「「「「隊長!?」」」」


 大人しく沙汰を待っている、鎧を着込んだ兵士たちがそんな会話をしていた。

 行儀よく背筋を伸ばした正座のまま。


あらすじの所に更新滞るますって書いたけども、昨夜異世界ファンタジー日間99位に居た嬉しさに調子乗って、本来なら更新掲載する予定だった保留分を投稿。

実際工事はちゃんとしてます。

とりあえず第一部分はほぼ完了。だけどそのせいでそのままだと前後の整合性が取れないので、纏めて改稿します。休みが欲しい休みが。

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