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いざ出発!

Ⅸ.



「今夜が楽しみね、エリス」

「ええ、待ち遠しいわね。だからこそ、ちゃんとしたベッドの有るところがいいわね」


 そんな風に聞こえよがしな談笑をする妹たちに、顔を赤くしたセラフィムが強引に遮る。


「はいやめー! そんな話はやめー! さぁそれじゃあ出発するよ! 目指すは王国!」


 叫ぶように宣言すると妹たち二人の手を取って廃都を後にした。


 お姉さまと合流できたのだから、お世話になったワラキア興国へと行くべきだと告げるケレスと。

 万年独身貴族に、交遊のあったお姉さまを会わせるのは危険だと猛反対して、王国行きを強調するエリス。

 真っ向から対立する二人――特にエリス――に困ったセラフィムは、とりあえずブラドの所へ挨拶に行くにも手土産も無しだと格好が着かない、と攻略が簡単なケレスを諭した。

 これにケレスはそれもそうかも。とすんなりとセラフィムの適当な意見を飲み、王国行きを了承したのだった。

 単純――もとい素直な良い娘で助かった、と思ったとか思ってないとか。

 そんなわけで、一行は王国へ。


「ところでさ。王国の名前は?」

「「知らない」」

「あ、さいですか」


 実は道もよく解っていない三人。とりあえず街道伝いに進めば二人が嗜好品を購入するのに利用していた町があるらしいので、とりあえずはそこへ向かう。


「て言うかさ、二人はよくここのお金持ってたね」

「ブラドおじさまが幾らか工面してくれたのよ」

「『ふははは! 気にしなくて良いぞ小娘ども。しかし、無駄遣いはせぬようにな!』って」


 ケレスの物真似にセラフィムは思わず吹き出す。全然変わっていない様子の旧友の姿がありありと浮かぶ。

 きっと玉座にふんぞり返って髭をしごきながら言ったに違いない、と。

 そうやって和気藹々と旅路を行く三人だったが、セラフィムが唐突に脚を止めた。

 次いでケレス、エリスもセラフィムに倣う。

 三人は表情を一変させると、それぞれに武器をコールする。

 セラフィムは柄の上下に黒い刀身を備えた双剣【ネフィリム】を。

 ケレスは頭に七色水晶を嵌め込み、複雑な魔法刻印の施されたヤドリギの長杖ちょうじょう【虹掃きつえ】を。

 エリスは半身に幾何学的な紋様が為され、蒼白に煌めく総ミスリル銀の短杖たんじょう輝聖銀セント・ミスリライト】を。

 現在三人の居る場所は見晴らしの良い街道である。足の長い雑草が生える一方で、所々にひび割れた地面が覗いている。


「ワーム系って砂漠じゃなかったっけ?」

「あら、モグラの類いかもしれなくてよ?」

「地底人に一票!」

「「それはない」」


 武器を構えつつ駄弁っていると足元の地面が低く揺れ始めた。

 三人がそれぞれ別方向に跳び退ると、一拍を置いて、轟音を上げながら寸前まで三人が居た地面が爆ぜる。

 現れたのは大木のような胴回りと、頭にノコギリのような歯と口を持つミミズのようなモンスター。俗にワーム系と称され砂漠地帯に生息する普遍的なモンスターだ。

 生息域が異なるモンスターが出現した事実は一先ず脇に置き、三人は即座に殲滅へ向けて行動する。

 先ずはセラフィムがバトンのように回転させた双剣【ネフィリム】でブヨブヨとしたゴムのような身体を連続して斬り付ける。

 大ワームは突然の痛みに耳障りな奇声を上げて、体液を撒き散らしながらのたうつ。セラフィムは体液の一滴も付着させることなく危なげなく回避。


「『きらきらと輝く美しい衣を、醜悪なる汝に贈ろう……リストリック・フリージア』」


 セラフィムが敵の注意を引いている隙に、エリスが詠唱を完成させる。

『スペクトラム』では魔法スキルの発動に際し、プレイヤーが予め設定した詠唱文を発することで威力や効果、リキャストタイムを短縮できる【スペルキャストシステム】が搭載されていた。これは魔法スキルのキャストタイム内に詠唱し、文章として成立していることが条件となる。

 蛇足だが。『スペクトラム』の魔法職プレイヤーに人気があると共に、黒歴史を量産させたシステムだ。

 エリスが使用したのは対象の行動を短時間高速し、凍傷の継続ダメージを与える水属性中位魔法である。

 そしてその拘束時間を逃さず、セラフィムは踊るように回転させた双剣を敵へと投擲、風切り音を上げながらワームを切り裂いていく。その先には瞬動スキルで移動したセラフィムが既に居り、双剣を蹴り弾く。瞬く間に行われたそれを縦横無尽に何度も行う。


「ミスティークワルツ!」


 双剣スキルの名を叫んだ所で技は終了。着地と同時に凍り付いていたワームが氷片として粉々に砕け散った。

 氷片が陽の光に反射してきらきらと舞う中で、片翼の少女が武骨な双剣を手に立つ姿は幻想的で、エリスはぽーっとセラフィムに見惚れる。

 けれど、そんな余韻を台無しにするように物言いが入る。ケレスだ。


「もーっ! あたしのでばーん!」


 三人の役割はそれぞれ。

 セラフィムが前衛。エリスが後衛ダメージディーラー兼補佐。ケレスが後衛回復補佐である。

 必然的に、今回のように瞬殺する場面ではどうしても出番が少なくなりがちだ。

 それはケレスも十分理解しているが、ケレスの主観では(エリスもだが)久しぶりにしてこの世界初めてのお姉さまとの共同作業なのだ。それなのに何も出来なかったとなれば、不満が出るのもむべなるかな。

 とは言え、


「あら、ケレスが活躍するチャンスはあったわよ? わたしに先んじてか、あるいは同時にお姉さまに支援魔法を使えば良かったのよ」

「むーっ。おねえさまー、エリスが意地悪言うー」


 失敬な。と腰に手を当てて小さく反論するエリスを無視したケレスがセラフィムに抱きつく。

 そんな二人の可愛らしいじゃれあいを微笑ましく思いつつケレスを抱き止めながら、武器を収納したセラフィムは周囲を確認する。

 追加エンカウントの警戒、ではない。二人と再開するまでの道中でも確認したことではあるが、モンスターを撃破してもその死体が消えず残っている事実を再確認したのである。

『スペクトラム』に限らず、幾つかのVRMMORPGでは従来のモンスター撃破→アイテムドロップ、という一連の形が失われているものも少なくない。

 ではどうやってアイテムをドロップするかというと、アイテム取得スキップの魔法やスキルを使うか、その都度モンスターの死体に解体用ナイフ等を使うという一手間を加えることで、リアリティのある仕様にしていたのである。

 勿論、面倒だ、という理由で不満が出る部分でもある。だがその為のスキップスキルであるし、そこまで大きな不満が聞こえていないのも事実だ。

 そして、モンスターの死体は基本的にアイテムドロップ後、もしくは撃破後一、ニ分程で消失するものだった。

 しかし、粉々になっているとは言え、今倒したワームは既に一、ニ分程度は経過した現段階でも消失せずに散らかったままである。

 こういう所からも現在の状況が現実なのだとより認識を強くしていく。

 ――歓喜の感情と共に。


「ケレスは私たちの生命線だからね。不貞腐れないで、ね?」

「むー。て言うかお姉さまが手加減すれば良かったのー!」

「ええ!? ダメだよ、それで二人に被害が及んだら、お姉ちゃん後悔で死ぬよ!」

「……まさか、ケレスがお姉さまの殺害を企てていただなんて…………っ!」

「お姉さまお姉さま、エリスが意地悪言う」


 わざとらしくおののいて見せるエリスにケレスが頬を膨らませる。

 そんな風に姦しくしながら、道中で何度かの戦闘を危うげなくこなし。

 一行は一先ずの目的地である小さな村へと辿り着いた。



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