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006 理不尽な我儘姫

ブクマ評価ありがとうございますm(__)m


「遅い! 護衛なら待ち合わせ時間の三十分くらい前にはいるもんでしょ!」


「は、はぁ、それは申し訳ありません」


 ついにアルが護衛として縁談の場所まで同行する日になった。

 出発時刻に合わせて待ち合わせ場所に着くようにしていたアルは、早々にルミアからの説教を食らっている。

 どうやらアルが来るのが遅すぎたらしい。


 しかしそんなことを言われてもアルは出発時間に合わせて適切な時間に来ているだけだ。

 理不尽にしか思えないルミアだが、これから二人で行動するというのにこれ以上関係を悪くはしたくない。

 そう思ったアルは甘んじてルミアの説教を受け続ける。


「あのぉ、すみませんがそろそろ出発しますよぉ」


 ちょうどその時偶然にも、馬車の御者を務める老人が二人に声をかけてくる。


「ルミア様、話すのはこれくらいにして、ひとまず馬車に乗りましょう」


 アルはこれ幸いにとルミアを急かす。

 ルミアは相変わらず不機嫌そうな表情を浮かべていたが、出発時刻をずらすわけにはいかないと渋々馬車に乗り込む。

 その後にアルは馬車に乗り込み、ルミアの向かい側の座席に座った。


「…………」


 向かい合う形で座っている状態で、アルたちは口を開かない。

 ルミアも黙ったまま馬車の窓を見つめている。


「……そういえば、聞いたわよ」


「……?」


 するとルミアが沈黙を破り、アルに話しかけてきた。

 アルはルミアが一体何を聞いたのだろうと首を傾げる。


「あんた、腰抜けなんだってね」


 ルミアは侮蔑を込めた視線でアルを見つめる。

 アルが護衛としてルミアの傍に控えることが分かってから数日間。

 ルミアは自分なりにアルのことを調べまわっていた。


 そして出てきたのはアルの無能ぶり。

 戦では軍の最後尾から動かず、ろくな功績も立てたことがないという。

 もはや宮廷魔導士としての立場を本当に理解しているのかどうかさえ怪しい。


「まあ、そうですね」


 ルミアの言葉にアルは事も無さげに頷く。

 ルミアの言う通り、アルが腰抜けであるというのは周知の事実だ。

 実力を隠している以上それは仕方ないし、それをルミアに言う必要性も感じられない。


「……こんなやつを護衛につけるなんて、とうとうお父様にまで嫌われちゃったのね」


 アルを非難するとともに自虐的にそう呟くルミア。

 しかしそれは間違いだ。

 シリス王はルミアを娘として溺愛しているからこそ全幅の信頼を寄せているアルに護衛を頼んだのである。

 もちろんそんなこと言えるわけがないアルは、俯くルミアに視線を向けながらも何も言わない。


「……っ」


 ルミアが膝の上で拳を握る。

 その拳は震えていた。

 するとルミアは突然顔を上げたかと思うと、キッとアルを睨みつけてくる。


「私、あんたなんかに守られたりしないから」


 ルミアは握りしめていた拳を緩める。

 するとルミアの掌の上では真っ赤な火の玉が浮かんでいた。

 それは小さいながらも、まるでルミアの掌で踊っているようで、恐らくルミアが操っているのだろう。

 それだけでもルミアの魔力操作が並々でないものだと理解できる。


「せいぜい足手まといにならないようにすることね」


 それだけを言うとルミアは掌の上の火の玉を握りつぶす。


「了解しました、気を付けます」


 見事なものだとアルは感心する。

 そして相変わらず理不尽なルミアの言葉に何か言うこともなく頷いた。

 ぶっちゃけアルはルミアが相当な実力を持っていたと聞いて、内心喜んでいた。


 護衛対象であるルミアが強いのであれば、護衛であるアルは当然仕事も減るだろう。

 それにルミアがアルを無能だと思っているということはむしろ働かない方が良いということになる。

 それであの報酬が貰える……そう考えるとやはりこの任務を受けたのは間違っていなかったのだろう。

 アルは緩みそうになる自分の頬を引き締めるので必死だった。


『ガンッ!!』


 すると突然大きな音と共に衝撃が襲ってくる。


「な、なにっ!?」


 ルミアは何が起こったのか分からず窓の外を見回している。

 対してアルは刺客の可能性を考慮しつつ、次の攻撃が来るかもしれないという状況に備えていた。


「あー、すみません。どうやら地面のくぼみに車輪がはまってしまったみたいで……。すぐに馬に引っ張らせるので申し訳ありません」


 すると御者の老人が馬車の窓を開けて、事情を説明する。

 ルミアが窓から外を見てみると、確かに車輪が地面のくぼみにはまってしまっていた。


「……まったくもう、人騒がせな」


 ルミアは先ほどまで慌ててしまったことを思い出し、顔を赤くしながら窓の外に視線を向ける。

 そして馬車が動き出すのをしばし待ち続ける。

 だがどういうわけかしばらく経っても馬車が動き出さない。


「……?」


 二人は不思議に思い窓の外を見てみると、御者が必死に馬を動かそうとしている。

 どうやら相当深くはまってしまったらしく中々動き出せずにいるらしい。


「もう幸先悪いわね……っ!?」


 そんな御者の姿を見てルミアが溜息を吐いた瞬間、馬車が勢いよく動き出す。

 どうやら無事にくぼみから抜け出せたようだ。


「抜け出せるなら、もっと早く抜け出しなさいよね」


 ルミアは窓の外に視線を向けながら文句を垂れる。

 しかしルミアは気づかなかった。

 御者の老人が困惑しながら首を傾げていることに。

 アルが、くぼみにはまった馬車に向けて風を放ったことに。

 そしてアルたちは縁談の地へと向かい始めた。


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