004 兵士の過ち
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「とは言ってもやっぱり早計すぎたか?」
報奨金も貰い終え、中庭を歩いているアルは先ほどのことを考える。
確かに報酬自体はかなり好条件だったが、もうちょっと考えるべきだったかもしれないと少しだけ後悔していた。
しかし既に承諾してしまったため、それを反故にすることは出来ない。
だからこそアルはそんな自分を慰めるために、報奨金の入った布袋の重さを感じていた。
「おいおいヨルバンさんよぉ」
「……?」
するとアルは突然背後から声をかけられる。
振り返ってみるとそこには見覚えのない男が三人立っていた。
服装から察するに、恐らく兵士だろう。
しかし兵士が自分に何の用だろうとアルは首を傾げる。
「それって報奨金だろ? ちょっと俺らに預けてくれよー?」
「まぁもう二度と帰ってこないけどな!」
「……はい?」
アルは男たちの言葉の意味が分からなかった。
だが恐らく男たちは今、自分の持つ報奨金を奪い取りにきたのだろう。
それが分かったアルは自分の不幸に思わずため息を吐く。
「どうせお前、宮廷魔導士だからって理由だけで何もしなくてもお金が入ってくんだろ? それなら俺らにくれたって罰は当たらないだろ?」
「そもそも働いていないお前が俺たちより多く貰うなんて納得できるわけないしな」
そんなアルの反応に気付かない男たちはにやけ顔を晒しながら言葉を続ける。
しかし何も知らない兵士からしたら、確かにアルは何もしていないのに報奨金を貰っているだけに見えるだろう。
だからこそこうやって標的にされているのだ。
思い返してみれば、同じような体験をこれまでにも何度かアルは経験している。
そう考えれば今回のことだってどうってことはない。
アルは男たちに呆れながら横を通り過ぎようとする。
「おい待てよ、何勝手に帰ろうとしてんだ?」
「帰るならその金置いてけって言ってんだよ」
だがそんなアルを当然許してくれる男たちではない。
男たちはアルの肩を掴み、無理に振り返らせる。
「……はぁ、めんどい」
アルは目を細めながら小さく呟く。
どうやったらこの状況を手っ取り早く抜け出せるか。
恐らくアルが持っているお金を渡してしまうのが一番早い手段なのだろうが、そんなことはアルの考えには含まれてすらない。
「……誰も、いないよな?」
アルは視線だけで辺りを見回す。
不幸中の幸いというべきか、今は陽も沈んでいて視界も悪い。
そして中庭にいるのはどうやらアルを含む四人だけのようだ。
「おい! さっきから何をぶつぶつ言ってんだよ」
「良いから早く金を寄こせって言ってんだろ! この腰抜け野郎が!」
その時、痺れを切らした男たちがアルの持つお金を奪い取ろうと殴りかかって来る。
だがその拳がアルに届くことはなかった。
「なっ……!?」
「う、動かねえ……!?」
男たちの拳はアルの顔の少し手前で止まっていた。
もしかしなくても全てアルの仕業である。
アルは男たちの手の周りの風を操ることで、拳の勢いを殺しているのだ。
「あのさ。これでも俺、宮廷魔導士なんだよ。お前らがいくら束になったところで、これは俺には届かない」
アルは止まっている拳を押し返す。
たったそれだけで男たちはまるで突き飛ばされたかのように転がる。
そんな男たちにアルは一歩近づき、見下ろす。
「穀潰しとか噂されるのは俺も気にしない。だけど手を出して来たら、話は別だ」
今後の憂いがないようにアルは男たちに伝える。
男たちは腰抜けだと思っていたアルの本当の姿を見て身体を震わせていた。
「ひ、ひぃっ!?」
「す、すみませんでしたああああああっ!!!」
「もう二度とこんなことしませんぅぅぅぅっ!!!!」
そして、みっともなく叫びながらどこかへと逃げ去って行ってしまった。
「……はぁ」
とんだ災難に巻き込まれたアルは小さくなっていく男たちの背中を見つめる。
恐らく今のでアルの本当の実力を理解するなんてことはないだろう。
しかしそれにしても少しやりすぎてしまったかもしれない。
もうちょっと穏便にあの場をやり過ごすことが出来れば良かったのだろうが、生憎と今のアルにはあれくらいのことしか思いつかなかったのである。
だが、後悔はしていない。
「まぁ、これが無事だったしな」
アルは片手に持ち続けていた布袋を大事そうに頬ずりする。
それは先日の戦でのアルの功績が認められた結果の報奨金だ。
それを他人のご飯のために使うことがなければ、他人に預けたりもしない。
何故ならそれはアルにとって、命の次に大事だと言っても過言ではないほど大事な『飛行魔術の研究費用』だからだ。
それを他人のために使う?
それこそアルにとってはあり得ないことだ。
自分自身にだってアルはほとんどお金を使わない。
使うとしたら必要最低限の生活費くらいだろう。
それ以外でお金を使ったというのは、少なくともここ数年感の記憶にはない。
それくらいアルにとって飛行魔術に対しての情熱が熱いのである。
アルはいつもより重たい布袋に頬を緩ませながら、王宮内にある自室へと向かった。