003 巧みな交渉術
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「……え? 俺が護衛ですか……?」
突然の言葉に戸惑いを隠せないアルは、自分の顔を指さしながらシリス王に尋ねる。
これまでも色々な任務を頼まれることはあったが、誰かの護衛を任せられたのは初めてだった。
「あぁ、よろしく頼む」
しかしシリス王はアルの戸惑いなど知った様子もなく頷く。
「お父様、私そろそろ部屋に戻ります」
「おぉ、そうか。また明日な」
「はい、失礼します」
すると話の当事者であるはずのルミアは一言だけを残すと、アルには何も言わずに部屋から出て行ってしまった。
まだお互いのこともろくに知らないというのに大丈夫だろうか。
アルは微妙な顔をシリス王へ向ける。
「すまんな。ああいう子なんだ」
「いえ、俺は全然大丈夫です」
シリス王の言葉にアルは首を振る。
その言葉に嘘はない。
これまでもアルは周りからの理不尽な言葉に晒されてきた。
今更ああいう態度をとられたところで、どうってことはない。
「ですが俺が護衛をするというのは……」
そんなことよりもアルが気になっていたのはそこだ。
どうしてシリス王はアルに護衛を任せたのだろう。
王宮には兵士もいれば騎士だっている。
それこそ宮廷魔導士だって。
なのにどうしてそこでアルを選んだろうのだろうか。
「俺は実力を隠してますし、今回の護衛でそのことが明るみになれば今後の戦に影響が出るかもしれません」
「……うむ」
アルの言うことは尤もだ。
シリス王もそのことは承知していたのだろう、難しい顔を浮かべている。
「因みにルミア様は俺の力のことは……」
「知らない」
「……そうですか」
シリス王の答えにアルは渋い顔を浮かべる。
だがそれはそうだろう。
ルミアがアルの本当の力を知らない以上、アルはルミアにもむやみやたらに実力を見せるわけにはいかない。
今後のアルの活動に支障をきたすかもしれない要素は、出来る限り減らすべきなのだ。
「それでも私はアル=ヨルバン、貴殿に頼みたいのだ」
しかしシリス王は頑なにアルをルミアの護衛を変えようとはしない。
「貴殿だからこそ、頼みたいのだ」
それは単にシリス王がアルの実力に全幅の信頼を寄せているからである。
アルの実力、これまでの功績、それら全てを鑑みた結果での決断だった。
「うっ……」
そう言われるとアルも断りづらい。
今の国内で恐らくアルをここまで信頼してくれている人が果たしているだろうか。
アルの頭の中で一瞬リアが思い浮かぶが、あいつは阿保なだけだったと首を振る。
「それに今回の護衛はもしかしたら一筋縄にはいかないかもしれないのだ」
「……というと?」
シリス王は難しそうな顔を浮かべながら目を細める。
「ルミアは少し我が強いところがあってな」
「まぁ、でしょうね」
シリス王の言葉に、アルは先ほどのルミアの行動を思い出す。
確かにあれは協調性があるようには見えなかった。
アルは苦笑いを浮かべながらシリス王の言葉に肯定する。
「それでどうやら最近では【我儘姫】なんて呼ばれているらしい」
「わ、我儘姫ですか……」
アルは思わず唾をのむ。
確かにルミアを表現するには的を射ているのかもしれないが、さすがにそんなことはルミアの父親であり国王の前では言えない。
「だからか知らんが、色んな方面から厄介がられているみたいでの」
「……それで護衛、ですか」
そこでようやくアルはシリス王がどうして自分に護衛を任せたのかが理解できたような気がした。
恐らくルミアには敵が多いのだろう。
ここでは敵というか、刺客というのが正しいかもしれない。
だから中途半端な実力では護衛の任務が務まらないとシリス王は考えたのだろう。
「護衛といっても、期限付きだがな」
「そうなんですか?」
護衛というのはこれからずっとという意味だと思っていたアルは、シリス王の言葉を意外に思う。
「あぁ。実はルミアには縁談が持ちかけられていて、近々国を出てもらうことになっている」
「それは……」
面倒くさい、と言いそうになるのをアルは寸でのところで止める
しかしシリス王はそんなアルの考えていることが分かったのか、苦笑いを浮かべている。
「縁談に関して最終的な決定はルミア自身に任せている。だからルミアが縁談を了承すればしばらくはその地に留まるだろう。もしそうなったら縁談会場までの片道を護衛してくれれば大丈夫だ」
「……なるほど」
それならば今回の護衛はさほど悪いものではないのかもしれないとアルは考えを改めていた。
期限付きの護衛で、場合によっては期限そのものが短くなるかもしれない。
しかも報奨金として貰った金額は普通の護衛任務とは比べ物にならないほど多い。
期限付きだから自分の飛行魔術の研究への影響は最小限に抑えられるだろうし、研究費の稼ぐ良い機会だ。
ただ一つ悩むところと言ったらアルの実力が周りに明らかにならないか、ということである。
もし万が一アルの実力が明るみになり、今後、戦で何かしら対策をとられたりしたら、それこそ研究費を稼ぐことが難しくなってくる。
護衛任務での報酬と、戦での報酬。
その二つを天秤にかけた時、アルは決めることが中々出来なかった。
「因みに先ほど前払いといったのは、いわば契約金のようなものだ」
「……?」
悩んでいるところにシリス王が突然口を挟んでくる。
アルは首を傾げながら今の言葉の意味を考えた。
「だから護衛を成功した場合は先ほどの報酬とは別に、二倍、いや三倍の成功報酬を約束しよう」
「是非やらせてください!!」
シリス王の巧みな交渉術に、アルの中で釣り合っていた天秤が一瞬のうちに崩壊した瞬間だった。
次話を本日正午に予約更新しています。
そちらもぜひ一度くださいm(__)m