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002 多すぎる報奨金の理由


「もういい加減、飛行魔術なんて子供みたいな夢諦めたらどうですか?」


 リアは呆れたように呟く。

 しかしリアが呆れるのも無理はない。

 なぜならこれまで魔法という概念が確立されて以来、誰一人として飛行魔術に成功したという文献が残っていないのである。


 空を飛ぶということに憧れる人自体は少なくない。

 しかしその夢があまりにも無謀な夢であることを次第に理解していくのだ。


「俺は空を飛ぶために風魔法を覚えたんだから、今更引き返せるかよ」


 これまでどれほどの多額の資金を、飛行魔術の研究費用にしたのか分からない。

 それでもアルは諦めない。

 そうでなくてはそもそも宮廷魔導士なんて仕事やろうとさえ思っていないのだ。


「俺から飛行魔術の研究をとったら何も残らないしな」


「むー……」


 アルの言葉にリアは納得のいかないような顔を浮かべながら口を尖らせる。

 しかしこれまで必死に飛行魔術の研究をしてきたアルの姿を見ているだけに、それ以上何か言うのは憚られた。


「よし、じゃあ研究資金貰ってくるとしますか」


 そう言うアルの目の前には普通より少し大きい扉がある。

 どうやらいつの間にか目的の場所まで着いていたらしい。


「王様に不敬なことしちゃだめですからね?」


「大丈夫大丈夫、王様って人が良いから」


「って不敬なことする気なんですか!?」


「冗談だよ冗談!」


 本気で驚いた顔を浮かべるリアに手であっち行けと言いながら、アルは気を引き締める。


「……失礼します」


 そしてアルは扉を開け部屋の中へ入る。

 部屋の中は王宮の中とは思えないほど簡素なつくりで、椅子が一つ置いてあるだけだ。

 そこに座っているのは初老の男性。


「国王様、宮廷魔導士アル=ヨルバンが参りました」


「……うむ」


 アルに国王と称される目の前の男は嘘偽りなく、アルが宮廷魔導士として所属するこの【ロズワルド国】の現国王シリス=ロズワルドだ。


「早速で申し訳ないが、此度の戦での貴殿の活躍あっぱれであった」


「……それほどでも」


「劣勢だったあの状況から勝てたのはお前のお陰だ。本当に感謝する」


「身に余る光栄です」


 シリス王の言葉にアルは頭を下げる。


「これが今回の戦での報奨金だ。また飛行魔術とやらの研究費用になるのだろうが」


「……ありがとうございます」


 苦笑いしながら報奨金の入った布袋を渡すシリス王。

 アルは頭を低くしながらそれを受け取る。


「国王様もわざわざ自分のためだけにこのような場所に赴かせてしまって申し訳ありません」


「それだって貴殿の力を隠させているのはこの私なのだからな。文句などあるはずがない」


 そもそも普通の場合、報奨金を渡すのはシリス王の仕事ではない。

 戦の指揮官だったり一定以上の役職の人間が兵士たちに渡すのが普通だ。

 しかしアルの場合は違う。

 アルは他の兵士たちからしたら戦の間ずっと軍の最後尾で何もしていないように見えているだろう。

 だからアルが他の兵士たちはおろか同じ宮廷魔導士の誰よりも報奨金を貰っている姿を見せるわけにはいかないのである。


「……ん?」


 そこでアルは違和感に気付いた。

 いつもよりも報奨金の入っている布袋が重たいような気がしたのだ。


 アルは失礼だとは思いつつも布袋の中身に視線を落とす。

 そこにはやはりというべきか、いつも貰っている報奨金よりもかなり多い報奨金が入っていた。


「あ、あのー、これ報奨金多すぎませんか?」


 少し多い程度だったらアルも自分の研究費用の足しになると喜んで黙っているだろう。

 だが今回は間違えるにしても明らかに報奨金が多すぎる。

 さすがにそれを黙っているというのはアルにも気が引けた。


「いや、今回はそれでいいんだ」


「え……」


「それは、前払いの分も入っているのでな」


 アルの質問にシリス王は笑みを浮かべながらそう答える。

 その時点でアルは嫌な予感がしてならなかった。


 その時、部屋の扉が叩かれる。

 先ほどアルが入ってきた扉だ。


「入って良いぞ」


「……失礼します」


 アルがシリス王と二人でこんなところにいるのは他の人に見せるわけにはいかないはずだ。

 それなのにシリス王は気にした様子もなく、部屋の外の誰かを部屋へ招き入れる。


「…………」


 部屋の中に入ってきたのは一人の少女。

 腰まで続く長い金髪は曇りがなく輝いている。

 その表情はまるで精工に作られた人形なのではないかと疑ってしまう。

 ただ、どこか強気そうなその瞳はジッとアルに向けられていた。


「ルミア、自己紹介をしなさい」


「……はい」


 シリス王がルミアと呼ぶその少女は、渋々と言った風に頷く。


「ロズワルド国第三王女、ルミア=ロズワルドよ」


「第三、王女……?」


 アルは驚いた顔を浮かべながらルミアに視線を向ける。

 確かにその立ち振る舞いは気品があり、背筋もピンと伸びている。

 シリス王が何も言わないということはルミアが言ったことは本当なのだろう。

 アルはそこでようやくルミアの言うことに納得した。


「あ、俺は宮廷魔導士アル=ヨルバンです」


 そこでアルは慌てて自己紹介を済ませる。

 シリス王からも視線で急かされていたのだ。


「そんなこと知ってるわ」


 だがどうやらルミアは既にアルのことを知っていたらしく不機嫌そうにそう答える。

 アルはルミアのその反応に気まずそうに頬を搔きながら苦笑いを浮かべる。


「宮廷魔導士アル=ヨルバン」


「あ、はい」


 その時突然シリス王から真剣な声色で呼ばれる。

 アルは一瞬反応が遅れながらもなんとか取り繕う。


「この度、貴殿をロズワルド国第三王女ルミア=ロズワルドの護衛に任命する」


「…………はい?」


 しかしさすがのアルもその一言にはろくな反応を返すことが出来なかった。


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