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017 風魔法の常識

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「よし、じゃあ帰りますか」


「え、……え!?」


 目の前で繰り広げられる惨状にあまりにも似合わないアルの間抜けた声にルミアは驚かずにはいられない。

 ルミアは魔力を使い切った後アルにもたれかかっていたのだが、一瞬だけあり得ない程の魔力を感じた。

 かと思えば二人を囲んでいた暗殺者たちが揃いも揃って殺されているではないか。


 それが誰の仕業なのかなんて、そもそもここにいるのはルミアを除いて一人しかいない。

 つまりアルだけだ。


 しかしそれは、こと戦闘においてアルは腰抜けだと思っていたルミアからしてみれば理解するに難しい。

 状況的には理解しているものの頭で理解できてないのである。

 だが認めざるを得ない。

 アルがこの危機的状況を救ったのだ、と。


「ち、ちょっと待って!」


 ルミアは自分の手を引くアルを引き留める。

 さすがにこの状況で何の説明も無しというのはルミアも納得できない。

 アル自身、そんなルミアの気持ちを察しながらもあえて気にしないふりをしていた。


 アルはこれまで護衛としてルミアの傍にいたのだが、これまでずっとその実力をルミアに見せることなく隠し続けていた。

 それは自分が戦などでどういう立ち位置で功績を残しているのかを理解しているからこその配慮。

 もちろん護衛としての役目はちゃんと果たしていたつもりだったし、これからも実力は隠していく予定だった。


 だが自分のミスでルミアに危ない目を遭わせてしまったのに、さすがに自分の実力を隠していようなんて我儘は言わない。

 ただやはりやり過ごせるならそうしたいと、ひとまず何もない風を装ったがどうやらルミアは見逃してくれる気はないようだ。


「ど、どういうことなの!? な、なにがあったの!?」


「お、落ち着いてください! ちゃんと説明するので!」


 詰め寄ってくるルミアを宥めながらアルは何とか落ち着かせる。

 しかしやはりルミアは居ても立ってもいられないという風にアルに掴みかかる。


「は、話をするにしてもひとまずどこか別の場所に行きませんか……?」


「…………」


 アルの言葉にルミアは辺りを見回す。

 地面には幾つもの頭のない死体が転がっており、とてもゆっくり話せるような状況ではない。

 ルミアが静かにうなずくとアルは先導しだす。

 ルミアは恐らくアルが作り出したのだろうこの惨状をもう一度確かめて、背中を追った。




「それで、何から話しましょうか」


 宿屋に帰ってきてアルは逆に聞く。

 本当ならアルが自分のことについて話す場面なのだろうが、ルミアが具体的に何を知りたいのか分からない以上、初めにそれを聞いておくのが良いと思ったのだ。

 それなら不必要に自分の情報を曝け出さなくても問題はない。


「その前にまず敬語は使わなくていいわ。普通に話してくれていいから」


「え、ですが……」


「さっきも敬語じゃなかったんだし今更そんなの気にしないわよ!」


「わ、分かった」


 どうやらアルは自分でも気付かないうちにルミアに対して普段どおりの話し方で接してしまっていたらしい。

 確かにあの時はもしルミアに何かあったらどうしようかと内心焦っていたので、そのせいだろう。

 王族に敬語を使わないなんてこと普通じゃあり得ないが、ルミアが言うのであればアルも従うしかない。


「それでアル、あんたはさっき何をしたの?」


「何って……魔法を使っただけだけど」


「でも、詠唱も何もしてなかったわよね? ……つまり無詠唱、詠唱破棄してみせたってこと?」


「そういうことになるな」


 自分の質問に何もなさそうに頷くアルに対して、ルミアは衝撃を禁じえない。

 もしかしたら詠唱破棄をしているのではないだろうかと予想はしていたものの、それが事実だとは正直思っていなかったのだ。


 そもそも『無詠唱』『詠唱破棄』というのは簡単そうで、実はとても高度な技だ。

 並みの魔道士であれば恐らくそのほとんどが出来ないだろう。


 宮廷魔道士と同等の力を持つルミアでさえ、詠唱破棄は困難を極める。

 もちろん出来ないということはない。

 簡単な火の玉などであったら暗殺者たちと戦っている時のように詠唱破棄出来る。

 しかしそれはあくまでも牽制程度の威力しか含まない。

 それがルミアにとっての常識で、魔道士にとっての常識だ。


 だがアルは違う。

 アルは無詠唱でありながらも、敵を一瞬で屠れるほどの威力を持つ魔法を使って見せた。

 風魔法が優秀で宮廷魔道士になったということから考えて恐らく先ほども何らかの風魔法だったのだろうが、それにしてもあり得なさ過ぎる。


 風魔法には他の魔法と違って色などは無いし、避けるのは難しい。

 普通に考えたら攻撃ではかなり有用的な魔法だと思うだろう。

 しかし実際のところ風魔法を使う魔道士はその数は多くない。

 というのも、風魔法は使い勝手が悪いのだ。

 魔力消費は多く、そのせいで射程範囲もろくなものじゃない。


 もちろん風魔法だけでなく、他の魔法にも欠点はある。

 火魔法は狭いところでは使いにくいし、水魔法は攻撃力が低い。

 しかし他の魔法にはその欠点を上回るだけの利点があるのだ。

 風魔法の目ぼしい利点と言えば、相手に認知されにくいということくらいだが、それも射程範囲が狭いという欠点のせいで、魔法を打つ予備動作などから簡単に避けられてしまう。

 結果、風魔法は数ある魔法の中でもとりわけ不遇職であるというのが世界の理であった。



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