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015 ルミアの心残り

遅くなりましたが夜更新分です。

次話は明日の朝7時に更新予定です。

よろしくお願いしますm(__)m


「……遅いな」


 ルミアが下の食堂に夕食を貰いに行ってから明らかに時間が経ちすぎている。

 もしかしたら食堂が混んでいるだけかもしれないと先ほどまでは考えていたが、さすがにアルも何かがおかしいと思い始めた。


 しかし周りには相変わらず敵意を感じない。

 刺客がルミアを襲うとしてもその前にアルの敵感知センサーに引っかかるはずだ。

 今考えつく可能性としたらルミアが自分の夕食だけを食べて、アルへの夕食を用意していないという可能性だ。

 ルミアはアルのことを嫌っているということを、アル自身理解している。

 だからこそ思いついた可能性だった。


「……俺も貰いに行くか」


 アルは一度溜息を吐くと、部屋を出た。




「え、外に出て行った!?」


 アルは宿屋の店員に聞いて驚きを隠せなかった。

 さすがにそんな危険なことを自らするタイプには思えなかったし、もしかしたら何か大事な用でもあったのかもしれない。

 しかしそれでも危険すぎることに変わりない。

 一体どうしてそんなことをしたのかという疑問がアルの頭に浮かぶ。

 だが今はそんなことを考えている暇さえ惜しい。

 アルはその額に汗を浮かべながら、宿屋を飛び出した。




「こ、これなら少しは……」


 ルミアは商店街で手に入れた夕食を持ちながら、満足げな顔を浮かべていた。

 これなら恐らくアルも気に入ってくれることだろう。


 しかし少し時間をかけすぎてしまったらしく、既に日も暮れてしまった。

 商店街の明かりがあるからまだ暗すぎるということはないにせよ、少し道をそれてしまえばそこは闇の世界に包まれるだろう。


「確か、こっちに行けば近道だったような……」


 その時ルミアは一本の細道に目を奪われていた。

 普段であれば一人でそんな細道を歩く危険性を考え、絶対に選ばないような選択肢だろう。

 しかし今はアルへの夕食を持っている状態だった。


 アルのために買った唐揚げを串に刺したもので、出来立てのそれは今もルミアの腕の中で熱を放っている。

 それを出来るだけ早く冷めないうちにアルに食べてもらうことが今のルミアの目標だ。

 そしてそれを成し遂げるためには、恐らく近道をするのが一番可能性が高い。


「…………」


 ルミアは無言で唾を飲むと、ゆっくりその細道に足を進めた。




 しかしどうやらその選択は間違っていたらしい。

 ルミアは今、知らない男数人に囲まれていた。

 どの男も顔を見せることがないように大きめのフードを頭に被り、その手にはナイフを持っている者もいる。


「何か私に用かしら?」


 ルミアは平静を装いながらも男たちに聞く。

 しかし彼らが自分を狙うために雇われた刺客であることなど、考えるまでもなく分かっていた。

 相手は恐らくプロの暗殺者だ。

 見え透いた時間稼ぎをしようとしてもその瞬間に手を出されてしまうのは目に見えてる。


 どうにか反撃するにしても恐らく難しいだろう。

 囲まれているので逃げることも困難だ。

 ルミアは、今自分に残された選択肢がほとんどないことを悟った。


「……まぁ、ただじゃやられないわよ」


 何かしようとしても結果は同じ。

 それならば一矢報いたい。

 ルミアはその瞳に決意の色を見せると、自分の周りに火の玉を出現させる。

 詠唱するのはだめだ。

 相手がそんな時間を待ってくれるはずがない。

 それならばと、魔力消費も少ない小さな火の玉を選んだのである。


「ッ!」


 ルミアは暗殺者たちに火の玉をぶつける。

 もちろん簡単には当たってくれないが、それなら数で勝負だ。

 ルミアは魔力の続く限り火の玉を打ち続ける。

 しかし当然向こうもそんなルミアを見逃すわけもなく、応戦し始める。


 ルミアも何とか魔法壁を駆使しつつ対応するが、多勢に無勢。

 さすがに徐々に魔力が底をつき始める。


「……はぁ……はぁっ」


 数分の攻防の末、ルミアは小さな火の玉でさえ生み出せないほど魔力を使い切っていた。

 そんなルミアに暗殺者たちが距離を詰めてくる。

 戦っている間にルミアが気付いたこと、それはどうやら彼らは自分を本気で殺しに来ているわけではないということ。

 もしかしたら依頼主か誰かから生きたまま連れてこいなどと指示されているのかもしれない。


 かといって連れていかれた先で良いことが待っているとは思えない。

 ルミアは近づいてくる足音に何もできない自分がいることが悔しくて堪らなかった。

 連れていかれてしまうのはこの際仕方ない。

 それは単に自分の実力が相手よりも劣っていただけだ。

 そして今更近道なんかをしなければ良かったなんて、後悔もしていない。

 ただ一つ心残りなのは、ずっと腕の中で大事に握られていた唐揚げをアルに食べてもらいたかったということくらい。


 男たちの内、一人がルミアに手を伸ばしてくる。

 ルミアは伸ばされてくるその手に、アルへの申し訳なさを感じながら瞳を閉じた。




「全く、勝手にどっか行かないでくれよ」




「……え」


 その時、聞こえるはずのない声が聞こえてきた。

 それはルミアがこれから夕食を届けようとしていた、宿屋にいるはずのアルの声だった。


「心配するだろ」


 その声に目を開けた時、これまで暗殺者の男が伸ばしてきていた手がいつの間にか、アルのそれに代わっていた。

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