012 翼竜退治
ブクマ評価ありがとうございますm(__)m
二人は黙々と翼竜のいる場所に向かっている。
何かと突っかかって来るルミアも、先ほどから不機嫌オーラが出ているアルには触れないでいたほうが良いと思ったらしい。
少なくとも悪い判断ではないだろう。
ギルドから出てしばらくが経った。
今二人の目の前では翼竜たちが空を飛んでいる。
「……結構多いわね」
そしてその数を見てルミアが呟く。
それにはアルも同意だ。
「確かにクエストでは五、六体と書いてたんですが」
「これ絶対二十はいるわよ」
「そうみたいですね。報告すれば報酬も上乗せしてくれるかも」
「してくれなかったら二度とこのクエストは受けないわ」
「まあまあ、ひとまずは目の前の翼竜をどうにかしないと」
皮肉を言うルミアを宥めつつ、アルは翼竜たちを見上げる。
幸いこちらには気付いていないらしい。
気持ちよさそうに空を飛んでいる。
「というかそもそもあんたって翼竜倒せるの?」
ルミアが馬鹿にするではなく純粋な疑問として聞いてくる。
普段のアルなら多少なりともムッとしていただろう。
しかし今のアルのそういう怒りの矛先はほとんど翼竜に向けられていた。
こっちはどれだけ必死で飛行魔術の研究をしてると思ってんだ、と。
「これでも俺、宮廷魔導士なんで」
ルミアの疑問にアルが答える。
宮廷魔導士ということは少なからず優秀な魔法使いであることは間違いない。
いくら酷い噂があるアルだからと言ってこんな翼竜に後れをとるようなことはない。
恐らくルミアもそれは分かってくれているはずだろう。
「あ、でも出来たらルミア様が今回倒してみます? あれ」
アルは空を飛ぶ翼竜を指さしながら聞いてみる。
そういえばこれまでルミアの使う魔法は見たことはあっても、その実力を見ることは出来ていなかった。
ちょうどいい機会だし、このタイミングで護衛対象の実力を把握しておくのも悪くないだろうとアルは考えたのである。
「まあ確かにあれくらいなら全然問題ないけど、逆にあんたはいいの?」
「ん? 別に何も問題ないですが?」
「……はぁ、分かったわ」
ルミアからしたらアルの実力を確かめられるせっかくの機会だったのにとがっかりせざるを得ない。
因みにもしここでアルが翼竜と戦うことになっていたとしても、アルの異常な実力がバレる心配はほとんどなかっただろう。
ちゃんと実力を隠しながら戦う準備もしていたのだ。
「一気に片付けたいから少し詠唱するわね」
「分かりました。それじゃあ一応周りを警戒しておきます」
「————」
アルがそう言った時には既に、ルミアの詠唱は始まっている。
詠唱――それは魔法を最大限の威力で引き出すためのいわば言霊だ。
もちろんあえて詠唱を簡略化することで威力を調整することだって出来る。
今回の戦いでルミアが詠唱を選んだのは正解だった。
相手の翼竜は二人には気付いていないので存分に詠唱出来る。
魔法を詠唱するルミアの表情は真剣そのもの。
そんなルミアの表情を見て、アルはこれまでルミアに抱いていた負の感情が払拭されていくような気がした。
アル自身、ルミアと同じ魔法使いだ。
ルミアの魔法と真剣に向き合う姿は、日々飛行魔術の研究に明け暮れているアルからしてみれば通じるものがあったのだろう。
「————業火に震えろ、ファイヤボールッ!」
長い詠唱を終えたルミアの周りにはいくつもの火炎の玉が出来ている。
それは先日宿屋で見たそれとは比べ物にならない大きさだ。
その火炎の玉は物凄いスピードで翼竜たちへと向かっていく。
『————』
次の瞬間、翼竜たちの断末魔が響く。
翼竜たちからしてみれば突然炎が迫ってきて、さぞ驚いたことだろう。
ルミアは魔法が成功したことにホッと息を吐く。
しかしそんなルミアとは裏腹に、アルはぼうっと空を見上げたままだ。
「…………」
するとアルは何やら見つけたらしく、ルミアには気付かれないように魔法を放つ。
実は先ほどのルミアの魔法で討ち漏らした翼竜たちが少しだけいたのだ。
それを一瞬で片付けたのである。
もちろん普通に風魔法で殺したとしても火魔法とは違って亡骸がそのまま落ちてきてしまう。
それを見られたらさすがのルミアも違和感を感じるだろう。
だからアルは自分の殺した翼竜たちを、面倒だが、何度も風の刃をぶつけることで跡形もないまでに切り刻んだ。
それだけ、満足そうにしているルミアに全部倒し切れていなかったなど言うのはアルには気が引けたのである。
実際先ほどの魔法はかなりのものだったし、リアが言っていたルミアの実力というのは本当のことだったのだろう。
焼けた翼竜たちの亡骸が落ちてくる。
あとは身体の一部を剥ぎ取りギルドへ持って帰ればクエスト達成だ。
少しあっけないような気もしたが、危険なことに巻き込まれるよりも良いだろう。
さすがに姫であるルミアに亡骸を触らせるというのはどうかと思ったアルは黙って翼竜たちの身体の一部を剝ぎ取っていく。
アルなりの気遣いに気付いたルミアもそれを黙って見ている。
「……あれ? なんかちょっと少なくない?」
「え、いや、こんなもんでしたよ?」
しかしルミアにそう言われた時は、さすがのアルも肝を冷やした。