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010 朝のひと時

ブクマ評価ありがとうございますm(__)m


「ふわぁ……」


 窓から差し込む朝日にルミアは目を覚ます。

 見慣れない天井に一瞬どういうことかと困惑するも、すぐにここが宿屋であることを思い出したルミアは欠伸を噛み殺した。


「……あれ?」


 隣を見てみるとそこには空のベッド。

 護衛として行動を共にしていたはずのアルはどうしたのだろうかとルミアは首を傾げる。

 もしかしたら一人で朝食を食べに行ったのだろうか。


「全く、護衛対象を放って一人で朝食食べに行くとかどういう神経してるわけ?」


 ルミアはアルに対して不満を零す。

 そもそもルミアはこれっぽっちもアルを信頼していなかった。

 というのもルミアは他人から聞いた噂でしかアルのことを知らない。

 噂というのも良いものなど一つもなく、どれも最悪なものばかりだ。

 そんなアルを信頼とか信用なんて出来るわけもなく、ルミアの中でアルの評価は最底辺を彷徨っている。


「……私も朝食貰いに行こうかしら」


 しかし何だかんだ言ってルミアもお腹は減る。

 ルミアは適当に着替えを済ませ、部屋の扉を開ける。


「痛っ!?」


「な、なに?」


 しかし開ける途中で何かに引っかかって、最後まで開かない。

 どうやら誰かにぶつかってしまったらしく男の声が聞こえてくる。

 途中まで開けた扉の隙間から恐る恐る廊下を覗いてみると、そこには眠たそうに頭を掻くアルが扉にもたれかかるように腰かけている。


「あ、そうだった」


 そこでルミアはようやく、自分がアルを部屋の外で眠らせていたことを思い出した。

 しかしまさか本当に部屋の外で眠っていたとはルミアも思わなかったのである。


 部屋に鍵が付いているわけでもないので夜中に入ってこようと思えば入れたはずだ。

 ルミアは若干の申し訳なさを感じ、思わず視線を逸らす。

 そもそもこの部屋を借りられたのだってよくよく考えたらアルのおかげだというのに、ひどいことをしてしまったと反省する。


 だが普段のアルだったら意地でも部屋の中でゆっくり休んでいたはずだろう。

 今回大人しく部屋の外で休んでいたのは、宿屋の外に妙な気配を感じたからだ。

 実力を隠している以上、部屋の中で何かするくらいなら廊下でさくっとってしまったほうが手っ取り早いと思ったのである。


「……ん、もう朝か?」


 アルは目を擦りながら身体を起こす。

 そして少しだけ開いた扉の隙間から見てくるルミアと視線が合う。


「あー……おはようございます?」


「っ!」


 アルの顔を見て、ルミアは昨日自分があられもない姿を見られてしまったことを思い出す。

 徐々に自分の頬が熱くなるのを感じたルミアは勢いよく扉を閉める。

 そしてそのまま妙な唸り声をあげながらベッドにダイブする。

 ベッドの上で布団にくるまりながら転がるルミアはとても一国のお姫様とは思えない。


 ルミアがそんな状態になってからしばらくして、部屋の扉が叩かれる。

 ルミアは枕に顔を押し当てたまま反応すると、部屋の外からはアルの声が聞こえてきた。

 どうやら中に入れてほしい。

 そんなこと言わずとも勝手に入ればいいのに。

 ルミアは、妙に律儀なアルに口を尖らせる。


 アルは自分が入るなと言ったらどうなるのだろうか。

 ルミアの頭の中でそんな意地悪な考えが浮かぶが、さすがに昨日の夜のこともあるしこれくらいで勘弁してあげても良いだろう。

 そう思ったルミアはベッドから立ち上がり、部屋の扉を開ける。


「あ、ありがとうございます」


 ルミアが扉を開けてくれたことにアルは意外そうな顔を浮かべながらも、頭を下げる。

 そしてその手には何やら握られている。


「これ良かったらだけど、朝食にと思って」


 アルは大変不本意ながら二人分の朝食を食堂で作って来てもらったのだ。

 朝からがっつりしすぎたものもどうかと思ったので、パンに野菜やハムを挟んだ軽めのものを頼んだのだが大丈夫だっただろうか。

 アルは視線だけでルミアの反応を確かめる。

 けれどどうやら無用の心配だったようで、ルミアはアルの持つ朝食に目を輝かせている。


「ふ、ふーん。まぁ別にお腹とかは空いてなかったけど、無駄にするのもいけないわよね」


 しかしルミアはあくまでプライドを優先するのかそっぽを向きながら、手を差し出してくる。

 どうやらその手にパンが置かれるのを待っているらしい。

 アルは、欲しくないなら食うな! と言いたいのを何とか堪えつつ、その手の上にパンを置く。


 ここでキレても何も良いことはないと諦めてはいるが、アルは内心不機嫌さを増していた。

 それはルミアの理不尽な態度のこともあるが、何より飛行魔術の研究をすることが出来ないことが原因だった。


「……はぁ」


 アルは自分の負の感情を溜息で外に追いやる。

 そのお陰か少しは気が楽になったような気がするアルは自分の分のパンを齧る。

 パンは歯ごたえがあり、間に挟まれている野菜とハムとの相性もバッチリだ。

 そしてパンの最後の一口も食べ終えたアルは今日の予定を考える。


「……ん、やっぱりとりあえずは当面の路銀を稼がないとな」


 アルはパンを美味しそうに頬張るルミアを見ながら呟いた。

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