閑話・掘り出し物。(フロルの商人)
前にも盗賊に襲われて商品と有り金を全部奪われたが
今度もそうかもしれないと覚悟した。
ダンは昔なじみでフロルでは猛者だが相手の人数が多すぎる。
諦めかけた所になんと助けが来た。
まだ成人したかしないかくらいの少年だった。
だが魔法を使う!
戦争で魔法を使える者たちは皆動員されてしまったので大幅に
人数が少なくなっている。
あっというまに撃退してしまった。
もちろんダンも隙は逃さないヤツだから助けは有効に利用していた。
おかげで誰もケガをしなかったし荷の商品も無事だった。
だが、自分のことが分からないという。
ダンは戦争でそういうヤツを見たことがあるようだ。
まあ、ウソをついていたとしてもこんな子供が考えることなんて
たかが知れてるだろう。
街に入ろうとしたら無一文だというので貸してやった。
くれてやろうとも思ったが断わられた。
ダンは気に入ったようでギルドに登録して稼げば返せると教えていた。
あの歳じゃあたいした儲けにはならないかもしれないが
魔法が使えるってのは有利だからな。
三日で返しに来た。
薬草の採取なんかしてるというので護衛の方が儲かると教えたけど
ゴールデンボアに遭遇して倒したなんて話を軽くしたのには驚いた。
利子を払うなんて言うとは思わなかったね。
まあ、三日だけだったし助けてもらった礼をホントは払わないとイケナイのを
金を貸してごまかしたようなものだからな。
利子までは断ったよ。
水魔法が使えれば雇ってもらいやすいと教えたら庭でさっそく試してたんだが
どうも上手くいかなかった。
ふっと見上げたらドでかい水球が頭の上に浮かんでた。
もう速攻で逃げたよ。
あとは想像どうりさ。
自分が出した水球で溺れかけるなんてアイツも思わなかっただろうな。
まあ、初心者ってあんなもんなんだろう。
だけどコレは掘り出し物ってヤツだな。
まだ初心者だけど才能はバッチリだ。
ダンに面倒をみさせとくってのも手だろう。
思ったよりも強くて機転もきくヤツだった。
ダートへの旅へ護衛の見習いと水瓶代わりのつもりで雇ったら
他の連中より頼りになった。
しかもマヌケにも人質にオレがなってるのにあわてもせずに軽く賊をやっつけた。
安いがこういう賊は金になるからな。
ちょっとしたボーナスまで稼いでくれた。
ほんとに掘り出し物だったよ。
毎回雇うって訳にもいかないがコレはラッキーが笑顔で
寄って来てくれたようなもんだろう。
気の良いヤツだってことも分かったし〔確保〕しとこう。
大儲けでなくても儲けは大事にするのが商人だ。
アイツは居るだけで儲けを守ってもくれる。
小さく見えても大事にしとくべきだろう。
商売は相見互いだ。
お互いの為になるってのが基本だからな。
オレに雇われてたってのはアイツの経験と保証になる。
他の商人にも雇ってもらい易くなるだろう。
あとはアイツが失くした記憶ってやつが見つかるといいんだけどな。
どんな時でも利益のことを忘れない商人さん。
エライです。
利益が無くては次の商売にも差し支えますからね。
ボランティアとは目的自体がすでに違うのです。
近江商人の信条という三方よしは理想でしょう。
三方よし「売り手よし、買い手よし、世間よし」
でも世間よしは最後なんだよね。
まあ、お互いに利益が出ないと世間様のことも
考えてらんないよってところもあるんでしょう。
でも、ちゃんと世間のことも忘れてないってことが
大事なことでもあるんですよね。