#8 修行の終わり、ミーシャをかけた大合戦⁉︎
試合当日
大会開式の2時間前
スクルウリ砂漠にて崇星の魔法及び魔装を含めた戦闘訓練が行われていた。
「良くこれまでの修行をクリアしてきたわね。だけど、ここからは更に過酷よ。最終鍛錬の内容は私と怠慢で10分持ち堪えること。準備はいい?」
崇星は深く息を吸い込み気持ちを整える。そして、これまでの修行でやってきた鍛錬の記憶を再び呼び起こす。それこそが自分の誇りであり自身であるからだ。
意思の籠った声で叫ぶ。
「ああ。どっからでもかかって来やがれ!!」
その崇星の気を受け止めたレギーナはそれに応えるように初っ端から魔法を唱える。
「『漲れ-限界力』…」
この魔法は一定時間身体能力を元の数倍に引き上げる魔法であり、術者によってその度合いはまちまちである。が、当然レギーナはこの魔法の効力を十分以上に引き出せる。
それに加えて、
「…『魔装〈愛扇〉』!!」
魔装もまた身体能力を上昇させる技である。その中でも『愛扇』は防御に特化した魔装だ。この時点でレギーナの力は防御力、攻撃力共に元の数十倍にも膨れ上がっていた。更に前者(防御力)はダイヤの剣すら弾いてしまう程の硬度である。
「俺も行くぜ、『魔装〈擽鬼〉』、
それと、『旎かせ-玉疾風!!』」
崇星も負けじと応戦する。目には目を、魔法には魔法を、だ。
魔装『擽鬼』は攻撃力、防御力それぞれバランスが取れた通常型だ。この間闘ったモッサムもこの種類の魔装を使っていた。
それに加えて風を手足に纏う魔法を使用する事で風による推進力を創り、加速度を上昇させるのが崇星の狙いだ。移動速度、及び攻撃力の上昇が見込める。
「「じゃあ行くぜ(わよ)!!」」
2人は同時に地面を蹴る。相対するのはその直後、2人のラッシュが始まる。
「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!」」
心なしか顔も凛々しくなって…いるような?
わざわざ2人が砂漠に赴いたのは周りを気にせず全力をぶつけるためだ。拳と拳が交差する時、其処には無数の衝撃が生まれる。やがてそれは砂嵐となり、辺り一面が陥没となる。
「崇星、少しはやるじゃあねえか。今までにない闘いが出来そうでよぉ、最高にhighってやつだアア!!」
「やれや■だぜ。お前は俺を怒らせた!!」
※2人は興奮しているだけです。決して危ない橋を渡ってはいません。…てか、崇星は分かるけど、何でレギーナまで知ってんの!?(作者の都合です)
ラッシュはまだ続いている。だが、どちらが先にスタミナが切れるのかは明白だった。戦闘経験の違いがモロに出る。体力の調整ができてないのだ。崇星がよろけ、少し体制を崩してしまう。
その隙を見逃すレギーナでは無い。すかさず回し蹴りで崇星に重い一撃を加える。
「くっ!! 危ねえ!!」
崇星は咄嗟に腕でガードする。が、2人の攻防は空中で行われていたため力を分散し踏ん張るための地面が無く、纏っている風の力だけではとても防ぎきれない。そのまま崇星は砂漠に向かって吹き飛ばされる。
ドオオォォォォン!!!
砂に激突し、崇星の視界が遮られる。
「ほら、やられたら直ぐに体制を立て直しなさい。考えるのはそれからよ!!」
容赦の無いレギーナの追随が崇星を襲う。限られた視界の中で何とか攻撃を避けてきたが、遂に蹴りが崇星の腹にヒットする。
「グゥッ!!」
だが次は吹っ飛ぶという事はせず、気迫で持ち堪えた。崇星は苦悶の表情を浮かべる。
「馬鹿ね。そのまま吹っ飛ばされた方が威力を殺せたかも知れないのに。」
だが、崇星には考えがあった。ここで一撃を受ける事に意味があったのだ。間も無く崇星の苦悶の表情は大業を成し遂げた男のそれへと変わる。
「へへ、痛みの分だけ成果はあったぜ。お前の脚は掴んだ。そんでもって…
『喰らえ-蟻地獄』!!」
「!?」
この魔法は土による拘束魔法である。
土魔法により、レギーナの掴まれていない方の脚が砂の中に沈んでいき固定されていく。当然逃げようとしても崇星が片方の脚を必死で抑えているため脱出不可能だ。
「…」
「よし、これで動けないだろう!! このまま残りの時間を待つだけだ!!」
「…」
「やったぜ!!これでもう修行は終わりだな。いや〜長くて辛い修行だったなあ。100万本ノックは数の暴力で死にそうになったぜ。終いには “夜も休まず下の方で〜” なんてレギーナが言い出した時なんか…」
チラッとレギーナを見る。
「…」
「なんか言ってくれないと怖いんですけど…。ひょっとしてまだ切り札を残しているとか?」
「…ふふ。」
レギーナは崇星をおちょくる様な笑みを浮かべた後、魔力を自分の体に以前よりも高密度に収束させ始める。
「あ、あれ〜? なんか先よりも濃くて赤いオーラみたいなのが出てるんですけど、てか偶に黒い雷みたいなのがバチバチ言ってるんですけど(汗)」
「本気出したのよ。私の脚を少年が撫でまわす様に触ってくるもんだから興奮して。」
口に指を当てながら言うレギーナ。いちいち行動がエロい。
「そんな触り方してねーよ!!あんたが動けない様に必死こいて掴んでただけだ!!」
崇星は今、脚を掴む事より弁解するのに必死だ。
「取り敢えずこのまま耐え切ってやる!!」
そう言った頃には崇星の目の前にレギーナはいなかった。崇星は決して緊張は崩さなかった。レギーナが例えどんな手を使ってきても時間まで押し込むつもりでいた。だが、今のは余りにも一瞬の事過ぎて崇星の動体視力をもってしても反応出来なかったのだ。
「全く、戦闘中に相手の空気に呑まれてしまってはダメよ。自分を強く持ちなさい。」
声の方向から崇星はレギーナが自分の真上にいる事を知る。先の瞬間、レギーナは崇星の魔法を振り切り、砂を払いつつ跳躍をしたのだ。
「何故逃げ場のない空中へ? …まあ俺がお前を追って空中に飛び込んでくるのを仕留める算段だろうが…俺にはこれがある!!」
そう言い、懐からペン並みの大きさの棒を取り出す。女神から授かった伸縮可能の武器、如意金箍棒だ。
「伸びろおおお!!」
如意金箍棒は一直線にレギーナへと向かって伸びていく。スピードは崇星の注いだ魔力によって変わるが、今の崇星はこれで仕留めようと躍起になっているため、注いだ魔力の量は人一人仕留めるのには十分な量であった。唯の人相手ならの話だが…。
「武器を使っていいなんて一言も言ってないのにね…。でもまあ…」
物凄いスピードで伸びてくる棒を身体を仰け反らせながらかわす。
「…それでも私の勝ちは揺るがないわ。」
「な!? 今のを避けるのか!? 化け物かよ。」
レギーナはすぐに避けた棒を掴み崇星ごと手繰り寄せる。
「うおぉぅっ」
崇星は空中に引きずり込まれ、其処に隙が出来る。それを狙っていたのか、レギーナの拳が強く握られる。
「じゃあ、これで終わりね。ああ、風を纏って空中を移動しようとしても無駄よ。そんな隙は与えない。」
その言葉を聞いた瞬間、崇星は自らの負けを悟った。それと同時に、やっぱり自分の師はそう簡単に追い越せるものではないのだと理解した。
***
「随分怪我をなさっている様ですが?」
「問題ないです…はい‥。」
今俺は武極大会選手受け付けに来ている。あの後レギーナの一撃がクリーンヒットし、試合前から傷だらけになってしまった。
受付嬢さんも困っているのだろう、怪我人を大会に出場させても良いものなのか。
「なら良いのですが…。ですがこの大会は大変危険を伴いますので、余り無理しすぎてもいけませんよ。」
「はい…。お気遣い有り難うございます。」
「それでは気をとり直して、まずこの大会のルールについて説明致しますね。選手は先ずA〜Dの4グループに分けられ、そしてそれぞれの決められたグループでバトルロワイアル形式で戦って貰います。ただ、最後の1人になるまで戦い続けるのでは無く、制限時間である10分後に、用意されたリングの中で立っていた者が次の第2回戦に上がれます。しかし、この試合において人を殺したり、観客に危害を加えたりした者は見つけ次第即行失格となりますのでご注意下さい。
それでは、貴方様のグループはAグループとなります。ご健闘をお祈りしております。
この先、真っ直ぐ行くと選手控え室がございます。試合開始まで其処でお待ち下さい。」
「あ、はい、ども…。」
言われた通りに真っ直ぐ行くと筋肉隆々の冒険者や鎧に身を包んだ騎士の姿が見えてきた。正直俺の場違い感半端ないな。
「お〜〜い!! 崇星!!」
むむ、この声は! 自称英雄のギル様だな。ここに来てたのか。
「あれ? お前も大会に出場するのかよ。てっきり大会は俺に一任された物かと思ってたんだが…。」
「まさか〜。俺だって冒険者だぜ。教会の為に自分が出来ることはするつもりだ。それに、俺だけじゃなくてミーシャも参加するんだぜ。ほら。」
ギルの指差す方向にミーシャがいた。緊張で尻尾が固まっている。近づけば近づくほどミーシャの顔が青ざめているのがよく分かる、普段の顔の白さも相まって。
「おーい? 大丈夫かミーシャ?なんか凄く切羽詰まった感じだけど。」
「 まさカ、 ぜンぜんヘイキですヨ。アハハハ!!」
ダメだな、こりゃ。完全に緊張で脳が殺られて片言が洗練されている。持ち直すのには時間が掛かりそうだ。因みに相方は相方で、
「この試合勝ち抜いたら、俺はこの街の英雄だぜ!!教会に俺の銅像建ったりしてな!! ウへへへ!!」
という感じで、楽天主義過ぎてやばい。それに加えてギルは現在進行形で負けフラグ建築中だ。そもそも『俺、〜したら〜』なんて言ってはならんのだよ。まして此処は異世界だぜ、フラグ回収の場が色んな所に設けられているんだ。いちいち気をつけなければ。
しかし、こんな調子で本当に大丈夫か?此奴ら?
そんな俺の心配を他所に何処からか騒がしい声が聞こえてくる。
「「「「「フレー!! フレー!! ミぃーシャちゃん!!!」」」」」
「!?」
何だ!? 何の声援だ? しかも今『ミーシャちゃん』って言ったよな。
隣のギルは “またか〜” みたいな顔しているが。
目の前におわすその声の主達は祭りの法被に身を包み、額には【ミーシャ♡】の鉢巻をしている。
「崇星、気にすんな。彼奴らはミーシャ応援団の奴らだ。ほら、ミーシャは‥その…まあ美人だろ。だから自然とミーシャの事を気にかけてこう言う団体ができちまったんだよ。いつも能天気な奴らでよ、冒険者の仕事の合間縫ってこうやって月に何回か集まってくんのよ。」
ほうほう、つまりミーシャは冒険者界のアイドルというわけだな。是非ギルも入るべきだな、普段はミーシャに対して素直になれないからなこいつ。
「「「「「僕達は一生ミーシャたんについていきます!!!!」」」」」
ついに『たん』までつけやがった。だが、その意気や良し!!
「やかましいぞ、この下衆共め!!!
ミーシャ様は我々の伴侶に成られるお方だぞ。貴様らの汚い声でミーシャ様を汚すな。」
「「「「まさしく!!!」」」」
おいおい何だよ、また変な奴らが現れたぞ。 前の応援熱血野郎共と違って次は清楚な服に身を包み、いかにも貴族様!という感じのキザ野郎共が現れる。
ギルは “面倒なのが現れた〜” みたいな顔をしているな。心底嫌いなんだろう。ここで、ギル様の解説が入る。
「此奴らはミーシャに求婚をし続け、そしてフラれ続けている団体。通称、求婚団だ。ミーシャを自分達の婦人候補にしており、ミーシャの為なら何でもする覚悟のある奴らで構成されているらしい。この間なんかは求婚の際にオリハルコンの杖まで持ってきやがった。」
まんまのネーミングだな『求婚団』。つまりは此奴らは唯のねちっこい金持ちナルシスト共というわけではなく、ミーシャの為なら『蓬莱の玉の枝』まで命がけで持ってきてしまう輩ということだな、鬱陶しいけど。だが、フラれても諦めずアプローチするその姿勢はギルも見習うべきだな。
「そんな事は無いお!!ミーシャたんは皆んなのものだお!!!」
「「「「そうだ、そうだ!!!!」」」」
熱血応援団が強引な求婚団にミーシャを奪われまいと抵抗する。彼らにとってミーシャは『神』であり、偶像崇拝の対象なのだろう。多少言い過ぎか?
「ふん、所詮は獣共の戯れ。ミーシャ様は我々を選ばれぇぇぇーーーーるぅのぉだああぁぁぁぁーーーー」
「「「「まさしくううぅぅぅぅーーーー」」」」
やばいな。その一言に尽きる。語尾そんなに伸ばさなくていいから。そしてここで喧嘩すんな両方共、五月蝿え。
ごちゃごちゃとこの2グループが喧嘩を続ける中、さらにギルから新鮮な情報が入る。
「今こそ言い争っているが、実は此奴ら仲が良い。」
「???」
What? 何だって? 取っ組み合いしている此奴らがか? 何の冗談いっt…
「そう言えばこの間、ミーシャたんがオムリツを美味しそうに食べているのを見かけたでござる。」
「何!? それは本当か? でかしたぞ!! ミーシャ様お気に入りメモ欄がまた増えたぞ!!
因みに我々もこの間、ミーシャ様が教会でパンを美味しそうに食べているのを見かけたな。」
「それは朗報だお。今度ミーシャたんにケーキをプレゼントしようと思っていたところだったお。なら生地の発注は教会に任せるお。」
「ところでミーシャ様を招待するパーティの事なんだが…」
ワイワイガヤガヤ
先までの火花はまるで元から無かったかのように跡形も無く消火されてしまった。人間は一人の人間の為にここまで団結できるものなのか…。何か…感動した。
水を差す男ギルは発言する。
「因みに喧嘩が収束してから、再び着火するのも早い。」
「馬鹿な奴らめ、ミーシャ様に似合うのはこのブラウスだああぁぁぁぁーーーー!!!」
「「「「まさしくううぅぅぅぅーーーー」」」」
「ミーシャたんを分かっていないのはお前達だお!! ミーシャたんにはこのワンピースが似合うに決まってるお!!!」
「「「「そうだ、そうだ!!!!」」」」
俺のさっきまでの感動を返せ!! それに着る服一つで喧嘩とか、論点が実に下らない。きっとギルもそう思っているはずd…
「まあミーシャは何着ても似合うけどな!!!」
ギルはキメ顔でそう言った。
本編とは全く関係ないのですが一言。
皆さんも某海賊漫画に出てくる悪■の実はご存知だと思いますが、自分だったらあの実が食べたいとか、こんな実があったらいいなとか、恐らく想像した事がある方も多い筈です。
因みに私は今、ゴイゴイの実というものがあるのなら是非食べてみたい!!
私が考えるゴイゴイの実の能力は、かの有名な文豪、数多の有名作家を輩出してきたとある賞の名前にもなっている、あの芥川先生を凌ぐ程の語彙力を手に入れるというものです。
こんな妄想をしてしまうくらいに作者は語彙力に飢えている。