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覇神なんて俺には荷が重い  作者: だるま座
武極大会編
7/10

#7 予感

 教会を出るとギルド共用の公園のような広場になっており、そこで俺たちは教会の中で買ったパンと果実を頬張っている。


 しっぽをフリフリしながら一匹が満足気に言う。


「教会のパンはやっぱり美味しいですね。ほっぺが落ちそうです。どこのパン屋が真似てもこの味を出すことは出来ないと思います。原材料は春小麦を使用しており、特に神の魔力を十分に含んだ生地はもちもちでかつ歯応えも有り、食べていると心が洗われる様な一品です。」


 ミーシャの食レポの通りにこのパンはとてもうまい。高級ホテルの朝食で食べられるパンに似ている。味はパンその物の素材の味がしっかり出ており、変に味付けをしていないところがまた良く、果実との相性も抜群である。


「確かに美味しいな。これならいつ迄でも食べていられそうだぜ。」


「ギル、それは食の初心者が言う中身の無い感想だぞ。もっと的確にこの味を表現してみろよ。」


「なら崇星、貴方がやってみなさい。私はこれでも世界中の料理、ゲテ物から貴方たちが手を出せない一流料理人がよりをかけた高級な料理まで多くの食物を食べてきたのよ。そこで数々の料理の批評を求められてきた…。

 私が認められない様な食レポをしたら、分かってるわよね。」


 …ごくり、レギーナの表情が恍惚としている。しまった。出来る人発言するんじゃなかった。


「パンの代わりに貴方をお持ち帰りしてしまうわよ。…果実なら私がもう持っているから♡。」


 胸にぶら下げた2つの果実を揺らし合わせながら誘惑してくる。実にけしからん。少しくらいなら…って駄目だ駄目だ。


「結構だ!! 生憎俺は食品じゃ無いんでな!! 」


「そう、折角貴方のパンがぐにゃんぐにゃんになる迄食い散らかしてやろうと思ったのに。残念ね。」


「ひぃっ!!」


 止めてー。俺は来るべき日まで男としての貞操を保っていたんだよー。こんなとこで失うわけにはいかないんだ。


「まあ冗談。この教会ももう直ぐ無くなるんだから今の内にここでしか手に入れられない物とかここでしかつくれない思い出とか大切にしないとね。」


「そうだぜ! ちぇ、俺に力さえ有れば今週末の試合で武神に頼んで教会を取り壊されない様にして貰えるんだが。」


「どうせギルは教会に恩を着せて、『修道女さんにモテたい』なんて言う考えなんでしょうけど。」


「そんなこと無いぜ。俺は本気だ。」


 何の事話してるんだ? さっきから『武神』やら『試合』やらの単語が気になる。


「試合って何の事だ、ギル? それに武神に頼むって?」


「ん? ああ、実は70年に一度この街の闘技場で三日間連続で武神主催のお祭りが開かれるんだ。基本は街の連中で飲んで食ってワイワイするだけなんだが、戦士や冒険者にとっては己の力を武神に示すまたと無い機会が与えられる。

 祭り最終日に『武極大会』が開かれるんだ。そこで武神に力を認められれば、武神の可能な範囲でどんな願いでも叶えてくれるらしい。まあ名に神が付く連中はこの星で絶対な権力を持っているから殆どの願いや頼みは叶うだろうな。」


「へぇーそんな祭りがあるとは…。

 !? ならば、レギーナが出場すれば力を見せつけられるんじゃねえの!!」


「それは無理ね。私はもう名が知られている。ギルドマスター副総監督みたいな役に付いている者は特別な試合以外出る事は世間一般禁止されているわ。力が違いすぎて試合にならなくなっちゃうしね。」


「まあ、ギルド関係者第2位なら仕方ないよなぁ、勝負がもうやる前から見えちゃうしな。」


「でも…夜の勝負なら何時でも受けて立つわよ。」


「もうそう言うのいいから黙って食ってろ!!」


「そうだ、崇星、お前出ろよ。」


「そうです、いい考えです。ジャギーの群れを壊滅させられるんですからいい結果残せると思いますよ。」


「はあ? 俺が出る? 」


「お前このまま教会が壊されていくのを見ているだけでいいのかよ。仮にでもお前はここで奇跡を賜ったんだろう。ならその分の恩をしっかりと返すべきだぜ。」


「ここの教会はこの街の象徴でも有ります。私達の生活に強く根付いている習慣を壊してはいけないと思います。」


「いや、その、そこは別に良いんだけど、俺はこんな試合これ迄一度も出場経験無いから…。」


 中学や高校の部活動の試合とは全く違うだろうしな。

 あっそうだ!! それなら良い考えがある。


「なあ、レギーナ。俺この間お前に願い事一つ聞いてもらえるって約束したよな。」


「ええ、そうね。ひょっとしてやる気?」


「ああ、そうだ。俺は今回の『武極大会』に出場する。だからレギーナ、俺にそれまでに魔法と武器を使った最低限の闘い方を教えてくれ。試合で勝ち上がるために。」


「分かったわ。本当は、明日辺りにこの街を出るつもりだったんだけど、良いわ、試合までの5日間、きっちり稽古つけてあげるわ。」


「頼んだ!!」


 こうして俺は試合に出る事となった。




 ***




 3日後、街ではお祭りの開始式典が闘技場で行われる為、俺達全員が足を運んだ。何でも、武神が来るというのでとても興味がある。この世界の頂点に立っている訳だし、武極大会のキーパーソンでもある。この人に認められないと教会は存続できないからな。どういう人物かで大会での俺の行動の仕方も変わってくるだろう。


 闘技場は多くの人々で溢れていた。多くの荷物を抱えた行商人や一般の市民、更には俺たちの様な武闘派の人間もいた。

 其処でこの街の(おさ)らしき老人が、用意されていた壇上に上がったことで会場が一気に緊張感で包まれた。


「皆さん、今日は70年に一度の神聖な日によくぞここまで来られた。我々の街ボロハランは今この瞬間、幸か不幸かここに存在している。それも全て我々の祖先、何より我々自身がこの街を思い想いを繋げてきたからである。ここ数年で急成長を遂げ、貿易商業都市として名を轟かせたのがその証拠だ。

 そして今日から続く祭りにはこれからの繁栄を願うという意味も当然あるが、我と同じ街長の先代達が何より大切にしてきたこの街をこれからもこの街であり続けさせるという意思の再確認の意味もある。

 昔から我が街ボロハランは武神様との因縁が深い。その繋がれた太い糸を切ってしまわぬ様、ある意味けじめをつけるという先祖達の思し召しだと思って欲しい。」


 観客は皆静かに街長の言葉を聴いていた。


「では、祭り開始に先立って、この世界に八人しかいない頂点に立たれるお方である武神様に御登場頂く。」


 その言葉と共に会場は一気に沸いた。闘技場一帯が歓声で満たされてしまう。


 そして、選手の入場門辺りから一人の女性が3人の少女達を引き連れて現れる。長い黒髪の妖狐の様な笑みを浮かべている女性だ。戦闘が素人の俺でも分かる、全く隙が無い。どこからかかっていってもねじ伏せられそうな、幾つもの戦場を潜り抜けた軍人の様な威厳が其処にはあった。

 近くの3人は武神の弟子かそれとも警護か、武神には遠く及ばないが強そうだ。髪の色がそれぞれ、ピンク、青っぽい白、薄黄色と信号機の色を全て薄くしたイメージでいかにも3人で一体という感じだ。


 武神が壇上に立ち、口を開く。


「貴君ら、良く来てくれた。そして、ここに礼を。」


 その声は絶対的な支配者を思わせる力強い覇気がある。

 だけど今、心なしか少し目が合わさった様な…?


「最近は平和過ぎて退屈していたんだがな。この3日間は心置きなく楽しめそうだ。ここの街長は伝統だの繁栄だのと小難しい事を言っていたが、私は先代である武神達と違ってそういうものにピンと来なくてな、正直今日をどう楽しむかということだけで生きている愚か者よ。だから、この祭りも私にとって戯れの場、お前たちも気兼ねなく楽しんで欲しい。

 祭りの最終日には、武極大会を執り行う。力に自身がある者は来るがよい。私が直々に見極めてやろう。


 さあ、70年に1度の祭り、武極祭の始まりだ!!!」


 再び会場は先を超えるほどの歓声で満たされた。


 この言葉と共に崇星にとって波乱万丈となる武極祭が幕を開けた。




 ***




 式典も終わり、俺たちは昼飯を食べに元冒険者の夫婦が経営している『ボワーズ』に来ている。

 この店はここの都市でそれなりに有名で、街の人間で常連も多く、いつも採れたての新鮮な素材で調理してくれる事で評判である。


「おばちゃん、俺マール貝定食!」


「崇星お前新メニューに挑戦するつもりか?なら俺は、マキ茸パスタを頂くぜぃ!」


「私はディアブルソース風オムリツをお願いします。」


「私はサンドフィッチセットにするわ。」


 全員が好き好きのメニューを頼んでいく。

 ここのおばちゃんは元ベテラン冒険者でこの店の接客担当だ。


「ハイよー!! 今すぐ作るよ!!」


 元気がいい声が特徴的だ。一方、旦那は‥‥


「おいおい、流石に今日は客多すぎねえか? ったく、猫の手でも借りたいくらいだぜ。」


 この通り面倒くさがりやである。だが、作る料理は絶品である。


 俺はこの店がすっかり気に入ってしまった。料理は旨いし、ここにやって来る冒険者達との会話も弾むからだ。

 まあ、でも偶にこう言う冒険者達が集まりそうな店で有りがちなあのイベントも起こったりする。


「おいおい、俺様を誰だと思ってんだ、ああ?」


 大柄の男とその子分っぽいのが一人の客にいちゃもんをつけている。どうやら、この男が席を自分によこせと言っているらしい。


「モッサム兄貴はなあ、今度の大会で武神に実力を認められるお方だぞ。」


「ひぃ、す、すみません。」


 客のお兄さんが大男に席を譲ろうとするが手に持っているバックが机の角に引っかかり少々戸惑っていた。


「おい、のれえんだよ。さっさとしやがれ!!」


 大男の拳が客を襲う。


 が…その手が客に触れることは無かった。その拳は崇星の掌に握られていた。


「そういう事はさぁ、本当に武神に認められてから言おうぜ、モッサム兄貴…だっけ?」


「ああん、誰だてめえ!!」


「誰でもいいだろう。一般客が困っているのを助けるくらい。ああ、でもお前と同じく俺も武極大会に参加する者だぜ。」


「あ? 手前がか? ははははっ 笑わせんじゃねえよ。手前みたいなヒョロそうなガキが俺みたいな鍛え抜かれた男に敵うはずねえだろうがよー!!」


 崇星は軽く笑みを浮かべた。


「何で今笑いやがったんだ手前!! ぶっ殺されたいのか!!!」


「いや、余りにも勘違い甚だしいと思ってよ。よくそのプヨプヨした腹してそんなことが言えたもんだなってな!」


「くそがっ!!」


 モッサムは挑発に誘われ、自分の背中につけた大剣を抜き、崇星目掛けて振り回す。

 だが…


「なっ!?」


 崇星はその大剣を片手で受け止めていた。確かに大剣の刃は崇星の手に触れているが、全く血が出ている様子は無かった。


「あ、兄貴?」


「馬鹿が!…ちと小僧相手に手加減しちまっただけだ!」

(嘘だろ! 俺は全力で振った筈だ。刃が奴に当たる感覚もしっかりとあった。一体何が!?)


 崇星は相手の考えている事を予測した上でまたも挑発する。


「痒い攻撃だな」


「んだと、テメエェェェーー!!!」


 モッサムは次に大剣の(きっさき)で突きを素早く連続で繰り返す。所謂(いわゆる)滅多刺しにするという奴だ。


「おららららららららあああぁぁぁぁーーー!!」

(糞ガキが!! 舐めやがって!! これで藻屑になっちまえ!!)


 しかし彼は気がついていなかった。始め崇星が剣を受け止めた時、傷を負っていたのは崇星の掌ではなく、彼の持つ大剣だという事に。

 崇星は軽く手で打ち払うなどしながら全ての攻撃を鮮やかに防いでいた。


「ハア‥ハア…」

(違いねえ、此奴は魔法を使ってやがる。個人の身体能力だけで俺の攻撃を、しかも素手で受け止めることができる奴なんて存在するわけねえ)


「…どうやら俺様はお前を見くびっていたみたいだ。まさか魔法が使えるとはな。 どんな魔法か知らねえがこの俺が手前の魔法(ごと)ぶった斬ってやる!!!」


 モッサムはこれ迄の戦闘スタイルから取って代わり、何処かの流派の型なのか、決まった体勢で精神統一を始める。


「!?」


 これに崇星は少し表情が曇ったがこの後のモッサムの状態を見て全て理解したようだった。モッサムの身体に魔素が纏われていくのを感じたー魔装である。


 魔装ー それは体内の魔素を身体に巡らせ『纏う』技の事。そうする事で、身体能力、身体の頑丈さなどが急激に上昇する。魔法を使う事とは少しコツが異なり、魔法は魔素を放出する事に長けた者が、魔装は魔素を留まらせる事に長けた者が使用し、魔装を発動した者は魔力を感知出来る者から見れば使用者特有のオーラに包まれている様に見える。武器に纏っても武器の耐久力が増すなどの効果がある。魔装が行える人間は非常に少ない。


「魔装‥だな。大会で勝ち抜く自信の元はこれか。流石にこれを食らったら擦り傷では済まないだろうな。」


「そうだガキ。俺を怒らせた事を一生後悔させてやる!!」


 モッサムは精神統一が終わり、崇星に一撃入れる機会を窺っている。


「今俺を殺そうとしてるんだろう? 言っていることが無茶苦茶だぞ。」


「るせえ!! 手前を此処で真っ二つにしてやる事に変わりはねえ!!さっさと失せやがれ!!!」


 大剣は魔装を帯びたモッサムの力で先程の数倍も速いスピードで振るわれ、剣は地面にまで食い込んだ。その衝撃で周りの物を吹き飛ばされる。砂埃が舞い、店内の一部が隠れる。


「兄貴やりましたね!!」


「あ…ああ」

(剣は奴を完璧に捉えた。俺の魔装を纏った最高の一撃だ。少々手こずったがこれで奴も…)


 しかし、砂埃が止み、中から覗かせるのは無傷の崇星の姿。手には今モッサムに握られている大剣の鋒部分の破片。


「なんだと!?」(「ひっ! 兄貴!!」)


 モッサムを驚かせたのはそれだけでは無かった。なんと崇星は魔装を帯びていた。自分が誇りにしていた技を目の前の小僧が易々と使っていた事に驚きを隠せない。


 先程の一撃の中で崇星は魔装を発動し、モッサムの大剣を避け地面に食い込む瞬間に彼の剣を折っていた。


「これでお前は剣を使えなくなったな…」


 崇星は一瞬でモッサムの前に移動する。


「くっ!!」


「…まあでも、この一撃で終わるから関係無いけどな!!」


 崇星の拳は静かに振るわれた。型に模型が上手く入った時の様に音は無く、モッサムの腹を衝撃が貫く。

 そしてモッサムはその場に気を失い倒れこんだ。


「もう、店の人間に迷惑かけんなよな。」


 モッサムの子分っぽい奴はその言葉に恐怖したのか大事な兄貴を残して逃げて行ってしまった。全く忠義という物は無いのか?兄貴なんだろう。

 そして俺のやる事はっと…

 モッサムの服のポケットから財布を取り出す。


「おばちゃん!! 店の修理代はそれで足りる?」


「ん?ああ。余りあるくらいだよ。」


「なら良かった。」


 さて、悪い奴の成敗終わったし俺も飯を食おうか。いや〜良いことすると清々しいなぁ。


「崇星はえげつないことするよなあ。目覚めて起きたら一文無しだろ。あいつ。」


「店の人間に迷惑かけたんだからあの位当然だろ。それに、床壊したのあいつだし。」


「はは…」


 しかし、今回の一戦でちゃんと魔装は使えていた。修行の成果が着実と結果になってきているな。それを確認できた事だけは奴に感謝だな。




 ***




 モッサムの子分は崇星からより遠くへ逃げようとしていた。長年最強だと慕っていた兄貴がたった一人の子供に負けたのだ。冷静でいられる筈が無い。必死になって逃げた。なりふり構わずに。


 街から離れ、人が段々と見えなくなってきてから、ある家々の路地裏に逃げ込んだ。

  だが…そこには先着がいた。帽子を被り表情が見えない奇妙な人間が。


「お困りの様ですね。迷える子羊よ」


 男はニタリと笑った。

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