#5 再び異空間
崇星が召喚された世界には一つの惑星と八つの衛星が存在する。
今崇星がいる惑星は「ペルソナ」という名がついており世界の人口の約8割が此処で生活している。表面積は地球の20倍以上もあり様々な種族が共存し合いながら生きているが、1日の長さは24時間で四季も見られるという点では地球と余り変わらない。
八つの衛星にはそれぞれ『神』が代々土地の主人として君臨している。
『神』とは世界から崇められ、畏れられ、はたまた時に信仰となる程の実力をその身に宿し、抗うことを決して許さない屈強の猛者達のことである。
気高き八人の『神』の名を今此処に記す。
天神
魔神
武神
闘神
龍神
冥神
妖神
戯神
さて此処に覇神の名が轟くのは何時の日になるのか。
異世界に送り込まれた少年の冒険は、始まったばかりだ。
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「出ろーーー!! 俺の魔ほおぉーーーー!!!」
俺は今絶賛魔法練習中である。ミーシャに教えて貰って、少しずつではあるが体内の魔力循環のコツを掴んできた。身体を血管を伝って魔力が流れるイメージをすると上手く循環できる。
だが、いつまで経っても魔力放出が出来ない。放出量とかの問題では無く、漏れすらしないのだ。
つまりこのままでは魔法がつかえない。俺、ピーーンチ!!
魔法ってのは男のロマンであり、異世界に行ったら誰もが憧れるものだよ。空だって飛びたいし、火だって出したい。
なのにミーシャは、
「才能とか関係なしで、そういう体質なのかもしれません。もしかするともう崇星は魔法を使うのを潔く諦めて、武器を持って戦うことを優先した方がいいかもしれないです。」
って言うんだぜ。
やーーだーーー!まだ諦めたくなーーーい!!
一方レギーナは、
「なんで魔力循環は出来るのに放出が出来ないのかしら。‥‥お仕置きが必要ね。切り落とそうかしら?」
(と言いつつ、『ピー』を切断する手まねをしてきた。)
「ヒィッ!」
咄嗟に『ピー』を両手で隠す。あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ。
だがどうしてだ。魔法を使用する為の過程らしきものは全てマスターしたのに。ひょっとするとこれは、あのまな板女神の不手際で俺が被害を被ってるって感じ?
転生したけど、俺だけ力持ってませんでした的なノリか?
仮にそうだとすれば‥‥さらば、マイ魔法生活(泣)
いいんだ、魔法をぶっ放すなんて所詮俺には出過ぎた夢だったんだ。猫耳を体験できただけで我慢しておこう。ああ猫耳有り難やー。
と思ってると吉報が入ってきた。どうやらギルが何か思い出したらしい。
「なあ、噂なんだけどよ、此処のギルドは教会が併設されてるだろ、此間魔法が使いたくて使いたくてしょうがなかった冒険者が、一日中 “魔法が使えますように” って女神像に向かって必死に祈っていたら、次の日本当に魔法を出せる様になったって聞いたぜ。」
「はいはい、どうせ根も葉もない噂なんだから間に受ける必要ねえよ。そんなことで魔法を使えるようになるなら、世界中魔法使いで溢れているっつうの。」
「そこなんだが、実は同じ事をした冒険者の内、普段からの世間体の評判がいい奴だけが魔法を使える様になったって聞いたぜ。要するに、心根のいい奴だけが女神の加護を受けたって事だな。」
心根のいい奴‥‥俺だw
だが冗談抜きで俺にも可能性が出てきたぞ。前例があるんだから試さない訳にはいかない。
「ほ、本当か!? でかしたぞギル。これで俺も魔法を使え‥‥」
‥‥ん?待てよ、 女神像だと。何かすっげー違和感を感じる。まさかとは思うが‥‥
「その教会ってどんな神様信仰してるんだ?」
「女神アテナだけど、それがどうかしたのか?」
やっぱりかーー!!
まさかあの女神、この世界でも女神してたのか。しかも教会ってことは規模大きめだな、地球とは違って全面に自分を押し出しているってわけか。そうだ、久しぶりにあいつの面拝んでやろう。そのついでに魔法使える様にして貰うってことで。
「なら早速その教会に行こうぜ! 」
「へぇ、お前って神を信じるのか。見た目によらず信仰心ってもんを持ってやがんだな。てっきり無神論者かと思ったぜ。」
まあ実際にその女神様に会ってるしな。信仰心は無いけど。
***
「こちらは女神アテナ様をお祀りしております、冒険者ギルド併設レクリア教会でございます。」
今俺たちは修道女さんに教会の説明をして貰いながら徐々に女神像へと向かっている。
教会の中は最近建築したばかりに思えるほど、美しい透明のクリスタルの様な少し青みがかかった素材で細かい装飾まで綺麗にその空間を構成していた。
やはり目立つのは、何と言っても各部屋の天井に散りばめられた輝かしい宝石達だ。何と石自体が光を発しているらしく、部屋全体で一つの宇宙を喚起させる。また、所々に赤、青、黄のカラフルに配置されたガラスに外の光が差し込み、透過した光はクリスタル床のどこまでも奥深くまで伸び、反射した残りの光も部屋を照らしだし、その時間、その瞬間にしか見ることのできない時間限定のアートを創り出す。
もっともあの女神には勿体無い位だ。
しかしさっきから、俺の行く手を阻む様に、進む方向で何かしらの妨害が起こっている。
先ずは、行く先にバナナの皮。ギルが犠牲になった。
「おかしいですね、先程ここは掃除したはずなのですが。」
修道女さんが撤去。
次は、魔法式レコード機からあの音楽が聞こえる。
チャッララッラ ランラン チャッララッラ ランラン
「3歩進んで2歩さが‥‥って下がるか!ボケ!! 」
「おかしいですね。この時間は聖歌が流れるはずなのですが。」
修道女さんがレコード回収。
三つ目、‥‥‥
「あれ、こんなところに本が落ちてます。おかしいですね。図書室は違う部屋なのですが。」
何だ?あの本どっかで見覚えがあるような気が。
「誰かの日記みたいですね。読んでみますか。手掛かりになるかもしれません。
えーコホン。それでは。
8月10日 今日も太陽は俺を祝福してくれてるようだぜ、我子達。そんなてめえらに最高の魂誘闇歌を贈るぜ。
俺の心はいつだって超爆嵐、
頂点を奪え学内聖戦、
すべての順序はこの俺が最速、
怒った俺はいつも以上に冷酷、
止むことのないこの俺の支配欲、
暴力こそがこの俺の武器‥「ちょ、ストーーーーップ!!!! 」‥?」
「そ、それ以上読むのはや、やめてけろ!!」
「「「「けろ?」」」」
そ、それは中学三年生の夏まだ厨二病を拗らせていた俺が書いた、毎日ラップ入りの日記だ。何で此処にあるんだよ。
ああああああああ、恥ずかしい。
「こんなくせぇポエムよく思いついたなこいつ。しかし日記なら名前ぐらい書いてねぇのか?」
「ギクッ。い、いやあ、そういうのは人の物だし止めといた方がいいと思うなぁ。」
「何でだよ、名前見るだけだぜ。
えーと‥『漆黒の断罪者』‥? 何だこれ?」
「もう止めてあげようぜ!!なあ!!! 」
(汗垂らしつつ必死に)
「何でそんな焦ってんだ? お前。そんなに早く女神像を見たいのか?
まあいいか。次が女神像の部屋だぜ。多分。」
おい、クソ女神、もう許さねえ。意地でもお前が俺を近ずけさせたくなかった理由暴いてやるぜ。覚えてろよ。
しかし、部屋の扉を開けた瞬間その答えは直ぐに分かった。
「皆様、到着致しました。こちらが女神アテナ様を模ったと言われている像で御座います。」
全員の視線はアテナ像ただ一点に集まる。これ迄通過してきたよりも一回り大きな部屋の中央に置かれたその像にだ。
周りには、お祈りやお詣りが出来るよう像を囲むようにして座席が設けられている。
「凄く綺麗です。」
「へぇ、女の私が見ても美しいと感じるわ。」
「こんな完璧美人いるわけないだろ。俺は信じねーぞ。」
其々が各々の感想を述べていく中一人だけは別の事を考えていた。
「ふふ、ふふふ。」
「どうしたんだ?崇星?」
声を張り上げて崇星は言った、
「この女神は仮にも神を名乗っている癖に大きな嘘をついている! ! 己を受け入れる事に恐れをなし、現実を曲げ、信仰心をもつ信者にまで虚偽の像を崇めさせたのだ!
そう‥‥」
ズビシッとアテナ像に向かって指をさす。
「この女神は自分の胸を四カップ以上盛っている!!!! 」
ざまあ無いぜ、あのまな板女神。今の事実が知れ渡れば、お前の信者の少なくとも半数は違う神に寝返るだろうさ。厨二病をバラされる事の恨みは怖いのだ〜!そろそろ胸が無い事を自覚するんだな。
「へえ、で、誰に胸が無いって?」
「そんなのアテナに決まって‥‥‥‥え? 」
振り返るとそこに居たのは拳に殺気の塊を纏わせ、怒りで額を真っ赤にしている女神様だった。
何で此処にいるんd‥‥
「くらえーー!! 神コロパーーーンチ!!!!」
「ぐべふぉ!! 」
どうやら神コロパンチとは、女神様による連続パンチのことらしい。と言うか、そのネーミングだと神を殺しちゃうんだから自滅だろ。
「ごちゃごちゃうるさーーい!! 」
「ごべふぉ!! 」
思ったよりも一撃一撃が重いくて抵抗出来ない。華奢な身体の何処にそんな力があるのか。ま、まずい。このままでは意識が薄れて‥‥くぱ(気絶)。
***
目覚めるとそこは俺が女神と初めて会い、異世界へと送り出された空間だった。
「早く起きなさいよ、この類人猿もどき。」
「気絶させたのはお前だろうが。その癖にそんな言い方は無いだろ。せめて
“ 起きて、崇星きゅん。”くらい言ってもらわないと割に合わないぞ。」
「どうして貴方みたいな下衆の幼馴染みプレイに付き合わなければならないのよ。気高い女神の品が竦んじゃうわ。一生お断りね。」
相変わらず可愛くない女神だ。
そもそも、俺はこいつのせいで異世界へ行った初日に遭難するし、漸く人を見つけても怪獣に襲われるし、気がついたら目の前に変態女がいるし、魔法は使えないし、厨二病時代の黒歴史を掘られるしで苦労の連続を強いられているのだ。
だから、責めて俺には優しく接して欲しいものだ。
まあいい。本題は俺の方にある。これ迄いくら練習しても使えなかった魔法を使えるようにしてもらう事だ。それが済んだらさっさと帰ろう、碌な事が起こらないからな。
「ところで、アテナ様、俺にも魔法を使えるようにして下さい。折角の異世界生活なんです!お願いします!!」
この時、アテナは何かを企んだ邪悪な笑みを浮かべていた。視線は崇星の方を向き、蔑みの表情を見せていた。
「そうね…私は寛大で美しい女神、アテナ!! だから、貴方にも魔法を使えるようにして上げましょう!! 」
お、やった。思ったより事がスムーズに進んだぞ。
「お、おお〜! 」
「ですが、只とは言いません。冒険者の噂の通りに一日中、ここで私に心からの感謝と平伏の祈りを捧げなさい。それが出来ないと魔法は没収ね。貴方の魔法生活とやらもお終いよ。オーホッホッホー。 」
下衆な笑いが異空間の木霊する。崇星は女神の急な横暴に呆気にとられていた。
「‥‥は? 一日中?しかも女神本人の前で? 」
だよな、この女神に限って何の代償も無しに俺の理になる事はしないだろうからな。
しかし困った。一日中こいつにお祈りだと。正直やだ。でも、あの女神の言う事だ、やらないと本当に魔法が使えないままかもしれない。
「ほらほら、どうしたのかしら! このままだと一生魔法が使えないのよ。それに私は魔法を使って人生を成功させてきた人間を何人も見ているのよ!魔法を使ってあんなことやこんなこと、周りには金と女、実力がモノを言うあの世界では魔法は一種のステータスなの。
さあさあ、変なプライドなんて捨てて貴方の額を地面に擦り付けながら『尊き女神のアテナ様!』って言いなさな。きっと田舎のお母さんも喜ぶわよ。早く言っちゃって楽になりなさい。 あ、カツ丼食べる?。」
お前は取調室の警察官かよ。こんな警察官、『吐け』って言われても言う事聞く奴いねえっつの。
だが…
「尊き女神のアテナ様! どうか、どうか私に魔法を使える様にして下さい!! 」
崇星は素直にアテナの言う通りにした。頭を強く打ち付けすぎて
額をつけている地面から軽く湯気が出ている。
俺は魔法を撃てる様になる為ならプライドなんて要らない。やれって言われれば道端の干からびたミミズにだって頭下げてやるぜ。ビバッ俺の魔法生活!!
若干女神も退いていた。まさか本当にやるとは思わなかったんだろう。
「だ、ダメよ。まだこれから24時間あるんだから。」
辛うじて出た言葉がこれである。それを聞いた崇星は行動に出る。
「女神様、我々人類の為に職務を全うなさっておられるだなんて私、顔も上げられません。ですが、私は貴方様に少し疲れが見えてきたと感じております。その原因が我々であったならばお許し賜りたく存じます。 」
「は、はあ… 」
「恐縮ですが私、これでもマッサージは結構上手い方でございます。寮母さんにも『ベストマッサージスト大賞』を貰った程の腕前、きっと貴方様のお疲れを癒して差し上げられるかと。」
そう言い、崇星は女神の元へ近づく。
「さあ、緊張なさらずにこちらにお願いします。」
「え、ええ!? ちょっと? 」
女神はそのまま仰向けにさせられてしまう。
「では最高のひと時をお楽しみ下さい。」
「ごくん、変なこと…しないわよ…ね? 」
崇星はニコッリと笑う。
「ええ、当然です。我慢しなくても言いですからね。」
そして、そっと崇星の手が女神の肌に触れる。
「ひゃう!」
そのままマッサージを始める崇星。
この間、少しくすぐったいながらも女神は崇星のテクに耐えていた。
「どうです?気持ち良いでしょう。さあ次はここですよ。」
「ああ、そ、そこは!! 」
「ここが一番気持ち良いのですね。では、ここを重点的にやりましょうか。」(にっこり)
「だ、ダメ、ダメだってばぁ〜!! あんっ! やめてっ! ああ!! 」
だが、アテナもこれ迄我慢していたからか、身体が思う様に言うことを聞かず、なすがままに崇星の手は容赦なくアテナの身体全体を蹂躙した。
その日、女神の異空間『クロノスの狭間』には女神の甘い美声が響き渡ったそうな。
***
「どうでした? 僕のマッサージは?」
「‥‥‥‥」
「お気に召さなかったのですか?なら、もう少s…」
「す、凄いま、満足よ!!」
「ですが、まだ24時間は経っておりません。ですので満足頂けたのなら残りの時間もさせて頂きますよ。」
「もうやめて‥‥。もう、ま、魔法使える様にしてあげるからあ。」
「え、でも最初に一日中と言ったのは女神様ですよ。それでも宜しいので? 」
「全然良いです…。私が悪かったんです…。」
どこか女神の気が抜けている感じがするが上手くいった。名ずけて『マッサージ骨抜き作成』。秀逸な作戦だったぜ!! 概要はまあ、子供には言えない様なことだけどな。
「じゃあ宜しく頼みます!! 女神様!!」
「‥‥‥‥ 」
「あ、あれ? 女神様?」
「‥‥‥‥ 」
「おーーい女神様」
「‥‥‥‥ 」
「まな板様〜 」
「‥‥‥‥ 」
目の前で手を振るが反応が無い。
…女神が気絶している。やり過ぎてしまった様だ。…なんかごめんな女神様。
果たして女神は目覚めたら魔法を使える様にしてくれるのだろうか? 一抹の不安が崇星の脳内を横切ったのであった。
シリアス展開にしたいのに中々ストーリーが進まずそこまでいけません。小説書くのって難しいなあ。