#2 事の始まり、そして異世界へ part2
突然だがここで問題だ、俺はどこにいるか?
そう。俺は今、女神の計らいによって異世界に来ている。いや来させられたと言った方が正しいかもしれない。だが来てしまったものは来てしまったのだ。これをどうこう言って無駄に時間を潰す程俺は馬鹿じゃない。それに異世界に関しての知識なら、漫画やアニメで沢山知っている。
だからこういう時は冷静になる事が大切だ。深呼吸ぅー深呼吸ぅー すーはーすーはーー。よし呼吸は整った。
気持ちの切り替えも済んだ事だし、まずは今の情報確認をしよう。
場所 砂漠…?ぽい所(随分と土地の起伏が激しいな)
天候、気温 晴れ(とにかく暑い)
持ち物 懐中電灯、財布、メモ帳、筆記用具
服装 高天原高校の制服、革靴
これを踏まえて俺が今できる事は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら不思議、何にも御座いません。っておいぃぃ!!!
せめて何処か街の近くに送れよあのまな板女神‼︎ どうしてこんなところを選んだんだよ!てかここ選ぶならせめて水か何か持たせろよ!俺はここの地理すらも理解してないんだぞ‼︎
はぁー異世界へ来てこんな初歩で躓くとは。予想できるかこんなこと。
この後俺はここの周辺を探索してみることに決めた。水の確保を最優先として、できれば食料になるものや身をひそめる場所を探そう。
水さえあれば多少食べなくても数日は生きていけるだろうから、その間に近くの街に出て食料を確保するのが第一目標だ。
しかし、ここの凸凹した地形はどこまで続いているんだ? 歩いても歩いても前から同じ地形ばかりだ。
俺は他の地形に比べて高くなっている場所を探した。そこに行けばこの地形がどこまで続いているのか、水はどこに有るのかを一瞬で見渡せると思ったからだ。
そして探索を続けること三日後、
俺は空腹を抑えながらようやく砂漠の中にそびえ立っている高い1つの砂丘を見つけた。思ったより大きかったが、意外にも登りきるのにそんなに時間もかからなかったし、疲労感も大して無かった。ひょっとしてこれが女神の言ってた異世界補正ってやつか? ただ俺の空腹もピークに近い。補正が無かったら今俺はここで野たれ死んでいただろう。が、それでもタイムリミットまで後1日もないと感じる。急がないとな。
砂丘の上で俺は辺りを見渡した。こうして見るとこの砂漠は相当遠くまで広がっているのが伺える。だが、凸凹とした地形は途中で途切れており、それを超えた向こう側にはほぼ水平線上に美しく整った起伏のない砂漠が広がっている。
ん?ここから向かって東の方に馬車が走っているのが見える。距離は8km先くらいか?補正のおかげで目も良くなっているらしい。
皆んなフードを被っていてよく分からないが、恐らく人間だろう。取り敢えずそこに行けば何とかなるかもしれない。助けて貰おう。
そして俺は一気に砂漠を駆け抜けた。
この時、崇星は馬車に追いつくのに夢中できずいていないが、崇星の移動速度は時速320kmを優に超えていた。
馬車が走っていたのは確かここら辺だった。だとしたら、まだそんなに遠くには行ってないはずだ。
俺は馬車の足跡を頼りに歩を進めながら、暫くして馬車に追いついた。
得体のしれない格好で、馬の速さを超える速度で接近してきた俺に馬車に乗っていた2人のど肝を抜かれている様子が、顔を隠しているフードの上からでも伺える。
背が高い方が男(175㎝くらい)で、もう1人、背の低い方は女(140㎝くらい)だろう。
あ、女が男の後ろに隠れた。そこまで怖がらんでも。なんかショックだな。
男が威圧感を出しながら大声で叫ぶ。
「お前、一体何もんだ‼︎ 今の速度、騎士落ちの盗賊か? 」
「い、いえ 違います。ちょっとここら辺で道に迷っちゃって。」
「嘘つくな‼︎
見たところ手持ちはなさそうだが、物を恵んでもらう振りをして俺らから金品を盗むって算段だな。
ふん、馬鹿が。 この『スクルウリ砂漠』は突っ切るのに一か月はかかるんだ。それなのに何の用意もせずに、こんな砂漠を横断するわけがないだろ!」
ですよねー。 今俺めっちゃ怪しいよなぁ。でもどうにかして誤解をとかないと。でもどうすれば……
「きっと近くに仲間がいるんだな。そうだろ! そうに決まっ「違います」て‥‥?」
「俺は本当にここで道に迷ってたんです。それにかなり遠くからここまで来たので、ここらへんの常識に疎くて砂漠で大変な目に遭いました。お願いです。少しの間だけでいいので御一緒させて頂けませんか?」
「お前が嘘をついているかもしれない「それはありません! 」だろ‥‥」
「もし盗みを働くんだったら、いつ人が現れるか分からないこんな砂漠よりも、もっと人が多くて盗みに最適な場所は沢山あるじゃないですか。」
「く‥‥それはそうだが。だけど、おr「ギル‼︎ 」eは‥‥?」
今フード男の言葉を遮ったのは俺じゃない。隣の同じくフードを被った女の子だ。
「彼はここで迷子になったっていってるんです。それに私には彼が嘘をついているとは思えないです。彼をせめて街までは送ってあげるべきです。」
フードの女の子は少し穏やかで子供っぽさを感じる喋り方をする。
それに、この子は俺の味方をしてくれてるみたいだ。
「だけどよ〜。 コイツ得体が知れないんだぜ。そんな奴と‥‥
はぁ わかったよ。コイツも一緒に街まで連れてってやる。それでいいか、ミーシャ?」
少女はこくりと頷く。
どうやら男の方が女の子の訴えかける目に耐え切れず折れてしまったようだ。
女の子が俺の方を向く。
「初めまして。私はミーシャ・カタルジアと言います。」
そう言って彼女は日光から身を守るのが目的であろうフードを脱いだ。
そして俺はそこにあった光景に目を見張った。そして思わず、
「ネコ耳きたーーーーーーーー!!!」
と我慢できず叫んでしまった。
「異世界ものはやはりネコ耳娘がいないことなどあってはならんのだよそもそも男の夢はそのもふもふを体感することであるからして世界の起源と終焉全ての過去と未来において俺の好奇心と興奮はそこに向くべきであってネコ耳は愛でられ触れられ知的好奇心をそそるそのシルエットがその自我と存在意義そのものだから今ここつまりもふもふ天国という名の理想郷は目の前にありつつだが理想と現実の齟齬さえも愛せてしまうネコ耳は己の生き甲斐でありかくして人生でありそれこそがまたネコ耳であり欲求と恐怖のはざまにゆれるおのれをそこに投影しネコ耳を我がも…‥ブツブツ」
「す、すみません‥‥。」
ん?おっとこれはまずったな。つい自分の世界に入ってしまった。
若干ミーシャちゃんも引いてるな。
おい男の方が俺を蔑むような目で見てやがる(ていうかお前は犬耳なのな)(いつの間にフード脱いだんだ?)。お前は毎日ネコ耳をそばで見ていたからいいかもしんないけど、俺は今日が初めてなんだ。興奮して何が悪い、文句あんのか? ああ?
「あ、いえネコ耳が初めてだったんで」
「何?、獣人を見るのが初めてってことか?てこたぁおめえ相当遠くから来たんだな。無一文でよくここまで来れたもんだ。」
異世界から来たなんて言えないよな。
「あ、申し遅れました。俺、東雲崇星っていいます。好物は寮母さん特製ブラックカレー、趣味は漫画とアニメ鑑賞です。これから宜しくお願いします‼︎ 」
「まんg‥‥? まあそれはいい。俺はギル・ヘレタニアだ。ギルって呼んでくれ。宜しくな。」
さっきまでの印象と変わって案外親しみやすい人なのかもしれない。
それに甘えて気になる事を幾つか聞いてみるか。
「ところで、2人は何故ここに?」
「私達はここから西に数Kmの『ペルル王国』で冒険者をやっていて、この砂漠を横断したところにある国『レオーネ共和国』ヘ商売用物資を届ける依頼を受けてたんです。
本当は公共のルートで行けばもっと安全だったんですが、どうしてもこの砂漠の砂が欲しかったのでこっちのルートを通って来たんです。」
砂漠の砂?何か特殊なものでも含まれてるのか?そういえば、この砂漠、俺が知っている砂漠と違って少し灰色が混ざっている。この色はもしかして、
「気づきましたか?ここの砂は大部分が金属分で出来ているんです。そこから上手く鉄分を抽出すれば、日常品や武器として加工することができます。まあ危険を伴いますし体力も使うので他の冒険者は好き好んで私達みたいなことはしないんですけど。」
なるほど、じゃあ俺がここでミーシャちゃん達と出くわさなかったら本当に食料もなく誰にも会わず野たれ死んでたということか。
あのまな板女神の計画性の無さにほとほと呆れるぜ。
「じゃあもう一つ質問していいか。 ミーシャちゃん達は魔法使えるのか? あと、もし使えるんだったら俺にも魔法教えてくんないかな? 」
やっぱり異世界に来たのだから、魔法はお約束だろう。今聞いておくべきだ。ったく厨二病精神をくすぐるぜぃ。おらわくわくしてきたぞ!
「はい私は魔法が使えます。特化魔法は風魔法です。あくまで使えるというだけで、あまり戦闘には役立ちません。あと私のことはミーシャと呼び捨てで構わないです。」
「俺は魔法が使えねー。だがいいんだ、男は腕っぷしで勝負だぜ!ちまちました魔法なんかに頼らねぇさ。そう思うだろ崇星‼︎」
へえ、魔法は全員が使えるわけではないのか。俺は使えるのかな?
「でもギルは小さい頃ヘタレニアって馬鹿にされてました。」
「バ、バカ野郎。あれは子供の頃の話だろ。今は俺は勇敢な冒険者なんだぞ、ちょっとやそっとで怖じけづいたりしねぇさ。」
ほぅ、こんな無駄に熱い人でも昔はヘタレだったのか。人って変わるもんなんだな。
「ところで崇星は魔法をどこまで知ってるんですか?」
「いやそれが全く知らなくて。出来れば基礎から教えて欲しいんだけど。」
「分かりました。ではまず魔素の話からです。魔素はこの世界のあらゆるところに存在します。当然私達の中にも存在します。そして身体の中にある魔力の放出こそが魔法であり、魔力量即ち魔力とは魔素の放出量のことです。
魔力は私達の身体の中にある分しか使えないです。だから残量魔力が0になれば、自然回復で身体が再び周りから魔素取り込むまでは魔法が使えないです。
だから魔法が使える人とそうでない人の差もそれが原因で、主に魔法を使えない人は
1. 体内に溜められる魔素が少ない、もしくは自然魔素回復速度が遅い。
2. 魔素の放出ができない。
の2つが原因です。
崇星もこの2つが無ければ魔法を使えると思います。」
ほほうつまり俺にも魔法が使えるかもしれないと。これは期待大だな。
「そして次は詠唱の話です。詠唱とは魔素を体外へ放出するときに魔素を他の物質に変えるための潤滑油のようなものです。例えば、魔素は火や水、雷、様々な物に形を変えます。それを手助けするのが詠唱の目的だと思ってください。まあ稀に無詠唱で魔法を出せる人間がいますけど。
そして人にはそれぞれ魔素を変換した時の生成物によって変換しやすいものとそうでないものが存在します。
一般に自分の中で変換しやすいものを特化属性又は特化魔法というのです。
私の場合は特化魔法は風です。」
成る程な、じゃあ俺にも得意な魔法と不得意な魔法があるわけか。雷とか使えたらかっこよさそうだな。
「また他にも無属性魔法といい、ものを生成するのではなく現象を引き起こす魔法も存在します。 また、呪術や陰陽道、遁術は魔法から派生した流派のようなもので、原理は同じです。あまり見かけませんが。」
陰陽道や呪術はどうやらマイナーようだ。使っている人がいたら教えて貰おう。 それとも一族の秘術だったりするのか?
「以上で魔法の基礎は終わりです。後は言葉で説明するよりも私の魔法を見てもらった方がいいと思います。では行きます。」
おっ、ようやく実践か。一体どんな魔法を見せてくれるのか。
『吹き襲え-剛風(ブラスト)』
砂漠の大地に突然突風が吹き、周りの砂を押し上げ風は上昇していく。さすがミーシャの十八番だけあってその範囲はかなり広く半径100mはあると思う。上昇した砂は暫く空気中に止まり1m先が見えない。まさかこれ程とは。
魔法を使った当の本人は今ので魔力を大部消費したらしく、大分息が乱れている。
「おいおい、何もそこまでの魔法使わなくていいだろ。砂塗れだぜ、ったく。」
後ろで1人つまんなそうにミーシャの話を聞いていたギルが悪態をついている。
「いや〜、これはビックリだよ。魔法ってこんなにすごいんだな。」
「はい。まあ私のとっておきでしたからね。これくらい当然です。」
少しどや顔になっているミーシャも可愛いな。俺に褒められて嬉しいのか、耳と尻尾をパタパタさせている。
それから色々とミーシャが魔法を披露してくれたがどれも俺を驚かせるものばかりだった。
俺も魔法を使ってみたくなったのだが、退屈そうにしているギルからの要望もあり、ここで初回のミーシャによる魔法講義は終了した。