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巧妙な嘘のつき方

委員長の名前は友達の案からいただきました。

 陽生はハヤシライス大盛りに単品のオムレツを乗せて、ご満悦の様子だった。花凛も笑顔で食後のアイスクリームを食べている。花凛は別に食い意地を張っている訳ではなく、ただ甘いものが好きなだけだ。そのあたりは普通の女の子っぽいなと、ふと思った。そんな僕も、別にアイスクリームを奢ってもらう気はなかったのだが、花凛が3つ頼んだ――正確には2つ頼もうとして、陽生が間髪入れず3つと訂正した――ので、ありがたくいただいている。


 席待ちのお客さんがいたのを見て、アイスクリームだけなら持って出てしまおうと花凛が言うので、店を出た。店を出ると、ちょうど店の前の道を通っていた委員長に出くわした。


「あら、いつもの3人組じゃない?」


 いつものと言いつつ少し驚いた顔をしている。クラスの中ではいつも一緒にいると言われてもおかしくないくらいだけど、さすがにこんなところで会うとは思っていなかったのだろうか。


「お、佳奈ちゃん!偶然だねー」

「……高牧さん、今日の練習こなかったのはサボりってことでいいのかなー?」

「いやいや、今日は用事があったからさー。……あ!でもちゃんと朝早く起きて自主練習はしたから、その分は大丈夫!」

「ん、ならまぁ……仕方ないか。今日はほぼ自主練に近いようなものだったしね」


 でも3人組の中に花凛がいることを思い出して、笑顔で問い詰める委員長。よく見ると背中にラケットを背負っている。どうもバドミントンの部活帰りのようだ。それに対して花凛の目は風になびくこいのぼりのように優雅に泳いでいる。アイスクリームなんか持っちゃっているので、どう見てもサボってるようにしか見えない。しかしどうやら自主練習をしたのは本当のようで、委員長もそれを察したのか少しは納得してくれたようだった。


「私もこれから残ってる宿題あるし、早く帰らなくちゃ。羽崎君も宿題忘れないようにね」

「え、なんで僕?」

「だって去年忘れてたじゃない」


 いきなり委員長に名指しされ僕は不意打ちを食らってしまった。


「大丈夫だよ。航には俺がついてるし。俺はもう全部宿題終わってるから、色々助けるよ」

「意外だな、月岡君も最後に頑張るタイプだと思ってたのに……。それじゃあ羽崎君のほうは大丈夫かな、私もがんばらなくちゃ。またね!」


 去年宿題忘れてたっけ……。正直覚えていなかったが、必死に思い出そうとしているうちに委員長は去ってしまっていた。忘れたって言っても名前を書くのを忘れただけだったはず、と思い出してももう遅かった。

 不意打ちでそれどころではなかったし、陽生がすごい真面目に話していたので思わずスルーしてしまったが、こいつは宿題を予め終わらせておくタイプなんかではない。しかも残念ながら、委員長の言う最後に頑張るタイプでもないのだ。そのせいで何度煮え湯を飲まされたことかわからない。


 委員長を見送ったあと、陽生が時計を見ながら静かに言う。


「さて、そろそろ大決戦の時間かな……航、委員長の前では航を助けると行っていたけれど、大決戦になると話は別だよ。俺、本気で行くから」

「……それはこっちのセリフだ。僕だって負けるつもりはない」

「今年こそ絶対勝つからね!そのための自主練習だし!」


 時計は午後2時を回っていて、太陽も大決戦を前に精一杯僕らを照らしてくれた。そんな中僕らは船着き場のベンチへ、まるで戦場へ向かう兵士のように、それぞれ複雑な心境を抱えながら戻っていった。

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