腹ごしらえから入るスタイル
20XX年。8月31日。
太陽が僕らの真上から、圧力をかけるかのように強く照りつけくる。
吹き抜ける風が潮の匂いで満たされている中、僕らは海の青を見つめながら、船着き場のベンチで座っていた。
「暑いよー。ヨウセイはまだこないの?」
「うん、もうそろそろ着いてもいい頃なんだけどね」
花凛が足をじたばたさせながら必死に暑さに耐えている。暑いと言いながら、彼女は至って元気だ。
僕はもう足をぶらぶらさせる元気すらないのに、彼女は立ち上がって周りを駆け回りながら様子を見ている。
僕らはかれこれ30分待たされていた。約束は12時だったが、今は既に12時半になろうとしている。そりゃあ遅れるってメールは来たけれど、それにしてもここまで待たされるとは思っていないわけで。
こんなに遅れるなら最初から何分遅れるってメールに書いてくれても――
「ごめんごめん。……ふぅ、はぁ……待った?」
「待ったどころの話じゃないよ!遅すぎ!」
声が聞こえて前を見ると、人の倍は汗をかいているだろう油汗まみれのヨウセイ――
ならぬ、陽生が息を切らしながら到着していた。こいつが走ってくるとは。
「まぁこれで全員揃ったんだからさ」
「え、もしかして、もう始めちゃうの?」
「当たり前でしょ?こっちはヨウセイ待ちの間にウォーミングアップだって済ませてるんだからね!」
別に始める気は全くなかったけど、その為に集まっただけあって陽生は既に気にしている。その気持ちを知ってか知らずか、走った疲れがとれない陽生を前にしながら花凛が力こぶしを作ってみせる。いや、お前これから何をするつもりなんだよ。全然力とか使わないし、そもそもウォーミングアップってなんだよ。さすがの陽生も若干呆れ気味だ。
「でもさ、ちょっとお腹空かない?腹が減ってはなんとやらって言うし、ここはひとつ、お昼ご飯を食べてからというのはどう?」
こいつ完全に逃げ状態だ。でも悪くない相談だと思う。別に反対する理由もない。
「確かに今日の運命が決まる一大イベントだしね」
「じゃあヨウセイは私たちを待たせた罰としてアイスクリーム奢ってね!」
逃げに徹する陽生にさらりと追い打ちをかけつつ、僕ら三人は大決戦を前にファミレスへと移動した。




