机の中の怪
別に、怖いばかりが怪現象じゃない。
by 宮本政幸
これは、中学二年の時の話。
中学二年の二学期に入ってすぐ、席替えがあった。
前回は通路側の席だったけど、今回は窓際の前から三番目。まだ日差しがキツイのにこれはハズレだと、俺はげんなりしていた。
前の席はあまり話したことのない女子だ。真面目な子で、友達と話しているのを聞くと(盗み聞きではない。断じて!)家がかなり近い場所にあるらしい。
置き勉は一切せず、放課後の彼女の机の中はいつも空っぽになっていた。流石に辞書は手提げに入れて、机の横にあるフックに引っかけて置いていたが。
テスト期間のある日。HRも終わって放課後になったタイミング。
友達の家で一緒に勉強するらしく、その子は放課後そうそうに机の中を空にして席を立っていた。
俺はといえば、自分の机突っ伏していた。
『おーい、政幸やーい。おっちょこちょいの政幸くんやーい』
机の横に立つ俺のイマジナリーフレンド、マサが茶化した調子で話しかけてくる。
まだ周囲にはクラスメイトが多いので、声には出さず会話をする。
何?そんなに解答欄ずらして書いてたのが面白かったかこの鬼畜め!
『うん、あの焦りようは面白かった。まぁ、俺は出てこれなかったけど』
イマジナリーフレンドは保持者の想像の産物だ。
保持者が何かしらに集中している時はイマジナリーフレンドに割ける意識の余裕が無い為、マサが話しかけてくることはない。普通の人間が同時に二つのことを考えるのは難しいのと同じだ。
落ち込んでいても仕方ない。明日もテストがあるのだから帰らなければ。気落ちした身体に言い聞かせて、唸りつつ顔を上げる、と。
机の中の眼と、目があった。
「…………」
前の席の机の中。置き勉をしない主義の主のおかげで空っぽなそこに。
引き出しの一番奥に張り付くように、一対の眼があった。
瞼がないのか瞬きこそしないけれど、何かを探すようにぎょろぎょろと動いている。もっとも、あの眼が周囲を見渡しても自身が引き出しの奥にいるせいで、俺の方向しかまともに見えない気がする。
俺と目があってもこちらに興味がないのか、目玉側からすぐに逸らす。うむ、こっちが幽霊さんをガン無視するのはいつものことだけど、あちらさんに避けられるのは新鮮だ……!
『害はなさそうだし、ほっといて良いんじゃね?』
それで良いよな?あ、でも……。
『どうした?……って、ああ……』
あれ、前の席の女子が中に教科書とか入れたら潰れないか?
後日、それとなーく前の席の子に「なんで置き勉しないの?」と訊いたところ。家が近いから以外に、彼女はこう言った。
「よくわかんないけど、時々教科書とかノートの下の方……机の奥側に入れた方が、赤く汚れちゃうの。それが嫌だから。でも引き出しの奥は汚れてないんだよね、なんでだろ?」
結局、その眼が何者かもわからず(そもそも何者か調べてもいない)、俺は三年になってあの机自体を見ることもなくなった。
今はきっと見も知らぬ後輩に使われているんだろうが、俺は少しだけ心配だった。
目玉、今日も教科書たちに潰されて怪我してるのかな……と……。
机の中の怪 終幕