猫集会の怪
昔、人面犬っぽいのを視て以来、俺は猫派だ。
by宮本政幸
たまに、それが幽霊なのか、幻覚なのか。それとも俺には計り知れない、理解しきれない現実なのかわからなくなる事がある。
その日、俺は友人である青葉と一緒に、商店街で買い食いしてから帰路に着いた。
途中で青葉と別れ、イマジナリーフレンドのマサと並んで歩く。普段学校から寄り道せず帰宅するルートは取れないので、気ままに住宅街を散歩気分で進んでいた。たまに面白いものがあったりするので、ちょっとした冒険気分だ。
いつもは通らない道。二階建ての少し古めのアパート前に差し掛かった時、視界の端に可愛らしいものを見つけた。
アパートの敷地内、少しだけ拓けたそこで、六匹の猫達が集会をしていた。様々な柄の猫達が円陣を組むように集まって、何やらにゃーにゃー騒いでいる。
『お!あれが噂の猫の集会か!初めて見たな』
「話には聞いたことあったけどな。見事な集会っぷりだ」
マサが楽しそうに言う。初めて見るそれに俺もちょっとテンションが上がって、つい声に出して答えた。
慌てて周囲を見回すが、幸い誰もいない。
ただし、猫はいた。
集会参加中の六匹から少しだけ離れた、アパートの一室の扉前。白猫が一匹だけ、ドアを見上げるように座っていた。
あの子だけ仲間はずれ?
『あの部屋があいつの家なんじゃないか?飼い主がまだ帰宅してないから入れないとか』
飼い主、早く帰ってくるか、中にいるなら気付いてくれたらいいな。
『まさか猫が入れなくて困ってたんで~なんて言って、インターホン押すわけにもいかないしな』
今度は声に出さず、脳内だけで会話をしていたら、白猫は部屋に入るのを諦めたのか円陣を組む六匹のもとへ歩いてきた。集会参加者の内、二匹が僅かに退いてやって白猫が円に加わる場所を作る。
数が増えても円を壊さず維持するとか、猫にも何か拘りがあるのやもしれない。というか、賢いな。
そんな風に感心しながら見ていると。
白猫がふと、俺を見つめた。
つられるように、他の猫も。次々と。
一匹。
二匹。
三匹。
四匹。
五匹。
六匹。
七匹。
七対の目が、感情の読み取れないそれが、微動だにせず俺を真っ直ぐに。
『………………』
「………………」
猫は可愛い。
しかし、流石に居心地が悪いというか、気味が悪い。
……帰るか。
『……おう』
さっきまでのテンションはどこへやら。マサも引き気味だった。
まさか買い食いした食べ物の匂いか?匂いのせいか?
俺たち二人は猫の目怖いと言わんばかりに、そそくさとその場を後にした。
一週間後。
母さんからメールで夕食の材料をいくつか頼まれた。学校帰りに商店街で買い物を済ませ、帰路に着く。
隣のクラスの女子が煩いだとか、先生がどうだとか。マサと頭の中だけで会話しながら歩いていると、前方に二人の警官が立っていた。
猫の集会があった、あのアパートの前だった。
無意識に以前と同じルートを取っていたのかと思いつつ通り過ぎようとすると、他にも警官たちがアパートの一室を出入りしているのが見えた。
白猫が見上げていた、あの部屋だ。
「あの、何かあったんですか?」
おそらく部外者が立ち入らないようにする為の見張り役だったのだろう。二人の警官に尋ねた。
「君はこのアパートの住人かい?」
「いえ、ただ家が近いんで気になって」
「そっか。あの部屋で、ご遺体が見つかったんだよ。事件性があるかはまだ微妙な所だけど……。この間も商店街で通り魔があったしね、気をつけて帰るんだよ?」
最近物騒だからね、この辺に猫でも群れてたら和むのに。近頃、野良猫少なくなったから。
にゃぁ。
足元で、猫の鳴き声が聞こえた。
そこには何も、いなかった。
何も。
猫集会の怪 終幕