プロローグ
幽霊は存在するか?と問われれば、「そこに居る、と思いこめば視えるようになる」と俺は答えるだろう。
「政幸、マジ頼むわ!お兄ちゃんを助けると思って!な?」
「知ってるか兄ちゃん。好き好んで心霊スポットに行く自称霊感ありは、だいたいペテン師だ」
平和な平日の夕食時。無心で酢豚をつつく俺に、人生何度目かもわからない心霊スポット同行願いを申し出てきたのは、俺の不詳の兄、信幸だ。
母さんがここに居たら、高校生の弟を深夜外出させるなど何事だと叱ってくれたのだろうが、仕事が恋人と言わんばかりなキャリアウーマンは一週間の出張、父にいたっては海外赴任。今この家に居るのは俺と兄とマサだけだ。
『あー……。兄ちゃんまたあの二人に霊感あり連れてこい!っていわれたな、こりゃ』
まぁ、そんなところだろうな。
……ところでマサ、お前なんでブリッジしてんの?
『ほら、ホラーであるじゃん。ブリッジしたまま高速で迫ってくるやつ。あれって俺も出来るのかなーって思ってさ』
そうか。でも大の男がリビングでブリッジしてるのは気味悪いからやめてくれ。
『ごめんごめん』
マサはへらへら笑って、ブリッジの姿勢を崩しフローリングの床に寝そべった。背中から勢いよく落ちたのにも関わらず、音はしない。
兄ちゃんはまるで神様を拝むように手を合わせて、頼みますわ弟様ぁ!などと言っている。あんたに兄の威厳とプライドはないのか。
仕方ない。なるべく近寄りたくはないけれど、視えない人間だけで行って危険な目に遭われる方が面倒だ。
「わかった。行くよ。かわりに何か奢ってくれってあの二人に伝えといて」
「ありがとう我が弟よ!あ、食器は俺が片付けとくからいいぞ。お前、この間の小テストの点数やばかっただろ?少しでも勉強の時間作らないとな!」
「あー、行かないことにしようかな―。勉強しなきゃだし、心霊スポット行ってる暇なんてないよなーぁ?」
「すみません来てくださいお願いします」
やっぱり情けない。昔はもう少し頼りになる人だったんだが。
背後に回っていたマサが『お前、昔はブラコンだったのにな―。どうしてこうなった!』とか言っているが無視だ。食器を任せて、俺は二階の自室に上がる。『大丈夫、あいつちゃんと行くつもりですよー』とマサが声をかけているが、兄ちゃんには聞こえていない。
マサは兄ちゃんだけでなく、俺以外には認識されていない。
幽霊?そんなオカルトなもんじゃない。
マサは俺の、イマジナリーフレンドだ。