勇者と魔王は作成中です。
その日、『勇者』ライアと『魔王』リトは人間界と魔界の中間に位置するルネア森の小屋に来ていた。
つい最近までライアは影武者のことが周りに悟られ、しばらくの間軟禁状態にされていた。
が、大人しくしていれば反抗する気力がないと見たとか監視の目が少なくなっていた。
そもそもライアの影武者の魔法が上手すぎるため、しょっちゅう抜け出している事を知らない人間達は、ライアが抜け出していたのは只の気まぐれだと思っているようである。
一度影武者を生み出す魔法を使っていたのがバレ、監視されていたというのなら、普通抜け出さなくなるものである。
でもそれで懲りないのがライアであった。
監視の目が少なくなったからと、今度はもっと人にバレないような完成度の高い影武者を作成してリトに会いに此処に足を運んでいたのであった。
懲りない二人である。
「此処で会うのも久しぶりだねー」
「だなー。リトがこっちに会いに来てくれてはいたから会うのは久しぶりじゃないけどなー」
二人でのんびりとした会話をしながら笑い合う二人は何処からどう見ても仲良しな二人であった。『勇者』と『魔王』だという事実を知らない人が見れば、そんな可能性すら欠片も感じないほどの仲良し具合であった。
そしてそんな二人の目の前には、巨大な鍋がある。不気味な色と匂いを発しながら、それはぐつぐつと煮えている。
その中では、精霊の泉の《ウインディーネの涙》と、パキャラ山の《ファイアードラゴンの結晶》、アルターツ草原の《ホワイトウルフの瞳》、リアダーツ洞窟の《メタルキングスライム》が溶け込んでいる。これを固めればある程度の翻訳具は完成する。
まだ、一番肝心な《禁術第17位メフィスト召喚の悪魔の施した魔法陣》は準備さえもしていない。
メフィストへの生贄には魔剣と聖剣の魂を差し出そうと企んでいる二人であるが、まだ異世界に渡るための魔法の詠唱も考えついていないのだ。そんな状況で突然魔剣と聖剣が喪失すれば、自分達がやろうとしていう事がばれて異世界への逃亡計画を断念しなければならないかもしれない。
そう考えて二人はどうしたらいいかと頭を悩ませていた。
「メフィストってどんな奴なんだろーなぁ」
「さぁ? 禁術だし僕知らないなぁ」
「てかさ、魔剣と聖剣は邪魔だから差し出して全然いいというか、寧ろ喜ばしい事だけどさー」
「まぁねー」
「差し出したら差し出したで周りが煩いよなぁー」
「だねー。異世界に渡る魔法もまだ完成してないしー」
何とものほほんとした雰囲気で、二人して話しているが話している内容は決してのほほんと話すような事ではない。
横に並んで座っている二人の会話は続く。
「『勇者』と『魔王』召喚の魔法の詠唱もまだわかんないしなぁ」
「此処百年ぐらい召喚じゃなくて生誕の『勇者』と『魔王』ばっかだしねー。でも今までの資料みた限りは召喚の方は色々な世界から来てるっぽいよ」
そう、資料を見た限り色々な世界から『勇者』や『魔王』は召喚されて居た。例えば『魔法が存在しない世界や傭兵などが活躍する世界、気功術なんてものが発達していた世界――様々だ。
「ということは、つまり召喚魔法ってどの世界でもいいから『勇者』と『魔王』の資格を持った奴をこの世界に連れてくるってものか」
「多分ねー。だから召喚魔法を応用すればおそらく異世界に渡れるはず。この世界からどんな世界にでもいいから飛びだすってのが目標だしー」
「でもなるべく此処と似た方がいいよなぁー。未知の生物とか居たらちょっと怖くないか」
「まぁねー。でもライアと僕が一緒ならどうにもなるかなーって思うんだ」
「まぁなぁ。俺もリトと一緒なら不思議と何も不安じゃないかなぁー。リトと一緒なら何処にいってもいいや」
「だよねー。一人じゃ無理でも二人でなら何か何でも出来そうな気するしねー」
鍋の様子をしばらく見ていた二人は、飽きたのか野外にある椅子に腰かけた。
顔を見合わせて、にこにこと笑いあう。
互いが居れば、例え何処に行ったとしても問題ないと断言できるあたり、二人は驚くほど仲が良いと言えるだろう。
「ところでさ」
「んー?」
ふとライアが何かを言いだそうとして、リトは不思議そうにライアを見上げる。
「さっき魔剣と聖剣差し出したら周り煩いっていったじゃんか」
「うん」
「あれ、差し出さないでメフィストと交渉出来ないかな」
「どうやって? 他の人差し出すのー?」
「いやー、誰も差し出さずにさー、俺とリトでメフィストボコって言う事聞かせられないかなぁとふと思ったっていうか」
さらっとライアが爆弾発言をした。
おそらくこの場に他の人がいたならば、何を言っているんだとでも耳を疑った事だろう。しかしこの場に居るのはライアとリトだけである。
「おぉ、それいいねー」
「だろ? 俺とリトなら出来るかなぁと」
「僕ら歴代の中でもトップクラスに強いって噂だからねー。出来るかも!」
ライアの提案にリトは目を輝かせて頷いている。
「だよなー。それなら今からでも出来るよなぁ」
「だよねー。というか、それでメフィストを僕らに絶対服従にしちゃえばこれからの異世界移住計画の役に立つしさー」
「そうだよなぁ。メフィスト味方に出来ればこれから楽だよなぁ」
「じゃ、今からやってみようかー」
相変わらずのほほんとした空気で、リトが言った。そんなノリでメフィストをボコろうと言いだすあたり、二人して色々ずれている。
そもそも生誕勇者と生誕魔王として育ってきたため、この二人大分常識がない。普通の感覚と言うものがよく理解出来ない。
信頼出来る人なんて互いだけ。
そんな環境で育ってきた二人なのだから当たり前といえば当たり前である。
「なぁ、リト。もし負けたらどうするー?」
「んー、その時はその時で、ライアと一緒に死んじゃうだけだよー」
「まぁ、やりたいようにやって死んだら仕方ないしなぁー」
「だよねー。どっちにしろ異世界にいけなきゃ、僕らどちらかが死ぬまで殺し合わなきゃだし」
今はどうにか殺し合う事から逃げているが、痺れを切らした連中が何をするかはわからない。
多分、その内公開殺し合いをさせられる事だろう。人間と魔族の互いの筆頭の前で、ライアとリトはどちらかが死ぬまで殺しあわされる。
実際にそういう公開殺し合いは『勇者』と『魔王』の間ではあるのだ。
時間はあまりない。
前に『聖戦』が行われてから、十五年目にもうすぐ突入する。『聖戦』の時は近い。それまでに異世界に転移するための魔法が完成しなければどちらかの命が失われる事は間違いないだろう。
二人の実力は互角と言ってよい。互いにどちらが勝ってもおかしくない。
「まぁな、とりあえずやるか」
「うん」
二人は遊びに行くような感覚の会話をして、メフィスト召喚をはじめるのであった。
―――――『勇者』と『魔王』は作成中です。
(『勇者』と『魔王』はその力を持って、メフィストを服従させようとする)