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勇者と魔王は話し合い中です。

 「ライア! 翻訳具の作り方ばっちり模写してきた」

 「おお、材料なんて書いてあった?」

 そこは、ルネア森にある小さな小屋。ベッドで横になりながらリトが来るのを待っていたライアは入ってきたリトの声を聞くなり返事を返す。

 「精霊の泉の《ウインディーネの涙》と、パキャラ山の《ファイアードラゴンの結晶》、アルターツ草原の《ホワイトウルフの瞳》、リアダーツ洞窟の《メタルキングスライム》、禁術認定されてる《禁術第17位メフィスト召喚の悪魔の施した魔法陣》なんだけど!!」

 「うわー、難易度高すぎね?」

 ライアはリトの告げた翻訳具の作るための材料に、思わず顔を歪めた。

 「だよね。ありえないよねー。メフィストとか、生贄要求してくるはずだし、どうしようかねぇ」

 小屋の中にズカズカと入ってきたリトは、困ったような表情を浮かべて、木で作られた椅子に腰かける。

 必要な材料はどれも難易度の高いものである。

まず、《ウインディーネの涙》は、満月の夜に現れる水の精霊王の涙の事をさす。精霊の涙は、結晶化すればかなり高価なものだ。普通の一般的な精霊の涙でさえ手に入れるのは難しい。その精霊王の涙なのだから、手に入れるのは厄介なものである。

 ファイアードラゴンは、魔物の最上位に当たるものである。ドラゴンは死ぬと共に体中の魔力を心臓に集め、結晶化する。その結晶の事をさすのだろう。

 ホワイトウルフとメタルキングスライムは滅多に現れない生物であり、倒すのはともかくとして、見つけるのが大変だ。

 最後に、まず禁術の本は一般的に見る事が出来ない。メフィスト召喚で召喚した悪魔は生贄をささげないと命令を聞いてくれないものである。

 「生贄って何がいいわけ?」

 「やっぱり、生物かな。過去の例を見ると人間の魂とかだったみたいだよ。どうしようかねー」

 「魂か」

 リトの言葉にんーと頭を悩ませるライア。

 「そうそう。でも、関係ない人差し出すのも何か気分悪いしねー」

 「とはいっても、国のお偉いさん差し出すのは呪いで多分無理だろ」

 「だよね。アイツらが一番ウザイから此処はもう生贄にするなら王様たちがいいかなって思ったんだけどなぁ…」

 残念そうに物騒な事を呟く、リトである。

 翻訳のアイテムは、それだけ作るのが難しいのだ。他のものはともかくメフィスト召喚に関しては、色々と悩む所である。

 「……いっそのこと聖剣と魔剣の聖女と魔王差し出すか。前の。アイツらの魂ならメフィストも言う事聞いてくれる気が」

 ライアの提案は常識では考えられないようなものであった。

 人間からすれば神にも等しい存在である聖剣に宿る聖女と魔族にとって圧倒的な力を持つ元王である魔王――その魂を生贄として差し出そうなどと口にしているのである。

 まともな人間が居たならば真っ先に止めた事だろう。

 しかしこの場に居るのはライアとリトという常識外の存在だけである。

 「でも、それって呪いで出来なくないかな?」

 「いや、聖剣と魔剣は国ってわけじゃないし、行けるんじゃないか」

 そんな事をいいながらも、ライアは呪いについて考える。

 ――呪いは確か、国に反逆する、逆らうといった行為を邪魔するのが呪いである。まさか人間界と魔界の重臣たちも俺達が聖剣と魔剣を差し出すとは思っていないだろうし…。

 リトはライアの言葉に同意するように頷く。

 「そうだねぇ…。アイツら元聖女とか元魔王だとはいっても、所詮魂だけだし、剣である以上一人で好き勝手はできないらろうし…、行けるかも。試してみる?」

 「そうだな…。失敗したら色々面倒だから一種の賭けだけど、やってみるか。でも、その前にメフィスト召喚以外のものを全部集めにいかなきゃだな」

 とりあえず、メフィスト召喚の生贄については置いておくことにしたライアはそういってリトを見据える。

 二人ともそりゃあ、必死である。この世界に居るのは二人ともうんざりなのだ。

 自分たちの力が異常であることなんてとっくの昔に理解しているけれども、親友と殺し合いなんてさせる世界に居たくないのだ。

 「精霊は、魔族の事結構嫌ってるから、僕は無理」

 「確かにそうだな…。俺一応『勇者』だし、俺が頼めばなんとかなるだろ」

 ベッドに座っているライアと、その真正面に立つリトはそうして会話を続けていく。

 精霊というものは、人間界で神のように扱われている摩訶不思議な存在である。人間には無条件に力を貸す心優しい存在だと知られている。そんな精霊は魔族の事を驚くべきほどに嫌っている。

 ちなみに人間界の召喚魔法は精霊の力を使って行われている。魔界では、妖魔という存在が力を貸している。

 妖魔は人間を嫌っている人外で、『魔王』が『勇者』を倒すためにならいくらでも力を貸す存在なのだ。

 「うん、お願い。リアダーツの洞窟とパキャラ山は魔界だし、僕が行くよ」

 「じゃあ、アルターツ草原の方は俺が手に入れてくる。でも、《ファイアードラゴン》相手に一人で行けるか?」

 「んー、確かに試した事はないけど…。僕とライアなら一人でも行けると思うよ。魔界に居るドラゴンを倒したっていう魔族結構弱かったし。無理ならすぐに転移で逃げるし、大丈夫でしょ」

 「そうだな…」

 材料である魔物は全て、一般人にとっては脅威であるというのにこの二人は特に脅威には感じていない。

 翻訳のアイテムなんて普通の人は材料を聞いただけで諦めるようなものである。それをこの二人はやろうとしているのだから、よほど逃亡したいという思いが強いのだろう。

 「でも翻訳具ってさ、二個作れるかな?」

 「あー、二人分だもんな。となると、《ファイアードラゴン》二体か…」

 「そうだねー。気合いれて私は二体狩ろうかなー」

 「つか、となると《ホワイトウルフ》と《メタルキングスライム》も二体狩るべきか」

 「そうだね。それに失敗した時のためも含めていっぱい狩った方がいいんじゃない?」

 「確かに…、しかし、あのバカ共の目をどれぐらいごまかせるか…」

 「そうだよね。僕の闇魔法で作った影武者にも限界があるだろうし、外出時間が長ければ長いほど疑われる」

 「だよな。俺の光魔法でも作ったのも長すぎたら疑われるからな」

 二人してそういって考え込む。

 ちなみに『魔王』は闇属性に優れていて、『勇者』は光属性に優れている。

 もちろん、他の属性が使えないわけではない。ただ相性が一番いいのが、彼らにとって闇や光なのだ。

 魔法により影武者を創るという事に成功してから、二人は影武者を置いて抜け出しているのだ。

 しかし魔法は万能ではなく、限界があるのだ。それは時間が経過すれば消滅する。何より戦闘中に影武者を出現されていると、集中力が切れて下手したら影武者が消えるかもしれないのだ。

 「少しずつ地道にやっちゃう?」

 「だな。つか、材料集めるのはいいけど、作るための場所とかもねーよな」

 「……此処に頑張って作る?」

 「そうだな…。それが一番だろう。周りに勘ぐられると色々めんどくさい」

 翻訳具である《翻訳の腕輪》を作るための場所も作らなければいけなのだ。まだまだ二人の逃亡するための道のりは長い。

 二人して面倒だなとでも言うように目をため息を吐く。

 「はー、大変だね、ライア」

 「だな…」

 「でもこの世界からおさばらしたいよね」

 「ああ」

 「二人で頑張ろうか」

 「うん、絶対この世界から抜けだそう」

 面倒だなとでも言うように、うんざりしたように、だけど頑張ろうとでも言うように、二人はそういって互いを見つめる。

 「あとは、呪い解除もしなきゃだけどそっちはどう?」

 「今ん所成果は出てない」

 「歴代の勇者や魔王を抑え込むための呪いだからね。滅多に解けないしね」

 「でも解けてもこの国滅ぼして乗っ取るとかは嫌だな。だって畏怖の対象として見られる事には変わりないし」

 「だねー。呪い解けたら出来そうだけど、あくまで僕たち平穏な暮らしがしたいわけだし…」

 二人してそんな事をいいながらはぁ、とため息を吐く。

 乗っ取るなんて真似をしたら平穏な生活なんてできない。そんなのは嫌なのだ。ただ、のんびりと自由気ままに暮らせればそれでいい。何も縛りがなく、のんびりと暮していきたいと二人は思っているのだ。

 「こっちでも解呪について調べとく。材料も少しずつ集める。異世界に渡る方法もな」

 「うん、僕も調べる。材料も集めるし、異世界に渡る情報も色々集める! 多分召喚の魔法陣を応用すれば出来るだろうし」

 「頑張ろうな」

 「うん」

 そうして、二人はより一層決意を固める。この世界から脱出しようという決意を。




 ――――――『勇者』と『魔王』は逃亡のための話し合いをする。

 (平穏に暮らしたい、望むのはただそれだけ)



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