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勇者と魔王は殺し合い中です。

 『では、これより『聖戦』を開始する』

 舞台の上で、ライアとリトが向かい合っている。ライアは『勇者』としての正装である真っ白な服を身につけ、リトは『魔王』としての正装である黒いドレスを身に着けていた。

 そしてその手には、聖剣と魔剣がある。

 二人が嫌ってやまないその二つを得物にしなければならないのだ。

 その舞台は広い。わざわざ勇者と魔王の殺し合い――『聖戦』のためだけに作られたその場は無駄に広く、無駄に豪華だ。

 舞台は結界で覆われている。

 それは周りで観戦する人間界と魔界の重役達が被害を受けないようにである。

 自分達は安全な場所にいて、『勇者』と『魔王』に殺し合いをさせる。そしてその結果で優位を決める。

 全く無関係の人が聞けば、なんて身勝手なのだろうと思えるものが『聖戦』である。『勇者』と『魔王』の意志は関係なしに、例え彼らが拒否したとしても、『聖戦』は強制されるものである。

 何故なら、『勇者』は『魔王』を殺す者であり、『魔王』は『勇者』を殺す者であるからである。それが当たり前であり、それを拒絶するものなど存在を認められない。

 理不尽で、残酷で、どうしようもない世界観――この世界の常識。

 「『勇者』様、さぁ。『魔王』を殺しなさい。ふふ、ようやく、ようやく殺せる時が来たのよ」

 ライアが握っている聖剣はそんな声をライアの心中でずっと言い続けている。

 ぎゅっとライアが聖剣の柄を握る。それを聖剣はやる気に表れだと思ったらしく、歓喜の声をあげている。

 それがライアには酷く気持ち悪かった。

 聖剣と呼ばれていても、この手に持つ剣に神聖さや清らかさと言ったものは欠片もない。聖剣という名前の付いているだけの、別の何かのようにさえ思えてしまう。

 殺せ殺せと喚く剣の何が聖なる剣なのか。

 ライアは『魔王』―――親友であるリトを見る。

 リトもまたその手には黒一色の長剣――魔剣を手にしている。

 ライアは息を吐く。仕方がないとでもいうように。

 そして、リトに向かっていった。

 聖剣を振りかざす。それをリトは魔剣で受け止める。

 しばらく、剣による攻防が続く。それが終わったのは、リトが魔法を使った時だった。

 「……っ」

 リトの魔力が渦巻いているのを知覚したらライアは自らの魔力を練り、それを相殺する。

 剣と剣が。魔力と魔力が。

 互いにぶつかり合う。

 剣は、一歩間違えれば片方の命を奪うほどに鋭く。

 魔法は、一歩間違えば体の全てが失われるほど強大で。

 そこには、手加減はない。

 それは、信頼しているから。

 例え全力でぶつかったとしても、ライアは、リトは、死なないと互いに知っているから。その強さを信頼しているから。

 だからこそ、全力だ。

 実力は同等である。寧ろ手加減をするほうが危ない。

 ライアは殺し合いを決行しながらも、リトの腕をチラ見した。

 そしてそこに無数の魔法陣が、ドレスに隠れるように存在する事を見て、思わず笑った。

 ――やっぱり、俺とリトは考える事が一緒。

 それを思うとおかしくて、だけど一緒の事を考えていた事がどうしようもなく嬉しかった。

 リトもまた思考していた。

 『聖戦』が始まってしまった事を思って。これからどうするべきかを。

 殺し合いをするリト達を見て、周りは歓声を上げながら「勝て」とか「殺せ」とか「おしい」とか、そんな言葉を口にしている。

 それをリトは酷く馬鹿らしいと思っていた。

 殺し合わせる事、そしてそれを楽しんでみている事。

 どうして冷めた気分になってしまう。

 手の内で騒いでいる魔剣にもどうしてもうんざりする。

 「『勇者』の命を奪えええええええええ」

 何か妙に熱く、妙にテンションの高い。正直ウザイとさえ、思ってしまっていた。

 剣を交え、魔法を交え、互角の攻防を繰り広げる。

 実際、ライアとリトの実力はほぼ同じなのである。例えライアとリトが『勇者』と『魔王』らしく憎しみ合っていたとしても、『聖戦』では決着がつかなかったかもしれない。

 「我らは異世界への扉を求めるだろう」

 ライアが攻撃をしてきながら、すれ違い様に言った言葉にリトは目を見開いた。

 そして、次の瞬間、笑った。

 ―――やっぱり、僕らは同じ事を考えてたんだね。

 それを思って、リトもまたライア同様に胸に温かいものを感じていた。嬉しかった。胸がわくわくした。

 だってわかりあえているという事実は、一種の奇跡だから。

 『勇者』と『魔王』――互いに特別な存在である二人にとって、わかりあえるのは互いだけだったから。

 「我らはその先に行きたい」

 メフィストを実験体にしたあの日から、一度も会えなかった。顔を見る事さえも出来なくて、その後の再会がこの『聖戦』だった。

 小さな声で、だけどそれを、リトは続ける。

 そうしている間にも殺し合いは続く。

 互いに無傷というわけではない。所々、傷跡が刻まれていく。

 幾ら本人達が互いを殺したくないと思っていたとしても、武器の意志は違う。そう、聖剣と魔剣は敵を真実、滅ぼそうとしている。

 時間はない。

 気を抜けば、どちらかの命が失われる。

 どうにか聖剣や魔剣に悟られないように、魔法を完成させる必要があった。

 「代償は魔力。我らの魔力をもって」

 ―――どうして、俺達は殺し合いをしなきゃならないのだろう。

 思考する。考えても仕方のない事を思う。

 詠唱を続けながら、ライアは冷静に今の状況を思う。

 根本的な疑問。何故殺し合わせなきゃいけないのか。『勇者』と『魔王』だからと当たり前――という理由は二人にとって理由にならない。

 憎しみ合っているわけでもなく、相手を殺したいわけではない。寧ろずっと共に居たいと思う位大切なのに。

 出会わなければ、こんなに悩む必要はなかった。

 親友にならなければ、何も考えずに殺し合いをしただろう。

 異世界に逃亡なんて面倒な事を考えもしなかった。

 言うなれば、知ってしまったからだ。自分とわかりあってくれる人が居る幸せを

 そして、望んでしまったからだ。親友と一緒に平穏に暮らす日々を。

 「その扉を、その道を。出現させよ!」

 それを口にした瞬間、リトは手に持っていた魔剣を手放した。ライアもそれを見て、聖剣から手を放す。

 右腕に描かれた無数の魔法陣が輝く中で、『聖剣』と『魔剣』は舞台の上へと音を立てて転げ落ちる。

 「な、何を――!」

 「我を投げ捨てるなんてっ」

 聖剣と魔剣の声など二人は聞いていない。只、ぽっかりと空いた異空間への扉を見て、行動に移る。

 目を交える。

 「リト!」

 ライアがリトの名を呼んだ。

 その手は、リトへと伸ばされている。

 リトは返事もせずに、只その手を掴んだ。

 離さないように、強く握る。

 そして、そのまま、二人は――――、異空間へ繋がっている不気味な真っ黒な裂け目の中へと飛び込んだ。


 その手は、ずっと繋がれたままだった。




 異空間へと飛び込んだ先―――、何が待っているかなんてわからない。怖くないと言えば嘘になる。

 だけど、それでも、怖くない。

 二人でなら、きっと何処にでも行ける。

 二人でなら、飛び出した世界がどんな世界だろうとも生きていける。

 片方が失われる事なく、共にあれるのならばきっと大丈夫。

 そう、信じてる。

 そう、わかってる。

 だから、怖くない。

 ずっと一緒に居よう。

 この命が尽きるまでずっと笑い合おう。

 二人でなら。

 なんだって乗り越えられる。

 きっとどんな状況だろうとも生きていける。



 だから、飛び出そう。

 誰も自分達を知らない世界へ。

 二人で共に生きていける世界へ。




 ―――『勇者』と『魔王』は殺し合い中です。

 (殺し合い中に、『勇者』と『魔王』は異世界への逃亡を果たした)



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