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勇者と魔王は転移魔法について考え中です。

 「リト」

 「あれ、ライア何でこっち来てるの?」

 呪いを解く事をメフィストに頼んだ数日後、特に会う約束もしていなかったというのに何故かライアが魔王城の自室に現れ、リトは驚いた声を上げた。

 ライアが魔界に今まで赴いた事は何度もある。魔界の首都で二人で遊んだ事もある。だけれどもライアが魔王城にまで足を踏み入れたのははじめての事だった。

 リトの部屋は魔王城の最上階に存在する。

 部屋の中が黒色一色なのは、リトの趣味と言うわけではなく、魔王城の人々の趣味である。

 魔王城に居るリトは漆黒のドレスを身に着けていた。基本的にリトは魔王城で『魔王』として暮らしている間、似たような格好をしている。

 「別にー。ただリトが俺の部屋に忍び込んだ事があるのに俺が忍び込んだ事ないってなんかやだったから」

 「あー、そうなの? でも大丈夫? ライアは幻覚魔法そこまで得意じゃないでしょ?」

 ベッドに座りこんでいるリトは、窓から入って来たライアを椅子に座るように促してから、そう告げた。

 基本的にハイスペックな二人だが、得意不得意はもちろんある。ライアはリトに比べて、幻覚魔法が得意ではなかった。

 ドカッと勢いよく椅子に座ったライアはリトに笑って言う。

 「確かにリトよりは苦手だけど、リト以外は騙せるぐらいは俺にだって出来るから大丈夫」

 「ま、そうだよね。まさか『勇者』が『魔王』の寝室に忍び込んでいるなんてあの馬鹿達想像もしないだろうし」

 「気づかないとか馬鹿だよなぁ」

 「そうだよねー。僕ら結構な頻度で抜け出してるけど気づいたのほぼないし」

 「まぁ、時々気づくけどその時はただ出かけただけとしか認識してないしなー」

 会話を交わす二人の空気はほのぼのしている。

 「ほんっと馬鹿だよね」

 「そんな馬鹿共の言う事聞かなきゃとかやだよなー」

 「だよねー」

 「あ、そうそう、リト。『勇者』と『魔王』召喚の詠唱って人間界も魔界も一緒なんだろ?」

 ライアがふと聞いた。

 「うん。そうっぽいね。力を借りる存在は違うっぽいけど、詠唱は一緒だよ」

 「……というか、翻訳の魔法具も人間界と魔界のものが混ざった作りだったし、元々人間界と魔界ってわかれてなかったのかもな」

 そう、詠唱は同じだった。

 力を借りる存在が精霊であるか、妖魔であるかという違いだけである。

 そして翻訳の魔法具も人間界と魔界、双方で取れる素材を半々使っていた。

 その事からライアは元々人間界と魔界は分かれてなかったのではないかと考えた。寧ろ共に暮らしていたと考える方が自然な気がした。

 少なからず互いに手を取り合った時期がなければ、翻訳の魔法具は誕生しなかっただろうし、その仮説は正しいように感じる。

 「そうかもね。でも例えそんな時期があったとしてもそれはずっとずっと昔の事だよ」

 「だな、もう歴史書に残ってないほど昔の事だよなぁ」

 「うん。だって少なからず人間界と魔界は歴史書を見る限り四、五千年は争っているしね」

 言葉にしながらもリトは何とも言えない気持ちになる。

 何千年も争い続ける意味が、リトにはわからない。争うよりも共に手を取り合った方が楽だというのにどうして争い合うのだろうとさえ思う。

 そもそもこの長い争いの始まりは何なのだろうと考えても仕方のない事を思わず考えてしまった。

 「四百年前からは一応『勇者』と『魔王』だけを戦わせてるから平和と言えば平和になってるけどさ」

 「でも相手の事蹴落とそうとしてて半端ないよねー」

 一見平和に見えるとはいっても、上層部の人々が相手の種族を蹴落としたいという欲にまみれている事を二人はよく知っていた。

 常日頃から言われ続けていた。

 ライアは『魔王』を殺せと、魔族を憎みなさいと、『勇者』の存在理由は『魔王』を殺す事にあると、魔族は敵だと。

 リトもまた『勇者』を殺せと、人間を憎みなさいと、『魔王』の存在理由は『勇者』を殺す事にあると、人間は敵だと。

 洗脳のように、ずっと言われ続けていた言葉たち。

 ライアはリトに出会わなければ、リトはライアに出会わなければ、その言葉達に押しつぶされて、正気でいられなかったかもしれない。

 きっと彼らにとって始まりはなにも関係ないのである。どういういきさつで人間界と魔界が争い合うのか、どういう理由で憎しみ合うに至ったのか。それは現在伝えられていない。ただ互いに互いを疎んでいる。

 そう、人間と魔族には『憎み合っている』という事実のみが残されているのだ。

 「よし、リト」

 「んー?」

 「折角来たから異世界に渡る魔法について考えようぜ。本持ってきた」

 「おー!」

 ライアが収納ボックスから取り出した幾つもの本を見てリトが声を上げる。

 そして二人で異世界から『勇者』、『魔王』を呼ぶ詠唱とその方法についての本を見る。

 まず異世界から人を呼ぶ魔法というのは当たり前だが簡単な事ではない。人間界も魔界も『英雄召喚』の際に使用しているのは魔法陣と詠唱である。

 そして魔力量の問題からか、大抵召喚魔法というのは二十数名もの人々の手によって行われる。ちなみに過去の文献にのっていた事によると召喚魔法には多大な魔力を使用するため、魔力を枯れ果てるまで使い死に至った術者も居るらしい。

 「やっぱ、こういうのって簡単にはいかないよね」

 「…まぁ、俺達の魔力量はメフィストからしても異常らしいから魔力面は大丈夫だとは思うけどな―」

 「でも死んだらやだよねー」

 恐れるものは特にない。とはいっても死ぬのは嫌だった。

 リトの自室の天蓋付きの黒いベッドに二人で寝転がり、仲良く本を読みながら会話を交わす。

 「魔法陣ってやっぱ必要かな」

 「多分。この本に載ってるの小さくて見にくいけどなんとか解読しなきゃなー」

 魔法陣を召喚魔法の際に使うのは、詠唱と術者の魔力だけではなたらないからだ。それだけの魔法なのだ、召喚魔法というのは。

 魔法陣は魔法を行使するのをサポートする役割にある。詠唱だけで魔法を行えないものが、魔法陣を習い、詠唱と魔法陣を使用し魔法を構築する。

 ライアとリトは正直魔法陣を使う必要性が今までメフィスト召喚のあの時以外一度もなかった。だってそれだけの才能と力が彼らにはあったから。『勇者』として、『魔王』として、与えられた力は強大で、どんな難しい魔法でさえも魔法陣も詠唱もなしにほとんどが使用する事が出来たのだ。

 「実際に魔法陣見に行けたらまた変わるんだけどな」

 「見に行く?」

 ライアの言葉にリトは軽い調子で問いかけた。

 「…見に行けるか?」

 「んー、確か召喚の魔法陣って人間界の聖なる森と魔界の魔教会の本部の地下にあるんだよね?」

 「俺達に入って来た情報が間違いではなければな」

 召喚に使われる魔法陣は、どういう技術を使っているか知らないが数千年前に特殊な方法で描かれた魔法陣を未だに使っている。おそらく、召喚陣を書く技術は現在の人々にはない。そのため、ずっと同じものを使用しているのだろう。

 技術とは案外伝わらないものである。

 そしてその魔法陣は人間界の西南部に存在する聖なる森と呼ばれる精霊溢れる地に存在している。

 「……俺聖なる森苦手なんだよなぁ」

 「何で?」

 「精霊が寄ってきてウザかった」

 ライアは『勇者』として何度か聖なる森に連れていかれた事がある。

精霊たちは何故か無条件に『勇者』という存在を異常に気に入っていた。それこそ、不自然に思うほどに。

 精霊は人知を超えた存在であり、そんな存在に気に入られる事は一般的に喜ばしい事である。しかしだ、ライアは寧ろその好意が不自然で、不気味で、逆に精霊が好きではなかった。

 「あー…それわかる。僕も魔教会に行くと神扱いされるし」

 「そういえば魔教会にとって『魔王』は神扱いだっけ」

 「うん。僕を信仰しているとかアホでしょ」

 「そうだよな。リトは神とかそんなものじゃなくて普通の女の子なのになー」

 「それを言うならライアも『勇者』とかそんなもの抜きに普通の男の子だよー」

 リトもライア同様に魔教会という場所が苦手であるらしかった。魔教会は『魔王』を神として崇拝している非情に危険で、思い込みの激しい宗教団体である。何処の世界でも宗教というのは恐ろしいものである。

 自分を神として扱い、よくわからない思い込みで話しかけてくる魔教会の面々はどうも不気味で苦手なリトである。

 『勇者』である以前にライアは一人の人間。

 『魔王』である以前にリトは一人の魔族。

 そう、そんな当たり前の事を周りは決して理解しない。自分たちとは違う存在だと、そう言葉で、態度で知らしめる。

 「でも一回行ってみたらいいかもね。何かわかるかも」

 「だな、どうにか忍び込むか」

 「…単独でなら普通に言えば通してもらえると思うけど」

 「あ、そっか」

 リトに言われ、ライアが今更気づいたといった顔をした。

 何故か忍び込む事を考えていたライアだが、普通に考えれば『勇者』が『聖なる森』に向かうのも、『魔王』が魔教会に向かうのも不自然ではない。

 「でもさ、正直リトと一緒に魔法陣見に行きたいんだよな」

 「僕もそうだけどさー。流石に『魔王』な僕が聖なる森に入るのは厳しいからなぁ。確実に精霊にばれるし」

 「まぁな。『勇者』である俺も魔教会に行くのは厳しいか…。やっぱ別々に見にいくしかないか」

 「そうだねぇ」

「そういえばさ、疑問なんだけど」

 「ん?」

 「妖魔って、普段何処にいるんだっけ」

 ライアとリトは横に並んで、寝転がっている。

ちなみにライアはこんなのんびりしながらもきちんと周りに『勇者』が此処に居るとバレないように幻覚魔法を行使している。

 「妖魔は、妖しの森に居るはず」

 「……妖しの森って名前そのまんまだよな」

 「うん」

 正直なところを言うとリトも妖魔については詳しくない。妖魔は精霊のように人間達に好んで関わってこないのである。リトも妖魔の姿を見た事は今まで一度か、二度である。

 そんな謎な存在である妖魔の住処は妖しの森と呼ばれる名前そのままの森である。その名の通り妖しい雰囲気のある、常に霧の充満している不気味な森である。

 「何で人間界では聖なる森に魔法陣あるのに、魔界には妖しの森にあるわけではなく魔教会の本部にあるんだ?」

 「さぁ?」

 「そもそも精霊と妖魔って不気味だよな。何考えて召喚魔法に力を貸してんのか」

 召喚魔法は、精霊や妖魔が力を貸して行われる。そんな人外の力を借りておきながら犠牲の出るというのを考えてみると府に落ちない。

 何故、精霊や妖魔は力を貸しているのか、それは考えても仕方のない事だけれども疑問だった。

 「何でだろうねー。もしかしたら何か思惑があるのかもしれないよ。それか、精霊や妖魔に利益が出るのかもしれないし」

 「んー、わっかんねーな」

 「うん。でもとりあえず召喚の魔法陣見に行こうよ。そしたら少しはわかるはず!」

 仮にも彼らは魔法のプロと言える実力を持っている。生で魔法陣を見る事でわかる事があるはずだと、そう思うのだ。

 「じゃ、魔法陣の事は見に行くと調べるしかないとして、詠唱はどうする?」

 「んー、まず召喚魔法って異世界から人を呼ぶものでしょ。なら、逆にしちゃえばいいんだと思うけど」

 「逆にした所で簡単にできるか?」

 「一回詠唱してみて考えればいいよ。何かあればフィスを実験体として突っ込ませればいいし」

 さらっとリトは酷い事を言っていた。

 まぁ、確かにメフィストは大悪魔と呼ばれるだけの存在であり、ちょっとしたことで死にはしないだろうが、本人が聞いたら全力で嫌がる事だろう。最も嫌がっても二人によって強行されるだろうが。

 この二人、決して優しくはない。

 よく言えば自分自身に素直であり、悪く言えば自己中である。

 基本的に互い以外はどうでもいいため、メフィストを実験体にする事に躊躇いは一切ないようである。

 「あ、それいいな」

 「うん。だよね。とりあえず詠唱は色々逆にした良さ気なのを考えようよー」

 「ああ」

 二人は頷いて、また召喚魔法についての会話を始まる。

 二人でも余裕で眠れるようなふかふかのベッドに寝転がり、仲良く喋る。その体の距離は密着していて、やっぱり何処からどう見ても彼らが『勇者』と『魔王』には見えない。

 でも、彼らは生誕『勇者』と生誕『魔王』―――殺し合う事を定められた存在。

 運命とは残酷なものである。

 だけれども二人は決して悲観などしていない。どんな状況だろうとも何処か前向きで、悲観にくれる事がない――まぁ、それは互いの存在があるからも一つの理由だろうが。

 今、二人が共にあるのは、ある意味奇跡である。

 決して相容れないはずの存在であった『勇者』と『魔王』が、偶然出会い、親友となった。互いに世界でたった一人だけ、自身を理解できる存在となった。

 「――よし、リト、俺そろそろ帰る」

 ライアはそういいながら起きあがる。

 「うん。そうだね。結構長い時間居たもんね」

 「じゃ、俺は聖なる森に行ってみるからリトも魔教会あたってみてくれよー」

 「オッケー。じゃ、次に会う時は何かしら成果が出てる事を祈ろうかねー」

 「誰に?」

 「自分自身にー。僕神とか信じてないもん」

 「それいいなー。じゃ、次に異世界転移のために何か成果が出ている事を祈って」

 そういって二人は別れた。




 ――『勇者』と『魔王』は転移魔法について考えます。

 (幾ら最強だからといっても、異世界に渡る魔法というのは難しいものです)



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