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オネェ、襲来

 鐘を鳴り響かせ勢い良く入ってきた人物の情報量に、頭が追いつかない。


「ちょっと! ここで居なくなってンのはわかってるのよォ! 早く返してちょうだい!」


 私達を無視し、入ってくるなりみつの所にドカドカと足音を響かせて近づいてきたのは、そう……山伏?のオネェ?? 全部に疑問系が入るのは、私がその二つを良く知らないという事と、その二つが合体したこの人物が本当にその二つの要素を持っているのか、私には判断つかないからだ。

 私だけでなく、鷹也もぽかんと見上げている。

 みつも呆れたように眉をよせ、その人物を見ることしかできないようだ。

 その人物はこめかみに青筋を立てたまま、ついにみつの座っているソファーの後ろに来た。座っているからかな、結構な大柄に見えるんだけど、顔は整っているようだ……化粧もしてるようだし。


「あんたね! あれは大事なカラスちゃんなのよっ。どこにやったの!」

「……不躾な使いが来たと思ったら、その主人はもっと不躾だった」


 みつが独り言のように呟く。呆れて口があいているみつなんて、珍しいものを見た。

 言われた人物は、ふんっと鼻をならした。


「何よ、文句でもあンの?!」


 大いにあると思う。

 おおいばりで、腰に手をあてた人物を良くよく見てみる。服は、白と茶色のボンボンがついてる多分山伏っぽい、と思われる服だ。髪は短髪で少し茶色がかっているが、なぜか右の横髪だけ長く垂らしている。結んでいる紐が赤いのがさすがというか、なんというか。顔は、多分男前の部類に入るのだと思うが、ばっちりメイクして多分つけ睫しているので、もう、オネエにしか見えない。キレイにお化粧してるけど、顔の骨格や頬骨の高さが絶対女の人ではないから…。

 私が現状を受け入れようと、その人物を観察している間にも、みつとその人との不毛なやりとりが続いていた。


「私、負けたのに直接取り返しに来る人、始めてみたヨ」

「負けてないわよゥ! なンの勝負か知らないけど!」


 みつがびっくりした顔をした後、頭痛そうに額に手をあてた。


「……しきでしょ、あのからす。それが、違う人間の所で消えたって事は、その人間の方が力が上ってことでしょう」

「はァ? おシショーさまのヤタちゃんがあンたみたいな小娘に負けるわけないでしょ!」


 その勝ち誇ったような様子に、またみつが頭痛そうに手で顔を覆った。……なかなかの人物のようだ。


「アラ? あなた……」


 と、ようやくここで私達の存在に気づいたように、その人物が私、ではなく鷹也を見た。怪訝そうに、まるで意外な場所で知人に似た人を見たような顔をしていた。

 見られた鷹也は、何だろう、身の危険でも感じたのか、ちょっと身を引いて恐ろしいものでも見るようにその人物を見上げていた。仕方ないね。


「とりあえず、私もこんなの要らないしとっとと持ってかえ……あ」


 面倒くさそうに言ってる最中に、みつは何事か思いついたように、その人物を見た。


「ねえ、えーっと……烏、返して欲しいでしょ? だったら一つ言う事聞いてくれない?」


 その人物になんと呼びかけていいのかわからなかったようだが、その人はみつを振り返った。嫌な予感がしたのだろう、凄く嫌そうな顔で。


「何よゥ」


 それに対してみつは、にんまりと目を細めていやらしく笑った。


「そんな格好してるって事は、山に詳しいよね? この服の持ち主、見つけてきてヨ」

「はぁあああ?!」


 素っ頓狂な声をあげ、その人物は血相を変えた。両手を腰にあてて首を振る。


「なンでアタシがそんな事しなきゃならないのよッ! 嫌よ!」

「じゃあ、返してあげない」


 ニヤニヤと余裕をかましながら、みつはあくまで強気に出る。その人物は怒りを全面に表していたが、言葉が出てこない。どうやらこの場では、本当にみつの方が立場が上らしい。


 沈黙が流れた。

 が、やがてぎりぎりと歯軋りが聞こえてきそうな顔をしていたその人物が、バッと右腕を動かし、人差し指をみつに突きつけた。


「こンの性悪女! あンたがその気なら、コッチだって考えがあるんだから! 明日正午、おシショーさまを連れてくるから、正々堂々と勝負しなさい! 勝ったら返してもらうんだから!」


 性悪女。そんなどストレートな言葉、久しぶりに聞いたなあとどうでもいい所で感心してしまった。今のみつの顔には、お似合いの言葉だが。

 その人物は、みつの言葉を聞くこと無く、それだけ激しく言い捨てて、ドスドスドスと扉に向かっていった。扉を閉める瞬間振り向いて、フンと鼻を鳴らして案外ソフトに扉を閉めて出て行った。

 嵐のようだったと、思った。

 みつを見ると、はぁあ、と深いため息をついてより深くソファーにもたれかかった。もう三分の一寝そべっている。

 ここまで、蚊帳の外で一言も言葉を発しなかった鷹也を見ると、あの人物が入ってきた時と同じようにぽかんとしていた。あんまりにも状況がつかめなさ過ぎて、脳の処理が追いついていないようだ。その気持ち、すごく良く理解できるわ。


「ごめんなさいね。何だか騒がしくて」


 鷹也を労わるように声をかける。他人が自分以上に混乱していると、自分の立ち直りが早くなるようだ。

 声をかけられた鷹也は、ビクッとした後、焦点を合わせて私を見た。まだ少し呆けているようだが、だいぶまともに思考できるようになったようだ。


「いや…。知り合い、なのか」

「知り合いなわけないデショ。金輪際この事務所に来て欲しくないヨ」


 みつが、ソファーに深く身体を預けたまま、ピシャリと言い放つ。結構、ご立腹なのかしら?


「……まあ、変な闖入者がいたけど、一応キミの弟は探してるから。まだハッキリいえないけど、多分、また加賀士山にいる、と思う。何処かまでわかったら良かったんだけどね」


 みつが、鷹也を安心させる為にか、いつもより優しい口調で言う。何より、あんまり自信が無い情報は言いたがらないみつが喋ったということが、鷹也に対する優しさなのだと思った。


「だから、今日の所はとりあえず帰りな。何か進展があったら、教えてあげるから」


 みつが、ゆるやかに右手を振った。鷹也は何かを言いたそうだったが、それをグッとこらえて、頭を下げた。見た目は怖いが、やっぱり良い子なんだなあと、思った。

 心配そうな目で扉に向かう鷹也を、みつはもう見てなかった。







 鷹也が帰った後、みつに温かい茶をいれなおした。


「ありがと~」

「優斗くんは、あの山にいるのね?」


 私が声をかけると、みつは茶を啜りながら、うん、と呟くように返事した。


「ねえ、みつ。あの山の水が、瀬尾さんの河に注いでいるのよね。瀬尾さん、何か知らないかな。水関係の妖怪なんでしょう?」


 私の提案に、みつはまたお茶を啜った。が、こちらを見ない。


「う~ん、どうだろう」


 何となく、あんまり行きたくないような感じだ。あの場所が遠いからか、瀬尾さんにあんまり会いたくないからか。良い人?なのに。


「いや?」


 私のその言葉に、ようやくみつが私を見た。困ったレトリーバーのような顔をしている。


「嫌、じゃないけどぉ。あんまり、あっちと交流するのは良くないなあ、とは思ってるよ~」


 主語が私の事なのは、何となくわかった。みつが、専門家がそう言うのなら、そうなのだろう。具体的にどんな悪い事があるのかは(怖くて)聞かないが。

 そう…、と少ししょんぼりした声を出してしまったのは、仕方のないことだと思う。そんな私を見てだろうか、みつが苦笑しながら私を見上げた。


「かおちゃんは、優しいね」


 今までの会話で、優しい成分どこにあった?!


「……まあ、何かしらは知ってるだろうし、明日行ってみようか」

「いいの?」

「まぁね」


 みつは苦笑したまま、私を見て頷いた。


「でも、かおちゃんやけに瀬尾の事気に入ってるんだね?」


 私を見たまま、不思議そうに首を傾げるみつ。そうだろうか? みつにはそんな風に見えるのだろうか。


「そうねえ。綺麗な人って、見てて目の保養になるっていうか、仕草も綺麗だから、見てて飽きないっていうか…」


 私が考えながらテキトーな事を言うと、みつはとたんに頬を膨らませた。


「みつだって、そんじょそこらの人間より綺麗だもーん! 仕草だって、こう、やろうと思えば綺麗にできるもん!」


 拗ねたように頬を膨らませそんな事を言うみつに、ビックリしてしまった。大の大人が何を言ってるんだこの人。今度は私の頭が痛くなってきた。


「……そういう事、自分で言う?」

「だって、かおちゃんがぁ」

「はいはい。変な所で張り合わないでください。第一、みつは人間で、あの人は妖怪なんでしょう? 比べるのは変じゃない?」


 私の言葉に、みつは頬を膨らませるのをやめ、唇を尖らせた。全く、この探偵先生は何を考えているのやらさっぱりわからん。


山伏系オネェという新しい可能性(無い)

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