明けましておめでとうございました
松の内すら明けそうな時にアップする勇気!
ー正月某日 神凪 薫 宅ー
去年も、色々あったなあ。
正月の長い休み、布団でゴロゴロしながらふと思い出していた。
寒い雨が降った春の、狐騒動。
珍しい絵を囲んだ納涼怪談inフジさんのお寺。
どこまでも優しい人形。
何年も、何百年も終わらない愛を続ける夜の住人。
朱映える山に連れ去られた幼子。
それ以外の普通の、といっては失礼だが依頼人達。勘違いや本物や、みつだけで行った件など、色々、いろいろ。
そういえば、去年は大きなことが一つあったんだった。そう、玉葉くんという新しい従業員が増えたこと。
此方の住人ではないので、省エネの為にいつも寝ているが、みつと二人の時より少しだけにぎやかに楽しくなった。私に何かありそうなときは、あの小さな身体で守ってくれようとするし、とても可愛い小さい護衛。玉葉くんにも、色々あったんだと思う。二人は詳しく話してくれないけれど、春の狐騒動の大本にいた狐は、玉葉くんが友達になりたかった狐だという。何も思わないハズがない。それでも変わらず良い子の玉葉くんは、スゴイとおもう。私ならグレてしまいそうだ。
そうだ、また今年も玉葉くんに何かあげたいなあ。去年あげた油揚げはみつとの、食べない飲まない買わないの約束をした後こっそり聞いたら、申し訳無さそうに、姉にあげたと言っていた。すごく美味しそうだったから、姉さんと隆盛さんに食べて欲しくて、と。……なんって良い子だろうか! 油揚げぐらい何個でも何十個でもあげたのに、いじらしいというか健気というか。まあ、とにかくまずい事にならなくて良かった。
でも、それなら今年はどうしようか。
マルちゃんとシロくんも、去年はモンプ○をあげたけど、その後も遊びに来てくれるたびにふるまっていたら、マンネリな感じがしてきたし……悩むわ。
そんな事をつらつら考えていたら、
プルルルル…プルルルル…
携帯電話が鳴った。電話なんて、祖父母か勧誘からしかないが、今日は違った。ディスプレイを見ると、
『不破探偵事務所』
やっぱりという思いと、少しのドキドキを織り交ぜた心で、電話をとった。
「はい、神凪です」
「あ、かおちゃん。明けましておめでとー。良かったら、今年も来ない? あ、お休み中だし、忙しかったら大丈夫なんだけど」
思ったとおり、みつからの電話だった。今年も、祖父母に挨拶に行ったきりダメ人間をしていたので、ちょっと考えるそぶりを見せながらも、了承した。
「明けましておめでとうございます。そうね……行っても良いわよ。一時間ぐらいかかるけど」
「うん! 大丈夫だよ、じゃあ、待ってるね!」
みつの弾んだ声の後ろから、笑い声が聞こえたのは、きっと気のせいじゃないと思う。少し急ぎ目で支度を済ませ、家を出た。一人で暇をしている時に、誰かに誘われるのは、悪くないと思う。
少し急ぎ目に手抜き準備して出かけたおかげで、今年は一時間より早く到着する事が出来た。布団から出るのは、やっぱり勇気がいったが、その先に可愛い子が待ってるとわかっているので頑張れるのだ。もちろん、みつの事ではない。
カラン、コロン
いつも通り、軽やかな音を鳴らすドアを開けると、
「あー、やっと来たにゃ! マルずっと待ってたにゃ!」
可愛らしい声と共に、可愛らしい猫耳を生やしたマルちゃんが駆け寄ってきてくれた。
「あけましておめでとー、にゃ」
「マル、こら」
その後ろを追いかけて寄ってきてくれた、猫耳を生やしたシロくんが、マルちゃんの差し出した両手をペシリと叩いた。
「かんにゃぎさん、あけましておめでとうにゃ。今年も宜しくですにゃ」
改めて向き直り、私に向かってペコリとお辞儀をするシロくん。それを見て、マルちゃんもペコリと、よろしくにゃ、と言って頭を下げた。ああ、もうなんて可愛らしいんだろう!
「明けましておめでとう、二人とも。こちらこそ、よろしくね」
ペコリと私も頭を下げる。顔を上げて目が会うと、自然と笑みがこぼれる。可愛いって正義だなあ。
「私が一番先に年始の挨拶しようと思ってたのに、もー」
そんな私達を、奥からみつが背を丸めながら見ていた。いつまでも玄関口に居るのも寒いので、コートを脱ぎ、中に入りながら、突っ立っているみつを見た。私と目が合うと、にへらと笑う。
「明けましておめでとう、かおちゃん。今年もよろしくね」
「明けましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
みつの前まで行き、改まってお辞儀をする。と、みつもぺこりとお辞儀を返した。
「また、かおちゃんと一年を迎えられて嬉しいよ」
「ありがとうございます」
みつの恥ずかしい言葉を肩を竦めながら聞き流し、居るはずの金色のモフモフを探す。と、来客用のソファーの上にいた。ピョコンと耳を立てて、こちらを伺っている。いそいそと近寄ると、ぱたぱたと尻尾を振って立ち上がった。
「あけましておめでとう、玉葉くん」
「あけましておめでとう、神凪さん。良い年になるといいね」
金色の狐は、ニコッと笑ってそう言ってくれた。ああ、なんて良い子!
と、感動していると、
「たまははそっちのまま遊ぶにゃ? かんにゃぎさんが来るまで我慢したから、もう遊んでもいいよね兄上!」
マルちゃんがもう我慢できなとでも言う風にこっちに突っ込んできた、と同時に猫に戻って玉葉くんに突っ込んだ。勢いがあったし、わき腹にもろに突っ込んだが、大丈夫なのだろうか。ハラハラと見ていたが、玉葉くんはどこ吹く風で、ビックリしただけのようだった。頑丈っ。
「マル! 迷惑かけないって父上と約束してきたにゃ!」
シロくんも、たしなめながらもウズウズしているようだ。みつを目で探すと、もう自分の机という安全地帯で溶けていた。
「事務所の中の物壊すんじゃないヨー」
それ以外は我関せず、とでも言いたげに手を上げた。いやしかし、この事務所は猫と中型犬が遊べるスペースなんて無いと思うんだけど、大丈夫なのかしら。ちょっと不安になりながら毛玉達を振り返ると、もうシロくんも猫の姿になってプロレスごっこを始めていた。しっかりしてるし、猫の王様といっても、まだまだ子供なんだなあ。何だかほっこりしながらその様子を見つめていたら、みつが、かおちゃん、と私を呼んだ。
何だろうと思い、荷物を自分の机の上に置いて、みつの方に行った。
「なんですか?」
「あそこに居たらあいつらに引っかかれちゃうよ。そんな事より、はい、コレ」
みつが机から取り出したのは、白い和紙を切って作った、これは人形?
「お守りの代わり。良かったら部屋に飾ってみて、悪い事を身代わりになってくれるよ」
丸い頭に、着物を広げたような形の身体。神社で売ってても買わないだろう微妙な可愛さだが、くれるというのなら、ありがたく貰っておこう。
「ありがとうございます。でも、私何も持ってきてないわ。ごめんなさい」
玉葉くんとシロくんマルちゃんのお年玉の事で頭が一杯だったから……って、みつは良い大人じゃないか。最初からお年玉とか考えなくてもいいんじゃないか。そうよね?
そんな私の考えを見透かしたのか、みつが苦笑した。
「気にしないで。みつがあげたかっただけだから。それに」
そこで一旦区切って、私を見て、にぎやかにプロレスごっこをしている三匹を見て、柔らかく笑った。
「楽しい日々を貰ってるもの。私は充分、色々もらったよ」
それは、本当に満足しているような笑みで。不覚にも、ジーンとしてしまった。それは私も、いや私が言いたい事だ。こんなにも心穏やかに過ごせ、可愛く良い子に囲まれる僥倖なんて、そうそう無いと思う。
「わ、私も、色々、貰ったわ。ありがとう」
全然、思ったことの一割も伝えられなかったけど、みつは嬉しそうに笑った。それにつられて、私も笑っていた。
一年の始まりが笑顔なんて、素敵じゃないか。
向こうでは、楽しそうに三匹が転げまわっている。
来年も、ここで笑顔で迎えられたら良いなあ。
心から、そう思った。
おわり。
マル「たまはの尻尾は、何本まで増えるのにゃ?」
たまは「最高は、9本らしいよ。そこまでいくのはほとんどいないけど」
マル「きゅう、ほん……」
シロ「……そんなにいっぱい生えたら、引くにゃー…」
マル「さすがのマルも引くにゃー…」
たまは「えっ、九本かっこよくない?!スゴイ強い証しなんだよ?」
「「引くにゃー…」」
たまは(この子達のかっこよさの基準がわからない…)
みたいな異文化交流的な感じで今年も宜しくお願いします!ww




